浅野は昨年、サンフレッチェ広島のスーパーサブとしてブレイク。途中交代が多く出場時間は少なかったが、持ち前のスピードを生かし8ゴールを挙げた。 ※写真と本文は関係ありません

リオ五輪代表FWの浅野拓磨が、イングランドプレミアリーグの名門、アーセナルに移籍--。

このビッグニュースを、驚きをもって迎えたサッカーファンは多いだろう。確かに浅野は、リオ五輪アジア予選やサンフレッチェ広島での活躍によって注目されるようになった選手。しかし、A代表ではまだ5試合1得点と実績のない浅野が、ワールドクラスがそろうアーセナルで通用するのか。そんな疑問が生まれるのは当然のことだ。

アーセナルと日本人選手の間には負の歴史もある。2001年にレンタルで入団した稲本潤一(現・札幌)が在籍したのはわずか1年。チャンピオンズリーグ出場を果たすもリーグ戦で出番はなく、翌年からはヨーロッパのクラブを渡り歩いてキャリアを積むこととなった。

また、10年の12月にアーセナルと契約した、当時高校3年生だった宮市亮も記憶に新しい。イングランドサッカー協会の規定により労働許可証の発給が認められず、オランダのフェイエノールトに半年間のレンタル移籍。11年に労働許可証を取得したが、度重なる故障もあってアーセナルではリーグ戦1試合と国内カップ戦2試合の出場に終わった。在籍中はレンタル移籍を繰り返し、昨夏に契約解除となって、現在はドイツ2部のザンクト・パウリで復活を目指している。

そんな過去があるにもかかわらず、またしてもアーセナルは日本の若手選手を獲得した。しかも今回は約5億円ともいわれる移籍金が発生した移籍。日本人からしてみれば「なぜ?」と不思議に思うところだが、アーセナルの全権を握るアーセン・ベンゲル監督にとっては、特に奇策を打った感覚はないだろう。

ひと握りの選手が大成してくれれば御の字?

サッカー界の青田買いはベンゲルが元祖ともいわれ、90年代後半から続けてきたお得意の手法。これまでアフリカ系の選手を中心に世界中から無名の若手を毎年ノーリスクで獲得し、「そのなかのほんのひと握りの選手が大成してくれれば御の字」という補強戦略を続けているのだ。

また、今回の移籍で広島に支払った約5億円という移籍金も、年間総売り上げが約467億円(14-15シーズン)の彼らにとっては小金の範囲。それもあり、今回の浅野獲得も現地で疑問の声は上がっていない。

とはいえ、日本の現在のFIFAランキングや浅野の代表における実績が、労働許可証の発給条件を満たしていないという現実もあり、即、アーセナルで活躍する可能性は低いとみていい。実際、ベンゲル監督も「これから2年ほどでさらに成長してくれることを期待している」とコメントしているように、おそらく初年度はほかのリーグにレンタル移籍をさせて経験を積ませることになるだろう。

浅野は7月18日にロンドン入りし、メディカルチェックと契約を済ませ、五輪代表チームに合流。メダル獲得を目指してブラジルでキャンプに励んでいる。浅野にとってのウルトラCは「リオでメダル獲得→特別に労働許可証発給→アーセナルで活躍」という道筋だ。仮にそれが実現しなかったとしても、レンタル先でしっかりと実績を積んだ稲本のように、長きにわたってヨーロッパでキャリアを積み重ねられる選手にまで成長を遂げてほしいところだ。

(取材・文/中山 淳)