ネイマールをはじめ、優勝に向けて選手の顔ぶれは充実するブラジルサッカー代表。凋落と混乱を振り払う活躍で国民に希望を与えることができるか

いよいよ8月4日に幕を開けるリオデジャネイロ五輪の男子サッカー。目下の優勝候補筆頭は、今大会のホスト国ブラジルだ。

世界的スーパースターのネイマールをオーバーエイジ(OA)枠で招集するなど、“本気モード”で初の金メダル獲得を狙っているため、戦前の予想がブラジル優位に傾くのは当然の流れといえる。

ところが、地元ブラジルでは楽観的な声は意外と少ない。最近のブラジルサッカーの凋落(ちょうらく)ぶりに加え、現在のブラジルサッカー連盟(CBF)の混乱ぶりから、金メダル獲得に黄信号がともっているというのが実情なのだ。

これまで、長きにわたって自他共に認める“世界最強チーム”だったブラジル。その潮目が変わったのは、地元で開催された2014年W杯準決勝のドイツ戦だった。国民を失意のどん底に陥れた「1-7」という歴史的大敗を機に、サッカー史におけるブラジル神話が完全に崩壊。全世界の人々がブラジル代表の無残な姿を目撃したことで、以降、対戦国に「ブラジルは弱い」という意識を植えつけることになってしまった。

その影響は昨年10月にスタートした18年ロシアW杯南米予選にも表れている。ブラジルは過去20大会のW杯すべてに出場している世界唯一の国だが、初戦でチリに完敗すると、その後も調子が上がらず2勝3分け。現時点で10チーム中6位に甘んじ、プレーオフ出場権の5位にも届かないという危機的状況にある。

さらに、先月行なわれたコパ・アメリカでも、格下エクアドルに無得点ドローを演じたほか、ペルーに0-1で敗れてしまい、29年ぶりのグループリーグ敗退の屈辱を味わうこととなった。

ミカレの監督就任は、やむをえない人事

この惨敗を受け、CBFはリオ五輪でも指揮を執る予定だったドゥンガ代表監督を解任。後任として国内で数々のクラブを率いたチッチ監督を抜擢(ばってき)し、A代表とリオ五輪の指揮を任せる手はずを整えた。

ところが、チッチがA代表のみの指揮をかたくなに主張した結果、CBFは期限ギリギリでU-20代表を率いていたロジェリオ・ミカレを五輪代表監督に就任させるという道を選択したのだった。

しかし、このミカレは地元ブラジルでもほぼ無名で、昨年のU-20W杯準優勝という実績以外に特筆すべきものが何もない未知数の監督。さすがにこの人事には疑問の声が上がったが、一方で現在のCBF幹部の腐敗と混乱ぶりから「やむをえない人事」という見方もあった。

昨年の、世界を震撼(しんかん)させたFIFA汚職事件に深く関わっていたCBFでは、当時のマリン会長の逮捕以降、3度も会長交代が繰り返されている。この状況でまともな人事を行なうのは至難の業というわけだ。

不安要素を多く抱えるブラジルだが、来るリオ五輪で金メダルを狙えるだけの戦力をそろえていることは間違いない。中心となるのはネイマールだが、DFのマルキーニョス、MFのフェリペ・アンデルソンやラフィーニャといったおなじみの欧州組に加え、地元サントスの“ネイマール2世”と呼ばれる技巧派FWガブリエルという逸材もいる。

ミカレ監督がプレッシャーに押し潰(つぶ)されなければ、未来のブラジルサッカーに希望の灯をともせるはずだ。

(取材・文/中山 淳)