“剥き出しのメッセージ”を刻む『週刊プレイボーイ』本誌のフォト&インタビューシリーズ『裸の伝言』。
今回登場するのは、競泳日本代表の松田丈志。前編の『水泳人生の最終章。やりきりに、出しきりに行く』に続き、開幕を目前に控えたリオ五輪にかける想いを語ってもらった。
■「勇気をもらった」
取材後の雑談だった。その鋼のような肉体に思わず「モテますよね?」と聞くと、「いやいやいや」とはぐらかされた。
「あ、仲いいんですけど、フェンシングの太田(雄貴)は、アナウンサーと付き合ってるんですよね? ニュースで知って、カワイイじゃねーかって、ちょっとムカつきました(笑)」
さらに、「メダルの色でモテ度も違う?」とゲスな質問を重ねると、「少なくとも待遇は雲泥(うんでい)の差」と笑った。
「帰国後、空港に着いたら、メダリストは会見があるけど、それ以外の選手は現地解散。メダルの有無、色で残酷なまでに待遇の差がある。僕もアテネで経験してます。だから、初出場のメンバーには言うんです。『今は取材が多くても、メダルを獲らなかったら誰からも相手にされないぞ』って。人間って、なんでも今の状態がずっと続くと思ってる部分ってあるじゃないですか。でも、現実はそうじゃないから」
ならばと、意地悪な質問をぶつけた。最後のオリンピック、誰からも愛されないが金メダルを獲る。大勢から愛されるが金は獲れない。どちらがいい?
「悩みますね(笑)。(マイケル・)フェルプスって最初、性格悪いなコイツって感じだったんです。でも、変わった。世界のトップといわれるところで競技を続けると、『自分ひとりじゃ勝てない』って気づくんです。だから、めっちゃ嫌われても強いって、ありえないかもしれないですね」
嫌われて獲る金はイヤ
それでも、どちらか選ぶなら?
「やっぱり、嫌われて獲る金はイヤですね。うん。1秒、2秒速く泳げることに価値はないというか。本来、どうでもいいんじゃないですか、1秒速いか遅いかなんて。僕はロンドンの決勝で、0・2秒の差で金に届かなかった。
2分のレースの0・2秒って、アスリートとしての差はないに等しい。だけど順位がついて、メダルの色が変わる。ただ、タイムなんかより大事なんじゃないかって思えることがある。選手にはそれぞれのストーリーがあって、レースを見た人が感動すらしたりする。それがスポーツのいいところなのかなって。
覚えてるんですけど、ロンドンの後に、『勇気をもらった』って言われたんです。4年間の必死なトレーニングが、1秒速くなるために本来はどうでもいいようなことに費やした日々が、その、たったひと言で報われた気がしたんですよね」
最後に聞いた。目の前だけを見つめた16歳の夏。32歳の夏、今はどれくらい先を見ているのか?
「今だって目の前のことだけ。先のことなんか考えない。それで大丈夫なのかわかんないですけど(笑)。でも、それが一番いいんだろうなって気はしてます。目の前の一瞬、ワンストロークだけがすべてですから」
■松田丈志(まつだ・たけし) 1984年生まれ 宮崎県出身 ○4歳から水泳を始める。北京五輪男子200mバタフライで銅メダル、ロンドン五輪男子200mバタフライで銅メダル、男子400mメドレーリレーで銀メダルを獲得。「(北島)康介さんを手ぶらで帰らせるわけにはいかない」の名言も残す
■撮影/大村克巳 1965年静岡県出身 ニューヨーク・ソーホーのギャラリーデビューをきっかけに渡米。2007年には、草間彌生、杉本博らと作品展を開催。代表作は福山雅治15周年プロジェクト作品集『伝言』(集英社)など。ここ数年『NEWS ZERO写真展』を開催している
(取材・文/水野光博)