連日のメダルラッシュで盛り上がる中、早くも折り返しを過ぎ、ますます熱気を帯びるリオ五輪ーー。
日本代表選手たちの活躍が報じられる一方で、つい忘れがちだが「本当に開催できるのか?」とまで言われた準備不足の影響は、やはり至るところに表れているようだ。
現地で取材を続けるスポーツライター・斉藤健仁氏が「リアルにヤバい」リオの現状を伝えてくれた!
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8月3日、オリンピック取材のために羽田からニューヨーク経由で32時間ほどかかってリオデジャネイロに到着。はや11日が経過した。出発前は、治安の悪さ、ジカ熱、インフルエンザの流行、選手村の不備などマイナス面ばかり報道されていて、「どうなることか…」と不安ばかり。
しかし、リオの空港に着くと人はみんな親切で「ほとんど通じない」と言われていた英語も、IDに「I speak English」と書かれたプレートがついたボランティアも多く、取材をしている限り、不便はあまり感じない。
早速、バスで空港メディア村へ移動。地図を見る限りは近いのかな?と思っていたが、実際は直線距離で50kmほどあり、1時間以上かかった。バスから見るリオ市街でまず目についたのは、警察ではなく、軍関係者の多さ! 自動小銃を持った軍人が至るところに。しかも、装甲車にも頻繁(ひんぱん)に遭遇する。
特に、ラグビー場や射撃場、バスケット会場、ホッケー会場等があるデオドロ地区は治安が悪いため、リオっ子もあまり行かないエリアだという。実際、8月6日に馬術会場のメディアルームを銃弾が通過したという情報も。また8月9日には、メディアバスが投石の被害に遭い、ガラスが割れてケガ人が出ていた。筆者自身はその1本前のバスに乗っていただけにゾッとする事件だったが、事なきを得て、ホッ。
どうやらブラジルは携帯電話やカメラの関税は200%ほどらしい。値段は日本の約3倍ということで、選手や観光客がスマホを奪われる事件が続くことにも納得。さらに、取材が終わって帰国する海外メディアのスタッフが他の国のメディアのカメラを盗難するケースもあるようだ。やはり、最後まで気が抜けない大会になるのは間違いない。対策としては、バスは通路側に、メディアルームでは真ん中に座るくらいしかなさそう…。
キッチンの壁はなく、窓枠には網戸が両面テープで…
さて、水漏れやお湯が出ない等、問題の多かった選手村。それに対してメディア村はどうかというと、全く期待を裏切らない展開! 大会後は高級マンションとして売り出される予定のメディア用宿舎は当初、昨年末の完成予定が今年の3月に遅れ、結局完成したのは7月。急降下しているブラジル経済の悪化が影響しているようだ。
メディア村は「1」が9棟、隣の「2」は7棟、合計2500人以上の世界中のメディア関係者が寝泊まりしている。ただ、リオ中心部からは遠く、一大拠点となっているメディアプレスセンター(MPC)まではバスで30分から40分ほどかかる。東京でいえば、府中か八王子あたりから都内の中心部に通っているイメージだ。
中心部のバスターミナルからマラカナンやコパカバーナ、デオドロ等、他の会場に行くためには、さらにバスを乗り換える必要があり、宿舎から会場までバスに乗るだけで毎日、往復で約4時間。これが心身ともに消耗する。
メディア村宿泊施設の一泊あたりの値段は、日本の高級ホテルとほぼ同じ。外観は小綺麗で、庭にはプールまである。各部屋の入り口も指紋認証とセキュリティは万全。ただ、部屋に入ってみると、キッチンにあるべきはずの壁がない! 窓枠にはなんと網戸のみが両面テープで貼り付けてあり、強風でよく取れる。
他の国のメディアに聞いてみると、どの部屋もキッチンに壁はないようで、後回しにされた模様だ。他にも、壁に電灯が付いていない場所があったり、シャワーのお湯が出ない部屋があったり。メディア村1には1500人が宿泊しているが、洗濯機と乾燥機は8台ずつしかないため洗濯するのもひと苦労!
日本でも大きなニュースになっていたジカ熱を媒介する蚊は、今のところあまり見かけない。連日、バキュームカーのような車で大量に殺虫剤を散布している効果かもしれない。ただ、それでも1日1回くらいは蚊に遭遇するので、虫除けスプレーを使いつつ、蚊にビビっている毎日だ。
もうひとつ気になるのが物価の高さ。メディア村のコンビニや取材施設に併設されている売店で、ペットボトルの水やコーラを買うと1本300円ほど。物価が全体的に高騰している様子で、経済状況が悪化し大会運営の費用も減ったのか、メディアに提供されるのは水とコーヒーだけ…。
ならば、MPCの隣にあるレストランでブラジル料理を堪能!といきたいところなのだが、今のところオリンピックパークでの取材がないのでまだ食べることができず…。ラグビー場で売っているのはハンバーガーやホットドッグ等、なんともアメリカン。悲しい限りだ。
ともあれ、強盗に襲撃されたり、流れ玉といったトラブルに巻き込まれないことを祈りつつ、体調と蚊に気をつけながら大会最終日まで取材を続行!!
(斉藤健仁/取材・文 日本雑誌協会/写真)