8月7日に開幕した高校野球・夏の甲子園大会。
今夏は寺島成輝(履正社)や藤平尚真(横浜)ら、多くのドラフト候補が注目を集めている。一方で、清宮幸太郎(早稲田実2年)が西東京大会の準々決勝で敗れるなど、各地で波乱が相次いだ。
激戦区・千葉で優勝候補に挙げられていた東海大市原望洋は準々決勝で木更津総合に敗退。最速153キロ右腕としてドラフト上位候補に挙がる島孝明は、甲子園に出ることなく高校野球を終えた。
島は今春に急激な成長を見せ、ドラフト戦線に急浮上してきた剛腕。春は故障明けということもあって短いイニングでの登板に終始し「夏に長いイニングを投げる姿を見たい」と語るスカウトも。だが、敗れた木更津総合戦もリリーフで登板するなど、今夏も3試合で8回3分の2しか投げることができなかった。類(たぐ)いまれな爆発力を持つ速球派投手だけに、評価に頭を悩ませる球団も多いだろう。
同じく全国屈指のハイレベルな戦いが繰り広げられる大阪では、現代高校野球の横綱・大阪桐蔭が3回戦で敗れる波乱があった。エース左腕・高山優希は最速150キロをマークするプロ注目の有望株だが、この投手の評価は真っぷたつに分かれている。リリーフでの登板で150キロに迫る剛速球を投げ込んだかと思えば、先発登板では130キロそこそこの軟投派に変身。本人は「チームが勝つため」とどこ吹く風だが、あるスカウトは「つかみどころがない投手だけど、そろそろつかみたいんだよね……」と嘆くようにつぶやいていた。
しかしその願いも叶(かな)わず、今夏は本領発揮する前に終戦。本人はプロを志望しているものの、今夏の投球ではプロ側の評価を高めるには至らなかったはずだ。
プロ注目の選手たちが実力を出し切れずに涙をのむ中、最もスカウト陣の評価を高めたのが北海道から突如現れたサウスポー・古谷優人(江陵)だ。あるスカウトが「春の大会で古谷を見ようと思っていたら、すぐに負けて見に行けなかった」と語ったほど、ほぼ無名のエースだった。だが今夏、古谷は全国から北海道に集結したスカウトの前で恐るべきパフォーマンスを見せつけた。
154キロをマーク、20奪三振の大会新記録も
大会が始まる前の最高球速は148キロだったのが、北北海道大会2回戦・旭川西戦でなんと154キロをマーク。準々決勝・釧路工戦では20奪三振の大会新記録を樹立し、一躍ドラフト上位候補に躍り出た。「無名校が奇跡の甲子園出場か?」と期待が集まったが…。
154キロをマークした2回戦で144球、その翌日の20三振を奪った準々決勝で133球を投げた疲労で、準決勝の滝川西戦では下半身が使えずに制球に苦心した。5回の打席で自打球を右すねに当てるアクシデントもあった中で志願の続投をするも惜敗。古谷が甲子園マウンドに立つことは叶わなかった。注目される進路は、これから指導者と相談して考えるという。
夏の甲子園に出場できるのは、全国4000近いチームの中からわずか49校だけ。しかし過去には、日本ハムの大谷翔平や中田翔など3年の夏に地方大会で敗退しながらプロ野球の顔になった選手も多数いる。甲子園の熱き戦いとともに、地方敗退選手の行く末にも要注目だ。
(取材・文/菊地高弘 撮影/長壁 明)