9月1日、いよいよW杯アジア最終予選がスタートする。2018年ロシア行きのキップをかけた争いは、来年9月まで続く全10試合の長丁場だ。
グループBに入った日本はオーストラリア、サウジアラビア、UAE、イラク、タイの5ヵ国とホームアンドアウェーによる2回戦総当たりで出場権獲得を争う。
グループ2位以上なら文句なしで出場権獲得。3位になった場合は、同様に6ヵ国で争われるグループAの3位チームとプレーオフを行ない、勝てば北中米カリブ海予選の4位チームとの大陸間プレーオフに進出する。3位でも可能性を残すとはいえ、確実に2位以内に入り、出場権を獲得したいところだ。
結論から言えば、日本は自他ともに認める、出場権獲得の最有力候補だろう。
昨年のアジアカップでは準々決勝敗退に終わったが、サッカーの質という点においてはアジアレベルでは群を抜いており、実力的には優勝したオーストラリア、準優勝した韓国にも全く見劣りしなかった。実績でも、実力においても日本がグループBの中心にいるのは間違いない。
しかし、それだけに他国は警戒を強めてくる。日本戦では無理に勝ち点3を狙わず、確実に引き分けて勝ち点1を手にする。特に日本のホームゲームでは、そんな戦い方に徹してくるだろう。
そうした、いわば「日本包囲網」によって引き分けを増やすようなことになると、立場が苦しくなる。守備を固めてくる相手に対し、いかに勝ち点3を積み重ねられるか――それが出場権獲得のカギとなるだろう。
そこで、まず注目すべきは最初の2試合。9月1日のUAE戦(ホーム)、9月6日のタイ戦(アウェー)である。
率直に言って、最初から嫌な相手との試合が続く印象だ。いきなり最終予選の行方を占う、大きなヤマ場を迎えると言ってもいい。
初戦で当たるUAEは、割り切って守りを固めることを全く厭(いと)わないチームである。事実、昨年のアジアカップ準々決勝では、この戦い方に屈している。初戦でホームに迎えるには最悪の相手だ。
しかも厄介なのは、単なる守備的なチームではなく、攻撃陣にはアジア屈指のタレントを擁していることだ。他国との試合では、ボールポゼッションを高めて主導権を握る戦い方ができるほどの力があるにもかかわらず、日本に対しては現実的な選択をしてくる。
ホームで“人が変わる”タイも危険な相手
つまり、一度カウンターに転じれば、スピードとテクニックを生かした非常に危険な攻撃を備えているということ。その脅威を感じながら、堅い守備をこじ開けることは簡単な作業ではない。
UAEからすれば、長丁場の初戦で相手は日本。しかもアウェーゲームとなれば、まず間違いなく守備を固めた手堅い試合運びを選択してくる。逆に、日本はホームゲームでの初戦。絶対に勝ち点3が欲しい焦りが強すぎて、ここでいきなりつまずくようだと、今後の戦いにも少なからず悪影響を及ぼす可能性がある。
そして続く第2戦は、タイとのアウェーゲーム。実力的に言えば、日本が優位なのは間違いないが、ホームでは“人が変わる”のがタイである。地元の大声援を背に勢いに乗らせてしまうと、かなり危ない。こちらもまた最初のアウェーゲームで戦うには、かなり厄介な相手である。
最初の2試合で勝ち点6を獲得し、内容的にも「日本強し」を印象づけられるようなら、日本は早い段階であっけなく出場権を獲得してしまうかもしれない。だが、逆に2試合とも引き分けて勝ち点2しか取れず、他の国に対しても「日本恐るるに足らず」と思わせてしまうようだと、状況を一気に苦しくしてしまう。
実際、実力的に見て、日本がこのグループの中心にいるのは確かだが、前回以前の最終予選ほど力の差は大きくない。
昨年のアジアカップ段階では力が群を抜いていたのは事実でも、その後、下降線をたどっている印象の日本に対し、UAE、タイ、サウジアラビアといった国は日本以上に若手が台頭してきている。上積みという点では、恐らく日本を上回っているはずだ。
過去の実績は日本とオーストラリアが抜けた存在ではあるが、2強があっさり出場権獲得という展開は考えにくい。現在の力関係で言えば、グループBの6ヵ国はかなり接近している。過去3回の最終予選では、どう転んでも日本が出場権を逃すとは想像できなかったが、もはやそれほど安泰ではない。ちょっとしたことをきっかけに、順位が入れ替わる可能性は十分にある。
そして日本にとってはよくも悪くも、その“ちょっとしたきっかけ”になりうるのが、9月に行なわれる最初の2試合だ。どんな大会でもスタートダッシュが肝心なのは言うまでもない。だが、そんな一般論には収まり切らないほど、今回の最終予選ではこの2試合が今後の展開を大きく左右するだろう。
もしかすると今回は、日本が初めてW杯に出場したフランス大会以来となる、ハラハラドキドキの最終予選を見ることになるかもしれない。
(文/浅田真樹 写真/AFLO)