開幕前、「大丈夫かな」と心配する声があちこちから聞こえていたけど、それが現実になってしまったね。
Jリーグの名古屋がクラブ史上初のJ2降格危機に陥っている。現在、リーグ戦18試合未勝利。年間勝ち点は降格圏の16位で、残留圏内の14位新潟、15位甲府との勝ち点差は7まで広がっている。まだ7試合残っているとはいえ、苦しい状況だ。
低迷の最大の原因は、不可解な監督人事。今季、名古屋はクラブOBの“レジェンド”小倉隆史氏を監督兼GMに抜擢(ばってき)した。
小倉氏は昨年6月からGM補佐として名古屋に復帰していたものの、指導者としての経験はゼロ。それまでは明るいキャラクターを生かして、サッカー番組などメディア活動を行なっていた。
それがいきなりJ1の名門クラブの監督どころかGMまで兼任するというのだから驚いた。サッカー界において、ひとりの人間が監督とGMを兼任するケースは皆無とはいわないけど、緊急時などを除けばやはり特殊なケース。ほとんど聞いたことがない。
名古屋のフロントがどうしてそんな発想になったのか疑問だ。どうしても小倉氏を起用したいのなら、せめて、1、2年、コーチとして経験を積ませてからというのが普通の考え方だ。
また、小倉氏の辞めさせ方も悪かった。もっと早く休養させるタイミングはあったのに、続投にこだわり続け、チーム状況はさらに悪化した。
結果として、小倉氏のキャリアに大きな傷をつけてしまった
小倉氏の力が足りなかったといえばそれまでだけど、目の前に大きなチャンスが転がってきたら「挑戦したい」と思うのは当然のこと。それよりも、経験のない新人監督をバックアップするクラブの体制がどうだったのかが問題。僕には十分に見えなかった。少なくとも、開幕前の時点で昨季よりも明らかに戦力ダウンしていたからね。
結果として、小倉氏のキャリアに大きな傷をつけてしまった。今後の指導者生命は難しいものになるだろう。ある意味、彼も犠牲者だ。ただ、まだ43歳と若いからやり直すチャンスはいくらでもある。少し休んで、いったん名古屋と距離を置いた上で、再スタートすればいい。現役時代、日本サッカー界を盛り上げてくれた選手だけに、なんとか頑張ってほしい。
名古屋は前節からジュロブスキー新監督を迎え、さらに無所属でブラジルに戻っていた闘莉王を復帰させた。まだ降格が決まったわけじゃないし、次節、残留を争う新潟とのアウェー戦(9月10日)に勝てば、息を吹き返す可能性はある。
ただ、J1残留が難しいミッションであることに変わりはない。選手たちは自信を失っているように見える。闘莉王にしても、約9ヵ月間のブランクは大きい。故郷の牧場で仕事をしながら体を動かしていたというけど、いきなり実戦で100パーセントの力を出せるはずがない。試合勘、スタミナ、ともに不安が残る。DFなのかFWなのか、起用法も不透明だ。また、強烈なリーダーシップを持つ選手だけど、一歩間違えればほかの選手を萎縮させかねない。つまり、そうした選手にすべてを頼らなければいけないほど、今の名古屋は追い込まれているんだ。
もし、次節の新潟戦に負ければ、僕はもう名古屋の残留は難しいと見ている。新潟もとどめを刺すつもりで、ぶつかってくるだろう。大注目の一戦になるね。
(構成/渡辺達也)