「天才打者」と呼ばれた鈴木尚典氏が、筒香嘉智の覚醒について語る!

来春のWBC日本代表の4番はこの男で決まりか。

今季7年目、ベイスターズの筒香嘉智(つつごうよしとも・24歳)が史上最年少での3冠王を射程圏に入れている。日本人離れした豪快なスイング、飛距離はあのゴジラ松井をも超える“シン・ゴジラ”だ!

そこで、前編に続き、筒香の覚醒について、横浜高校、ベイスターズの先輩であり、「天才打者」と呼ばれた鈴木尚典(たかのり)氏に話を聞いた。

■バリー・ボンズとレフトへのホームラン

昨年はさらに成績を上げ、打率3割1分7厘(リーグ3位)、24本塁打(同4位)、93打点(同3位)。一時は打撃3部門でトップに立つ勢いを見せた。23歳ながらチームの主将に就任し、プレミア12では4番打者も経験するなど、世界に“ツツゴジラ”の名を知らしめた。

「この頃、世間では覚醒したなんだといわれていましたが、僕はまだまだこんなもんじゃないと思ってました。確かにヒットは打ってました。でも器用であるが故に、早いカウントから外の球をレフトにヒットしていたんです。筒香の能力を考えたら、正直、もったいないな、と。

打者の習性として“打てる”と思えば体が自然に反応してしまうのはよくわかるんです。僕もそうでしたから。でも、それをやっていたら30本40本は打てません。彼もそれはわかっていたんでしょう。いつしか、彼から『逆方向にホームランを打つにはどうすれば…』という話をするようになりましたからね」

昨オフ。筒香はシーズン終了からフェニックスリーグ、侍ジャパン、そしてドミニカのウインターリーグに精力的に参加。ほかの選手が体を休めているなか、「うまくなっていると実感している時期に休むのはもったいない」という貪(どん)欲さで、翌年のキャンプまでわずか3日しか休まずにバットを振り続けた。

そして迎えた今年。シーズン開幕から、筒香の左方向への打球は軽々とフェンスを越えるようになった。圧巻だったのは4月だ。3号、4号、5号、6号と連続で狙いすましたように左方向へ本塁打。現在までの全39本中、実に3分の1近い12本を左方向へ打ち込む進化を見せている。

「本人は完全につかんだんでしょうね。外の球も軸回転でとらえているから、ポイントがかなり近くても飛距離が出る。実際、今年は体がのけぞるようなスイングでホームランを量産しています。スイング後の右足がバリー・ボンズのように上を向いている。これまでの日本人打者では考えられないことですよ。『一球で仕留める』と言わんばかりに自信が漲(みなぎ)っていて、打席に立っていてもオーラを感じますよ」

イチローや松井に匹敵するスーパースターに

覚醒した筒香はこの7月、第4形態と呼ぶにふさわしい無双ぶりを発揮。18日からのヤクルト&巨人の“多摩川防衛戦”の厳しい攻めも、3試合連続マルチ本塁打という無慈悲さで、東京と横浜の空を燃やし尽くした。

映画のシン・ゴジラは東京中を火の海にした後、東京駅付近で一時、活動停止状態に陥ったが、現在の筒香も活動はやや沈静化。それでも、入団7年目で初めて42本塁打を放った松井秀喜(ゴジラ)超えも見えてきた。

「その域に入ったと思います。松井秀喜…彼のホームランもすごかったですね。レフトを守っていても動けないんです。見上げているだけでしたから。あのとき、彼から感じた威圧感と同じようなものを今の筒香も発しています。もちろん打力だけでなく、野球への取り組みや人間性も素晴らしく、会うたびに成長を感じます。将来はイチローや松井に匹敵するスーパースターになる人間だと僕は思ってます」

ペナントも終盤戦に入った。ベイスターズは初のCS進出、そしてその先の18年ぶりとなる優勝へ向けて最後の戦いが始まっている。

「自分の成績よりも優勝だと彼は言いますが、きっと本音でしょう。普段、謙虚な筒香があれだけハッキリ『優勝』と言うんですから、それだけ本気だということです」

映画同様、あの手この手で攻めてくるセ・リーグ投手陣を相手にツツゴジラがどう戦うのか、目が離せない。

(取材・文/村瀬秀信)