UEFAヨーロッパリーグを3連覇し、チャンピオンズリーグ本大会にも出場するセビージャ。昨季、ブンデスリーガ(ドイツ)で最下位に終わったハノーファーからリーガエスパニョーラ(スペイン)の強豪クラブへ移籍した清武弘嗣(ひろし)は、サッカー選手として“2階級特進”の栄転を授かったといえる。
清武はどれだけ試合に出て活躍できるのか。移籍が決まって頭をよぎったのは「大丈夫か?」という心配だった。
セビージャは今季、ヨーロッパリーグ3連覇の偉業を達成したウナイ・エメリに代わり、ホルヘ・サンパオリを監督に迎えたことで注目を集めている。サンパオリは、2015年のコパアメリカでチリ代表を初優勝に導いた監督。14年ブラジルW杯でもチリ代表を率いてスペインを破り、ベスト16に進出するなど監督としての存在感はしっかり誇示していた。
その世界的に高い評価を得る指揮官は、清武獲得に関与していない。サンパオリが監督に就く前にそれは決定していた。清武は彼のお眼鏡に適(かな)うのか。心配は募った。
もうひとり、セビージャには“うるさ型”の指導者がいる。サンパオリの参謀役として、15年にチリ代表で行動を共にしたフアン・マヌエル・リージョだ。15年のコパアメリカ優勝は、このコンビによる成果にほかならない。リージョは、ジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)がサッカーの師と仰ぐ戦術家として、スペインで広く知られている。リージョ自身、グアルディオラのことを「私の息子のようなものだ」と表現したほど、ふたりは親密な関係にある。
一方、サンパオリはグアルディオラの師匠であるヨハン・クライフに強い影響を受けたマルセロ・ビエルサの弟子。つまり、リージョとサンパオリは攻撃的サッカーの系譜を継ぐ、その典型的な指導者なのだ。両者が試合の様子を見ながら、ベンチでひそかに議論し合う姿はセビージャでも確認されている。清武の動きも連日、厳しくチェックされているに違いない。
簡単には出場できない厳しい環境に身を投じることになった清武。ところが彼は開幕戦で1ゴール・1アシストと活躍し、2節でもスタメン出場を果たした。うれしい誤算というか、心配は今のところ杞憂(きゆう)に終わっている。
清武といえば、高い技術を誇る一方で、本田圭佑(けいすけ)のようなずうずうしさに欠けるシャイな一面がある。開幕戦では得点を挙げたものの、ゴールに対して消極的な姿勢も目立つ。しかし、その控えめなプレーがセビージャではむしろ奏功している様子だ。
決定力が問われるトップ下ではなく、それより少し低いポジションで使われていることが幸いしている。チームのパス回しに、潤滑油的な役割を果たしているのだ。高いボール操作術を生かした協調性に富むプレーが首脳陣から高い評価を得ているようだ。
清武が大きなチャンスをつかんだことは、18年W杯アジア最終予選を戦う日本代表の追い風にもなるはずだ。彼がセビージャで活躍するほど日本代表のスタメン争いは激化する。不動の両エース、本田、香川真司に代わる新エース的な存在に昇格するのか。清武から目が離せない。
(取材・文/杉山茂樹 写真/アフロ)