今年から10番を背負うMF庄司を中心に、J1昇格を目指すレノファ山口

今季J3からJ2に昇格してきたばかりの新顔でありながら、早くもJ1昇格を狙うクラブがある。レノファ山口だ。

本州最西端の山口県をホームタウンとするレノファは、一昨年までJFL(J3の下に位置するアマチュアリーグ)に所属しており、つまりはJリーグのクラブでさえなかった。

ところが、Jリーグ加盟が認められ、J3に昇格した昨季、1年目にしていきなり初優勝。 あっという間にJ3をクリアしてしまい、今季から戦いの舞台をJ2に移している。

昇格1年目のJ2でも、一時は3位まで順位を上げるなど台風の目となっており、現在は9位まで順位を落としたものの、まだ十分にJ1昇格を狙える位置につけている(J2の1位と2位は自動昇格。3位から6位はトーナメントによるプレーオフを行ない、勝者が昇格できる) 。

J1へと続く階段を一気に上がろうかというレノファだが、その最大の要因となっているのが抜群の攻撃力。徹底してパスをつなぎながら、多くの選手がどんどん前線に駆け上がってくる「人もボールも動くサッカー」が魅力だ。

J2第32節終了時点で、レノファの総得点は44で全22クラブ中4位タイ。清水エスパルス、セレッソ大阪、コンサドーレ札幌という“J1経験者”に劣っているとはいえ、J2屈指の攻撃力を備えていることは数字も証明している。

チームを率いる上野展裕(のぶひろ)監督は口数が少なく、攻撃サッカーの核心を聞き出すのは難しい。試合後の記者会見でも「選手はやるべきことをやってくれた」「粘り強く戦ってくれた」など、最低限のコメントしかしてくれない。

それでも、ピッチ上で展開されるサッカーを見ていれば、物静かな指揮官がいかにうまく自分が目指すスタイルを選手たちに伝え、それを実際のプレーに落とし込んでいるかがよくわかる。攻守の要(かなめ)となるボランチを務めるMF庄司悦大(よしひろ)も「監督はこのサッカーにこだわっている。理想は僕らより相当高いと思う」と語っている。

加えて、レノファの魅力は若さにもある。直近の試合(J2第32節ジェフ千葉戦)での先発11人の平均年齢は実に24.18歳。現在のJリーグでは、11人の平均年齢が26歳なら若いチームと言っていいが、それを2歳も下回っているのだから、かなりフレッシュなチームである。活きのいい若手がピッチ上を駆け回り、けれんみのないスピーディな攻撃サッカーを繰り広げるのだから、なかなかに痛快だ。

サッカーに満足していても、勝てていないのが現実

しかし、攻撃志向が強いチームであるがゆえ、また若いチームであるがゆえの泣きどころもある。とにかく失点が多いのだ。これまでの総失点は46で、総得点とは対照的にワースト6位タイ。現在10位以内にいるクラブの中で、総失点が総得点を上回っているのはレノファだけである。

前出の庄司は「同じ(攻撃的な)スタイルでやり続けられていることには満足感がある」 としながらも、こう続ける。

「でも、僕らは上位(のクラブ)に勝った試合が少ない。サッカーに満足していても、勝てていないのが現実。パス回しで満足するのではなく、攻撃の詰めの部分でミスをなくすとか、カウンターを受けた時の守備で体を張るとか、そういうところがうちの足りない部分だと思う」

残り10試合でプレーオフ進出圏内となる6位京都サンガとの勝ち点差は6。まだまだ逆転可能な状況だけに、もう少し失点を減らせれば理想的だ。

庄司が言うように、自慢の攻撃時にはミスを減らし、まずはカウンターを受ける回数を減らす。そして、やむなく守備に回った時には体を張って失点を防ぐ。「そうしたことをチーム全体でやっていければ、プレーオフ圏内が見えてくる」(庄司)はずである。

とはいえ、レノファの魅力はやはり攻撃にある。相手を攻め倒す積極的なスタイルにこそ、レノファらしさがある。9位という順位にまったく釣り合わない失点数も、裏を返せば、それを取り返せる得点力を備えているということでもある。

もちろん、失点を減らせれば言うことなしだが、それを恐れた結果、腰が引けて自慢の攻撃が鳴りを潜めたのでは本末転倒。攻めて、攻めて、攻め倒す姿勢だけは、最後まで貫いてもらいたいものである。

21歳ながら、ここまで全試合に出場しているDF小池龍太は攻撃力の要因を「成功や失敗に関係なく、やってみようとする姿勢。それを楽しもうとする姿勢」だと語り、「何点取られようが、自分たちのサッカーをやり続けたい」と力強い。

もしもレノファが今季J1昇格を果たせば、J2昇格1年目のクラブとしては、もちろん初の快挙。しかも、J3、J2とふたつのカテゴリーをいずれも1年で通過したとなれば、今後もそうは簡単に破られない大偉業となるだろう。

Jリーグでは極めて稀有(けう)なほどに攻撃的姿勢を貫くレノファが、どんな結末を迎えるのか。これから佳境を迎えるJ2の注目ポイントである。

(文/浅田真樹 写真/AFLO)