あの胴上げから、気がつけばもう四半世紀。ついに広島カープは球団記録のシーズン75勝を軽々と超え、近年まれに見る独走で25年ぶりのリーグ優勝を果たした。
日本一アツいといわれる広島ファンを代表して、映画監督・ライターの杉作J太郎氏に語ってもらった!
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自分の人生、負け続けてきましたよ。恋愛から何から全部。ただね、その場で負けたからって終わりじゃない。たとえ死んで灰になっても、そこから逆襲があるかもしれない。今年のカープはそれを実証してくれたんです。
誰も予想しえない勝ち方が何度もありました。特に、8月7日の巨人戦逆転勝利。僕は四国の山中にあるSA(サービスエリア)にクルマを止めてラジオを聴いていました。
闇の中、リードされた6回にヘーゲンズが出てきた。井上順みたいな顔した投手で、どうせすぐ帰国するだろうと思っていたんですけどね。それが回をまたいで、またいで、3イニング投げた。そしたら9回に菊池が打って同点、そして新井がサヨナラ打。ひとりで号泣しましたよ。へーゲンズに申し訳ない。僕ごときが先入観でものを言ってはいけない。カープが教えてくれたんです。
今年はカープが強いので、毎日『プロ野球ニュース』を見て、スポーツ紙も買いました。すると、他球団の情報もどんどん入ってくる。そして気づかされたんです。いい試合ができるのは強い相手がいるからだ、と。昨年までの僕はカープさえよければそれでよかった。カスみたいな見方ですよ。
それが今年は視点を広げてくれた。DeNAの石田健大、巨人の田口麗斗(かずと)、いい投手です。盛り上げてくれてありがとう。神宮球場ではヤクルト・畠山和洋(かずひろ)のケガの回復を祈って、顔写真がビンに載っているタフマンを飲みましたよ。
今年のカープを映画にたとえれば、主演男優賞は新井と黒田。助演は菊池。ベンチの演出家も普通じゃない。使う選手が次々と活躍する。黒澤明を超えた!っていうぐらいの素晴らしさ。
カープ女子も本物ですよ
特に、鈴木誠也は突出していました。あるコーチは『彼は凡打して帰ってきたとき、人を殺す目をしている』と言っていました。ああ、これは僕の好きな昭和の“恐怖集団”たるカープが帰ってきたんだと。震えましたよね。
カープ女子も本物ですよ。2年前にマツダスタジアムに行ったら、試合前練習にカープ女子が5人ほど群がって黄色い声を上げていたんです。望月三起也(みきや)のマンガに出てきそうなムチムチの女子が。
相手は誰かと思えば、石原慶幸(よしゆき)ですよ。「イシハラさ~ん!」「ギャー!」って。石原がチラッとこっち見て歩いたらね、「カッコいい~」って。性的な目じゃない。達川光男(現評論家)の視点ですよ。
まあ、歩く石原の勇姿には僕もやられましたけどね。今年7月27日の巨人戦、アウトになったふりをして二塁から三塁にトコトコと歩いていった歴史的進塁。これまで映画やテレビをさんざん見てきましたが、あんな歩き方、見たことない。車だん吉みたいに弱った顔してトボトボと。
見送った巨人・坂本勇人も間違いなく心の中で「石原さん、お疲れさまです」と言ってましたよね。素晴らしいものを見せてくれた。
数々の信じられないプレーは、カスみたいな僕の人生に「諦めるな」と勇気を与えてくれた。カープに一から勉強させていただいている心境です。
●杉作J太郎(すぎざく・じぇいたろう) 1961年生まれ、愛媛県出身。映画監督・ライター。瀬戸内海の対岸のはるか遠い“天竺・広島”に思いをはせ、市民球場に広告を出していたアンデルセンのパンを食べて育つ。世間ではテクノカットが大流行していた童貞時代、もみあげだらけの野武士のようなカープ選手たちが心の支えに
■『週刊プレイボーイ』39&40合併号『25年分の広島カープ愛を語れ!』より
(取材・文/村瀬秀信)