先月17日のスポーツクライミング世界選手権(パリ)ボルダリング男子で同大会日本人初の優勝を手にした楢崎。他にも若い日本人選手が活躍中!

ボルダリングの人気高騰もあって、商業用クライミングジムの数は6年前の約3.8倍増。街中やCMでカラフルなホールド(でっぱり)が取り付けられた壁を目にする機会は増えている。4年後の東京五輪でも追加種目に決まったスポーツクライミングだが、その実態はあまり知られていない。

今から30年ほど前、岩場を登るフリークライミングが世界的に広がり、クライマーが爆発的に増加した。人が増えれば最強を決めたくなるのが世の常。1985年に名だたるクライマーを集めた大会がイタリアの岩場で開催され、それがキッカケでフリークライミングに“競技”の概念が生まれた。89年から本格的に国際競技会が始まり、07年には、五輪の採用を見据えて競技名が「スポーツクライミング」に統一されたのだ。

現在、人工壁のみで行なわれるスポーツクライミングには、「ボルダリング」「リード」「スピード」の3種目がある。

競技の「ボルダリング」は、制限時間内に登った課題(コース)数で順位が決まる。高さ5m以下の人工壁につけられたホールドを使って登り、両手でゴールホールドを保持すれば完登。落下の衝撃は床に敷かれたマットが受け止める。

国際大会では日本人選手が男女で大活躍中だ。男子では楢崎智亜(ならさき・ともあ、20歳)が16年W杯の年間王者で、藤井快(こころ、23歳)が年間2位。16年は女子でも野中生萌(みほう、19歳)がW杯で2勝し、過去4度もW杯年間王者になっている野口啓代(あきよ、27歳)を圧倒した。

「リード」は1度のトライで、制限時間内にどこまで登れたかを競う。高さ12m以上の人工壁を、落下防止のために2mほどの間隔で設置された確保支点にロープをかけながら登る。ボルダリングはホールドが最大12手程度なのに対し、リードは完登までに擁(よう)する手数が50以上と、持久力が試される。ボルダリング代表の陰に隠れがちだが、W杯では是永(これなが)敬一郎(20歳)、小林由佳(28歳)が健闘している。

ボルダリングの浸透で混同されているのがルールだ。競技のボルダリングのスタートは手と足を指定されたホールドに置いてからなのに対し、リードはどこから登りだしてもOK。また、ボルダリングはゴールを両手で保持して完登になるが、リードは最終確保支点にロープをかけたらゴール。最上部のホールドを使わなくてもいい。

見る人が最もわかりやすい種目は「スピード」だろう。高さ15mの人工壁が横並びに設置され、2選手が同時にスタートし、速くゴールしたほうが勝ち。ボルダリングやリードは大会ごとに課題内容が変わるが、スピードはどの大会でも、国際ルールで定められた課題が使われる。

世界記録は男子が5秒60、女子が7秒53。国内にはスピードクライミング用の人工壁がないため注目度は低いが、世界記録保持者ダニエル・ボルディヤフ(24歳・ウクライナ)が証券会社のCMで披露する速さを直で見たら、口をあんぐりさせるに違いない。

右肩上がりで増えているクライミング女子に、この内容を語れればキミを見る目は変わるだろう。ただし、彼女たちが求めるのは“強いクライマー”。一緒に登りに行った途端、幻滅されないように心してかかってほしい。

(取材・文/津金一郎 写真/アフロ)