アディショナルタイムに山口蛍のゴールが決まり、日本はなんとか勝利したが…

W杯アジア最終予選3試合目となったホームでのイラク戦。日本の決勝ゴールが決まったのは、後半のアディショナルタイム5分。多くの人がドローを覚悟したその時、残り時間あと1分のところで山口蛍が弾丸シュートを突き刺した。

劇的なゴールに選手は歓喜し、スタジアムは興奮のるつぼと化した。ハリルホジッチ監督も人目をはばかることなく渾身のガッツポーズを見せながら歓喜した。

終わってみればハッピーエンド。苦しみ抜いて手にした価値ある勝ち点3。土壇場の劇的勝利に、世の中が祝福ムードに包まれるのも当然である。

しかし、本当にこの勝利にもろ手を挙げて喜んでいていいのだろうか。

冷静に考えれば、日本が対戦したイラクはアジア最終予選グループBの6チームの中で、戦前からタイとともに5位、6位を争うと予想されていた格下のチーム。最新のFIFAランキングでも128位と、56位の日本よりもランクは数段下。しかも、政情不安定が続きホームゲームを自国で開催できないというハンディを背負ったチームである。

そんなイラクに対し、残念ながらグループ首位を争うはずの日本はホームで「互角の戦い」を演じてしまったのだ。引いた相手に対して一方的に攻め立て、それでもなかなかゴールが割れないという典型的な格下相手の展開にもならなかった。むしろアディショナルタイムの決勝ゴールが決まるまでは、あわやイラクに逆転負けを喫してしまうかと思わせるシーンを何度か作られてもいた。

ついでに言えば、前半26分に原口元気が決めた先制ゴールは、アシストした清武弘嗣が明らかなオフサイド。イラクの監督が試合後に嘆いたように、主審に導かれた勝利とも言えた。UAE戦は主審の判定に泣いたが、今回の日本は判定に救われたというわけだ。

いずれにしても、本来なら余力を持って勝たなければいけなかった相手に対して、冷や冷やものの勝利を手にしたという事実を直視すれば、とても素直に喜べる勝利とは言えないのではないだろうか。

そもそも現在の日本代表は、1勝もできなかった2014年W杯の反省を踏まえ、2018年大会で「グループリーグ突破を果たす」ことを目標にリスタートしたはず。それが、知らず知らずのうちに目標が下方修正され、今では予選突破だけが最大のノルマのような空気が蔓延している。実際ここまでの戦いぶりも、予選突破は当落線上ともいえる乏しい内容が続いており、不安はますます募る一方である。

しかも、その不振に拍車をかけているのが指揮官のベンチワークだ。それはイラク戦の采配で改めて証明された。

つじつまの合わない選手交代で試合を難しくした

ハリルホジッチ監督が最初に動きを見せたのは、1-0で日本がリードしている後半55分過ぎ。ところがベンチ前で交代出場予定の山口に指揮官が細かい指示を説明している間にイラクが得点。戦況が一変したため、山口の投入を一旦取り消したのだった。

しかしその後、指揮官は迷った末に67分になって再びユニフォームに着替えさせた山口を投入。「中盤でボールを奪うため」(ハリルホジッチ監督)の投入だったのだが、残念ながら1-1の状況で守備的な山口を投入したことで、流れはさらにイラクに傾いてしまう。

そんな状況を見て、次にハリルホジッチ監督は1トップの岡崎慎司に代えてスピードスターの浅野拓磨を起用。ところがその時間帯は相手DFラインの裏に浅野を生かすためのスペースはなく、あまり効果が出ないまま時間が経過する。そこで指揮官は不調の本田圭佑にようやく見切りをつけ、ゴール前の密集で力を発揮する小林悠を右サイドに投入。後半81分のことである。

ところが、小林投入から5分も経たないうちにセンターバックの吉田が前線にポジションを移し、吉田を目がけてロングボールを入れるパワープレーにシフトチェンジ。あっという間に小林が活躍できる環境が消えてしまったのだ。

結果的に吉田がもらったフリーキックから山口の決勝ゴールが生まれたわけなので、確かに采配的中という見方もできる。しかし、やはり冷静に振り返ってみれば、つじつまの合わない選手交代で試合を難しくした采配だったことは否めない。

ひと言でいえば“迷走采配”。後半のベンチワークは相変わらず低調なものだったと言わざるを得ないのだ。

アジア最終予選は第3節を終えて、日本は勝ち点6の4位に位置している。グループ最大のライバルと目されていたオーストラリアは無敗の勝ち点7でグループ首位。同じく無敗のサウジアラビアが得失点差で2位をキープした。

イラクに勝利したことで、とりあえずは解任の危機から逃れることに成功したハリルホジッチ監督ではあるが、来週11日に待ち構えるアウェーでのオーストラリア戦の結果いかんでは、おそらく再び逆風が吹き荒れることだろう。とりわけオーストラリアは過去の予選で一度も勝ったことがないという分の悪い相手である。

果たして、このままで日本はグループ2位以上を確保できるのか。不安を抱えたまま、大一番に臨む状況に変わりはなさそうだ。

(取材・文/中山淳 撮影/高橋学)