日本のスターティングメンバーが注目された15日のワールドカップアジア最終予選、ホームでのサウジアラビア戦。ハリルホジッチ監督は、これまで日本代表チームの主軸を担ってきた本田圭佑らをベンチスタートにする決断を下した。
「何人かの選手はトップパフォーマンスではなかった。ある監督はたとえそうであったとしても、(その選手を)信頼して使い続けるだろう。ただ、私は躊躇(ちゅうちょ)なく、よりよい選手を選んでプレーさせた」
2-1のスコアでサウジアラビアとの大一番に勝利し、グループBの2位に浮上。自身の進退問題もひとまず棚上げとなる環境を手に入れたこともあって、試合後の指揮官はそう言って胸を張った。
もっとも、4日前のオマーン戦における本田のパフォーマンスを見れば、その選択も決してサプライズではなく、極めてノーマルなものだったといえる。つい先月のオーストラリア戦後まで本田への信頼を強調していた指揮官も、さすがに低調ぶりを改めて目の当たりにし、ようやく決断したにすぎない。
また、「私はしっかり準備ができていない選手がいれば、その選手を先発から外すことについては躊躇なくやる」(ハリルホジッチ監督)と言うならば、もっと早い段階でこのような選択をすべきだったのではないかという疑問は残る。
少なくとも先月のイラク戦とオーストラリア戦まで、指揮官がチーム内に“特別枠”を設けていた事実は動かない。それが日本のチーム作りの遅れと今予選における苦戦を招いた原因になっているだけに、今回の采配だけを見てその手腕を評価するのは余りにも早計だろう。
いずれにしても、本田、岡崎慎司、香川真司といったこれまでの主軸に代わってスタメンに起用された選手たちのパフォーマンスは上々で、この日の勝利に大きく貢献したことは間違いない。その意味において、指揮官の采配は当たった。
特に躍動していたのは、オマーン戦同様、トップ下に入った清武弘嗣、大迫勇也、原口元気の3人だった。
「変にボールを失わないことと、攻撃ではいいアクセントだったりリズムだったり、速攻だったり、遅攻だったりを使い分けながらやっていこうと考えていました。新しい選手が入ることでチームは活性化すると思います。でも、スタートで出た選手にとって難しい試合もあるし、後から出た選手が結果を残す試合もある。チーム全員で戦うべきものだと、改めて感じた試合でした」
まだまだ予断を許さない状況が続いている日本代表
試合後、そう語ったのはトップ下に入って攻撃の核となった清武だ。小気味よい動きで相手選手を揺さぶり、パスとドリブルの使い分けもよく、ポジションの取り方も的確だった。所属のセビージャでは出場機会に恵まれていないが、その主な原因はポジション争いをしている選手たちのレベルの高さだったり、コミュニケーション力の問題(スペイン語力の問題)だったりと、少々背景が異なっている。清武自身は一定レベルの好調さを保つことができており、それを再確認できた点はハリルホジッチ監督にとっても救いとなったに違いない。
また、ゴールこそなかったものの、1トップでしっかりと役割を果たした大迫のプレーも目立っていた。所属のケルンでも見せているように、ボールの受け方は2014年ワールドカップ時より数段スキルアップしており、そのうえゴールへの意識の高さも窺えた。もちろん経験と実績では岡崎に劣るものの、今の大迫を使わないテはない。
そして、今予選で4試合連続ゴールを決めた原口は、攻撃面だけでなく、守備面での貢献も際立っていた。これも所属のヘルタ・ベルリンにおける進化の賜物であり、今では日本代表に欠かせない戦力になっていることに疑いの余地はない。以前、ハリルホジッチ監督は原口をボランチやサイドバックで起用する不可解な采配を見せたことがあったが、今後は現在のウイングのポジションで重用されるはずだ。
このように、チームの陣容に変化が起き、しかもそれによってポジティブな結果を手にした日本代表ではあるが、まだまだ予断を許さない状況が続いていることを忘れてはいけない。それは、グループBの順位表と今後の試合日程を見れば一目瞭然だ。
まず順位でいうと、現在首位のサウジアラビアとは同じ勝ち点10ポイントで、その差は得失点差1のみ。しかし下を見ると、タイに不覚のドローを演じた3位オーストラリアと4位UAE(アラブ首長国連邦)が勝ち点9ポイントで肉薄しており、現在は日本を含めた上位4チームがほぼ横一線に並んでいる状況になっているのだ。
しかも、日本は苦手とされる中東でのアウェー戦を3試合も残している。これまでの戦いぶりから、上位4チームの実力差はほとんど存在していないことを考えると、サウジアラビア代表監督のベルト・ファン・マルバイク監督の「このグループは最後までもつれる接戦になるだろう」というコメント通りの展開になりそうな気配は濃厚だ。
日本の次の試合は、来年3月23日に予定されるUAEとのアウェー戦。タイと戦うサウジアラビアと、イラクと戦うオーストラリアがともに勝ち点3ポイントを積み上げると予想すれば、日本がUAE戦を落とすわけにはいかないことは明白だ。
来年9月5日の最終節、アウェーでのサウジアラビア戦までの5試合は、常にこのような崖っぷちの戦いが続くことになるだろう。
(取材・文/中山 淳 撮影/高橋 学)