今回の来日では初めて空手のセミナーを受け、多くのことを学んだというアリスター・オーフレイム

193cm、120kgの筋肉の鎧(よろい)を纏(まと)い、破壊力抜群の打撃を武器に、かつてK-1とDREAMを制圧したオランダの総合格闘家、アリスター・オーフレイム

現在は米UFCのヘビー級トップ戦線で戦っているが、UFCのプロモーションのため来日したアリスターを直撃した!

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―あなたが初めて日本で試合をしたのは1999年10月28日の「リングス」でしたね。

アリスター そう、もう17年にもなるぜ! 俺もずいぶん長く戦っているなぁ。リングスも懐かしい。タフな選手が集まっていたよね。エメリヤーエンコ・ヒョードル、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ、ダン・ヘンダーソン(後のPRIDEウェルター級&ミドル級王者)、ランディ・クートゥアー(後のUFCヘビー級&ライトヘビー級王者)もいたしね。

4つ年上の兄貴、ヴァレンタインが19歳の時に初めて日本で試合して、その時、俺は15歳だった。兄貴は俺にとって憧れの存在で、すごく尊敬していた。だから俺も日本で戦いたいと思ったんだ。そして俺も19歳の時に初めて日本で戦った。とても特別な瞬間だった。現実感がなかったよ。俺にとって東京は現実離れした世界だったけど、日本の人はとてもフレンドリーで親切だし、美しい国だと思った。日本人のことが大好きになったよ。

―14歳からリングス・オランダの総帥、クリス・ドールマンのジムで練習を始めたわけですが、そもそも格闘技を始めたきっかけは?

アリスター 兄貴に「おまえは自分をもっと律したほうがいいし、身を守る術を身につけるべきだから格闘技をやれ」と言われてジムに連れていかれたんだ。でも、本当は行きたくなかった。チビで痩せてたし、ジムにはデカい連中ばかりいたから。練習はまるで軍隊の訓練のようで、最初はすごくシンドかった。でもコーチたちが「いいぞ、その調子だ!」っていつも励ましてくれたから、ツライ練習も続けることができたんだ。

17、18歳くらいまでには筋肉も付いてきて、17歳で最初のキックボクシングの試合に出た。練習も楽しくなったし、「兄貴みたいに日本で試合したい」と強く思うようになった。だから、より一層ハードに練習したし、決して諦めなかったんだよ。

―ドールマンにオランダでインタビューした際、「なぜアリスターは成功できたんでしょう?」と尋ねたら、「アリスターの才能はギルバート・アイブル(アリスターの先輩のオランダ人選手で、リングスで無差別級王者になった)ほどではなかった。だが、アリスターは決して諦めず、練習を続けた。一方、アイブルは才能に溺れてあまり練習しなくなった。その差が後に出たんだ」と言ってました。

アリスター その通りだ! 俺より才能のある選手は何人もいた。アイブルも俺の兄貴もそうだ。ただ、多くの選手が他の仕事をしたり、パーティーをしたり、いろんなことをやりたがる。だけど、俺は格闘技以外の仕事なんてしたくなかったし、パーティーも嫌いで、練習以外に興味がなかった。自分にとって何が一番大事か、しっかり見極めていたんだ。練習こそ一番大事だとね。

俺にはいつも小さな声が聞こえるんだ。心の奥からね。その小さな声が言うんだ。「ともかく練習を続けろ。そうすればすべてうまくいくよ」とね。うまく結果が出ない時でもだ。だから、俺はずっと練習し続けてきた。すべてはうまくいく、と信じてね。

東京五輪で空手が正式種目になったのは、素晴らしいことだ

昨年末に復帰したエメリヤーエンコ・ヒョードルに対しては、「もう一度引退すべき」と厳しい意見

―今回の来日では、空手の稽古を受けたそうですね。

アリスター ああ、2日前に初めて空手を習ったんだ。マスター・ツカモトのセミナーを受けた。とても素晴らしかったし、多くのことを学んだよ。彼は精神的にも肉体的にもとても柔軟性があり、素晴らしかった。

―塚本徳臣(のりちか)師範は新極真空手の世界大会で、21歳の時に史上最年少で優勝し、2011年には37歳、史上最高齢での優勝も果たした選手です。

アリスター そうなのか! 彼がレジェンドだということはセミナーの後で知ったよ。でも、とても知識が豊富だということはセミナー中にすぐわかったし、多くのことを学べると直感的に感じた。言葉では説明しにくいけど、瞬間的に魅了されたんだ。

―塚本師範から学んだことは?

アリスター 空手の哲学――力は「コア」からくるということ。「コア」という言い方は簡単だけど、彼はもうちょっと深い表現をしていた。「力は背中からくるんだ」とね。「背中は過小評価されている。例えば、ハイキックの柔軟さは脚からくると思われているけど、実際は背中が大事だ」とかね。とても論理的なことに思えた。重要な教えだ。他にいくつかのエクササイズや技術も教わった。彼とはもっと練習したいね。

―アリスター選手も蹴りはとても得意ですよね。ブロック・レスナーを左ミドルキックでKOしたし。そんなあなたでも、まだ蹴りについて学ぶことはある?

アリスター 学ぶべきことは常にあるさ。それは総合格闘家にとって、とても大切なことだ。いや、格闘家じゃなくても誰でも、新たな知識を得ることで向上することができるんだ。向上せずに現状維持しているだけなら、後退しているのと同じだ。だから、常に自分を磨き続けなくてはならない。

―含蓄のある言葉です。K-1で4度王者になった“ミスター・パーフェクト”ことアーネスト・ホーストは「どんな弱い選手からでも学ぶべきことはある」と言っていました。

アリスター その通りさ。初心者からだって学ぶこともあるし、どんな相手からも何かを学ぶことはできるよ。ホーストには、俺が18歳の頃に何ヵ月間か学んだことがある。彼は非常にテクニカルで他の人とは異なっていた。打撃技術はまさにエリートのもので、非常に独特だった。とてもいい練習になったよ。

俺はいろんなファイターたちと練習してきた。タイロン・スポーン、グーカン・サキ、ピーター・アーツが総合格闘技に出る時は彼の練習に付き合った。バダ・ハリとも練習した。彼は戦いのためのIQがとても高い選手だった。他にはセーム・シュルト、エロール・ジマーマン、セルゲイ・ハリトーノフともね。ハリトーノフとは今でも時々練習する。トッド・ダフィーとはDREAM王座をかけて戦ったが、その後、一緒に練習するようになった。

―彼らのほとんどとあなたは試合をしていますね。

アリスター そうだね。彼らはそのことを決して忘れないだろう(笑)。

―ところで、空手は2020年の東京五輪で正式種目になりますが、どう思います?

アリスター 素晴らしいことだね。ツカモト師範のセミナーを受けてから空手に対する敬意は俺の中ですごく高まった。空手の技術は総合格闘技でも非常に重要だと思うのでこれからも学んでいこうと思うし、五輪の空手の試合も見るよ。

今のヒョードルはUFCで戦えるレベルじゃない

―あなたは9月10日の「UFC203」でスティーぺ・ミオシッチとヘビー級タイトルマッチで戦った時、PRIDEのテーマ曲に乗って入場してきましたね。

アリスター あの曲は俺にいつもインスピレーションと力を与えてくれるんだ。それに、あの試合が行なわれたクリーブランドはミオシッチの故郷で、俺はすごいブーイングを受けた。でもPRIDEのテーマ曲をかけることで自分の世界に入ることができ、いい気分で入場できたんだ。あの曲にはたくさんの思い出があるし、すごく思い入れがあるからね。試合後、多くの記者があの曲について質問してきたよ。多くの格闘技ファンがPRIDE時代を懐かしがっていると思う。俺も時々、あの時代が恋しくなるよ。

―PRIDEに参戦していた頃は、いつも巨大なハンマーを持って入場していましたね。ホテルのテーブルをあのハンマーで叩き壊したこともありました(笑)。

アリスター ああ、確かに壊したな(笑)。あのハンマーは今でも家にあるよ。

―UFCではハンマーを持っていないですね?

アリスター いやぁ、ちょっと重いしね。それに、セキュリティー係が嫌がるよ(笑)。

―昨年末、日本ではRIZINが始まり、ヒョードルが復帰しました。彼の試合はどう思いました?

アリスター ヒョードルはインドのシング・心・ジャディブと戦ったが、あの試合は好きじゃない。シングはキックボクサーであり、総合の経験はほとんどないからね。くだらない試合だったよ。

―ヒョードルはその後、ロシアでファビオ・マルドナドと戦いました。この試合については?

アリスター 判定でヒョードルの勝ちになったが、実際は負けていたな。ヒョードルはもう一度引退すべきだ。今はUFCで戦えるレベルじゃない。自分を追い込むことで実力は上がるものだが、彼はそれをしていない。UFCで戦うという選択をしなかったわけだからね。

ヒョードルはヒーローだし、人間的には好きだが…2010年、俺がストライクフォースの王者だった時、彼もストライクフォースで戦っていたから、俺たちは彼を挑戦者にしようとしたんだが、2度も拒否した。その件に関しては、あまりヒョードルを褒(ほ)めることはできない。彼はUFCで戦わないという選択をしたし、俺とも戦わないという選択をしたんだ。

そして、ヒョードルはシングと戦った。寝技がほとんどできない男とね。あんな試合はダメだ。そしてマルドナドと戦った。マルドナドは連敗してUFCをクビになった選手だから、イージーな相手だと思ったんだろう。だが、マルドナドは強かった。ヒョードルをほとんどKOしかけた。普通の試合なら、レフェリーにストップされてヒョードルのTKO負けだっただろう。確かに、あそこから盛り返したのは驚いたが、正直言って彼の勝ちではない。

―ところで以前、オランダで格闘技雑誌を作っていましたね? 僕も寄稿していました。

アリスター 『ロイヤル・ランブル』だね。2004年から2年半やっていたけど、2007年に売却して、その後、休刊したんだ。

―なぜ、雑誌のオーナーになろうと?

アリスター 自分の中に、起業してみたいという気持ちがあったんだ。当時はマーケットもよさそうだったからね。俺はいつも、何かクールなモノを作りたいと思っているんだ。オンラインのドキュメンタリーも作ったんだよ。

―ドキュメンタリーですか?

アリスター 『アリスター・オーフレイム』というシリーズものさ。見せてあげよう。ほら(iPhoneで動画を見せる)。シーズンが3つある。各シーズンはいくつものエピソードに分かれていて、全部合わせると12、13時間くらいになるね。

―それは大作ですね! ネットで無料視聴できるんですか?

アリスター 誰でもタダで見られるよ!

―それは素晴らしい! あ、これはレスナーをKOして引退させた試合の映像ですね。

アリスター そうだ。試合後の控室の映像も見られるよ。まだ日本のファンにはそれほど知られていないみたいだから、ぜひ見てほしいね。

俺は大麻は大嫌いだ!

―アリスター選手は、アメコミからそのまま出てきたような肉体美も魅力ですが、リングスやPRIDE時代にはライトヘビー級でしたし、もっと痩せていましたね。どうやって体を大きくしたんですか?

アリスター パワートレーニングをたっぷりしたし、食事法も研究した。1日8回食事を摂ったりね。今は食事法を変えて、トレーニングキャンプ中は1日5食にしているけど。以前ほどパワートレーニングはしていないけど、また再開するよ。

―食事では、いわゆる“スーパーフード”を食べたり?

アリスター たくさんのスーパーフードを食べるよ。アサイーとか、韓国ではキムチもたくさん食べる。それにブロッコリーやアボカドもたくさん食べる。スーパーフードは素晴らしいよ。ビタミンとミネラル、アミノ酸が豊富で、若さを保たせてくれるんだ。

―肉もたくさん食べますか?

アリスター それほどは食べない。ただ、ここ2週間は毎日焼肉を食べたけど(笑)。それに寿司も毎日食べた。オランダやアメリカでは寿司も焼肉も日本みたいに質がよくないから、日本をいつも恋しく思ってるんだ。

―ところで最近、日本では高樹沙耶という元女優が大麻所持の疑いで逮捕されました。彼女は医療用大麻の合法化を訴え、参院選にも出たのですが…。アリスター選手の母国であるオランダや、アメリカのいくつかの州では合法ですね。大麻について、どう思います?

アリスター 俺の父はジャマイカ人で、確かにジャマイカは大麻で有名だが、俺はやらない。全然興味がない。嫌いだね。俺はアスリートだし、やってみたいなどという気持ちも起きない。格闘技は大きなアドベンチャーみたいなものだから、俺には大麻やドラッグなんてものは必要ないんだ。確かに、オランダでは大麻を合法化したことで社会にポジティブな影響が出ているという研究もある。だけど、俺は大嫌いなんだよ!

―わかりました(笑)。では格闘技に話を戻して、日本でのご自身の試合で一番好きなのは?

アリスター たくさんあるよ。K-1でのバダ・ハリ戦、DREAM王座を獲ったトッド・ダフィー戦、そしてK-1GPで一晩に3試合に勝って優勝した試合。グーカン・サキ、タイロン・スポーン、ピーター・アーツとひと晩で戦ったんだ。それと、その1年前に韓国でやったアーツ戦。あれも素晴らしい勝利だった。それにPRIDEでのイゴール・ボブチャンチン戦。ヴィトー・ベウフォート戦、ハリトーノフ戦…たくさんの素晴らしい勝利の思い出があるよ。

―最後に、日本のファンにメッセージを。

アリスター 日本のファンのみんな、愛してるぜ! みんなの前で試合できなくて寂しいよ。いつかまた日本で試合をしたい。それまでは、ネットで俺のドキュメンタリーを見ていてくれ!

●アリスター・オーフレイム1980年にイングランドで生まれ、母国オランダで育つ。総合格闘技では日本のDREAM、米ストライクフォースでヘビー級王者になり、キックボクシングでもK-1GPを制した。2011年のUFC初参戦ではいきなり強豪ブロック・レスナーにTKO勝利。今年9月のヘビー級タイトル初挑戦は敗れたが、トップコンテンダーとして活躍。アリスターのドキュメンタリー、UFCの最新情報は公式サイトでチェック!

(取材・文/稲垣 收 撮影/保高幸子)