韓国のイ・ボミなど海外勢の活躍が目立つ女子プロゴルフ界で、久々に日本人選手による快挙があった。
国内の女子プロゴルフ最高峰の試合である、日本女子オープン(9月29日~10月2日)を、17歳で当時アマチュアだった畑岡奈紗(なさ)が史上最年少で制覇したのだ。その優勝から間もなくプロ転向した、現役女子高生プロゴルファーの活躍に早くも注目が集まっている。
畑岡がゴルフを始めたのは11歳。最近は3歳、4歳くらいからクラブを握る子も多いため遅いほうだが、そのハンデを補って余りある体の強さがあった。中学のときに陸上の200mで県大会7位に入るなど、身体能力の高さは抜群。それに加え、ゴルフを始める前にやっていた野球で基礎体力がついた。
幼年期にゴルフを始めた選手は、小さい体がクラブに振られるようなスイングになる。それにより、遠心力をうまく利用した力(りき)みのないスイングができるようになるが、飛距離を出すには限界がある。そのさらに上の段階にあるのが、手足を除いた胴体=体幹を使ったスイング。現在トッププロたちも目指している「体幹スイング」を、体の強さがあった畑岡はいきなり身につけてしまったのだ。
日本女子オープンのテレビ解説を務めた森口祐子は、畑岡のスイングをこう絶賛する。
「女子オープンの会場にある練習場でプロたちのなかに交じっても、彼女のスイングは際立っていました。スイング中、体とクラブの動きがひとつにまとまって見えるんです。通常は加速していく右手が長く見えるものだけど、彼女は両手がほぼ同じ長さに見える。腕に頼らず、体の使い方に無駄がない理想的なスイングをしていました」
球筋の変更を短期間でやってのける吸収力
日本女子プロナンバーワンの「飛ばし屋」渡邉彩香に対しても、畑岡は去年のpontaレディスで何度か飛距離で勝ってみせている。ショットに関しては、すでにプロのなかでも国内トップクラスにあるといっていい。
畑岡は、アメリカのツアー出場権を獲得するための予選会である「Qスクール」を受験中だ。今後、畑岡が米ツアーで活躍する可能性について、世界ジュニアの監督として畑岡を見てきた井上透プロは驚くべき予測を口にした。
「初めて会ったのは3年前の世界ジュニアの国内予選で、いいドロー(軽いフックのボール)を打ち、距離も出ていました。その1年後には持ち球をフェード(軽いスライスのボール)に変えて世界ジュニアを獲(と)り、今年はフェードを持ち球にしながら状況によってドローを打ち分けるプレースタイルで、世界ジュニアを連覇した。
そう簡単ではない、球筋の変更を短期間でやってのける吸収力を彼女は持っている。来年は、米ツアーで勝利し、トップ10に入ってもおかしくない。日本ツアーなら、初年度から3勝くらいできますよ」
畑岡自身は「アプローチのバリエーションを増やさないと世界では戦っていけない」と、自らの課題を口にするが、師匠の中嶋常幸をして「悪いところを探すほうが難しい」と言わせるほど、その完成度は高い。畑岡奈紗が、日本、そして世界のゴルフ界を席巻するのは、そう遠い未来の話ではないかもしれない。
(取材・文/古屋雅章)