年間1位の浦和が準決勝で対戦する川崎と鹿島の勝者と対戦する

今シーズンの総決算、J1王者を決するチャンピオンシップ(CS)がいよいよ幕を開ける。今回のCSは、まず11月23日に年間2位の川崎フロンターレとファーストステージ優勝チームの鹿島アントラーズが準決勝で対戦。試合は川崎のホームで行なわれ、90分で引き分けとなった場合は年間2位の川崎が勝者となる一発勝負のハンデ戦だ。

そして準決勝の勝者が年間1位の浦和レッズとホーム&アウェイの決勝戦を戦い、11月29日の第1戦は準決勝の勝者のホームで、12月3日の第2戦は浦和のホームで行なわれる。

決勝戦の勝敗決定方法は、2試合とも延長戦を行なわず、90分の試合結果により勝利数の多いチームが優勝。もし1勝1敗もしくは2分けとなった場合は2試合の合計得失点差、それが同じだった場合はアウェーゴール数が多いチームが優勝となるが、それも同じ場合は年間1位チームが優勝するという若干のアドバンテージが浦和に用意されている。

少々複雑に思えるかもしれないが、1ゴールごとに戦況が大きく変わるケースが想定され、スリリングな観戦が楽しめること請け合い。戦う選手たちにとっては引き分けでも勝てるというアドバンテージが心理状態と戦い方に大きく影響するだけに、試合中は身体だけでなく頭もフル回転させるプレーが要求される。

特に一発勝負の準決勝では、鹿島はゴールを奪って勝つしか道がないという追い詰められた状況で試合を迎える。ゴールがなければ敗退が決定するため、積極的に攻撃を仕掛けなければいけないというハンデが試合の面白さに拍車をかけてくれるはずだ。試合開始から前に出て行くのか、それとも慎重にゲームを進めながら機を伺って攻撃に出るのか。観る者としては、鹿島の出方を基準に観戦するとわかりやすいはずだ。

もっとも、迎え撃つ川崎はリーグ屈指の攻撃力が最大の武器。今シーズン限りの退任が発表されている風間八宏監督が掲げるコンセプトにブレはなく、司令塔の中村憲剛を中心に華麗なパス回しで相手DFを揺さぶり、次々と攻撃の手を打ってくるスタイルがチームの特徴だ。それだけに、引き分けでも勝てるというアドバンテージを持つ川崎が守備的に戦うというゲーム展開は考えにくい。

川崎のキーマンは、サイドバックも攻撃的MFもできるブラジル人のエウシーニョだろう。前哨戦となったセカンドステージ第16節では、試合途中でMFからサイドバックにポジションを変えて相手を惑わした上で、果敢なオーバーラップから決勝ゴールをアシスト。神出鬼没な動きとハイレベルなテクニック、そして自らゴールを決める能力もあり、鹿島にとってエウシーニョはやっかいな存在といえる。

逆に川崎の弱点は守備面にある。今シーズンは失点数が減ったものの、ゴールから逆算したサッカーゆえ、どうしても90分の中で守備に綻(ほころ)びが出る場面が生まれてしまう。守護神のGKチョン・ソンリョン、センターバックのエドゥアルド、あるいは谷口彰悟ら個人能力に頼る部分が大きく、それぞれのパフォーマンスがカギとなる。

鹿島は攻撃に不安。浦和は死角なし

対する鹿島はファーストステージで活躍したカイオがカタールリーグへ移籍したことで、セカンドステージは攻撃力がダウン。セカンドステージを4連敗で終え、順位も11位と低迷した。また、中盤の要である柴崎岳が故障で戦列を離れてしまったのも大きな痛手となり、CS準決勝ではセカンドステージ終盤の悪い流れを断ち切ることと、柴崎が復帰できるかどうかもポイントになりそうだ。

堅い守備と勝負強さが特徴の鹿島にとってポジティブな材料は、これまで17個のタイトルを獲得しているという経験値だ。川崎がまだ無冠であることを考えると、大舞台で重要になる経験の部分で大きなアドバンテージがある。キーマンと目されるテクニシャンのMF遠藤康が攻撃に絡めるかどうか、そして石井正忠監督がMFファブリシオをどの時点で投入するかも合わせて注目したい。

一方、決勝で待ち構える浦和に死角は見あたらない。戦前の予想でも優勝最有力候補で、年間チャンピオンの実力は安定性も含めて他の2チームよりも上回っていると見ていい。

最大の特徴は、2012年から指揮を執るミハイロ・ペトロヴィッチ監督が浸透させた独自のサッカースタイルだ。フォーメーションは3-4-3だが、3バックの左右を務める槙野智章と森脇良太は積極的な攻め上がりで攻撃の起点となり、とりわけ今シーズンは森脇のサイドチェンジが攻撃に大きな効果を発揮している。また、司令塔として中盤に君臨するMF柏木陽介のバリエーションに富んだパスも相手にとっては要注意。攻撃力は川崎と同レベルの力を誇っている。

しかも浦和は守備力も高い。2ndステージ12失点というリーグトップの数字がそれを証明しているが、そのキーマンとなっているのがMF阿部勇樹だ。低い位置で構えて全体を見渡し、ディフェンスラインに下がって空いたスペースを埋めるポジション取りはクレバーのひと言。精度の高いキックは今も健在で、ロングフィードやセットプレーにおける阿部は要注目だ。毎試合同じレベルの安定感のあるパフォーマンスを見せられる強みもあり、タイトル獲得にその存在は欠かせない。

浦和は選手層も厚く、途中出場の選手のクオリティもリーグ随一。勝負どころで投入されるFWズラタンやFW李忠成を筆頭に、守備固め用の駒も控えており、先制した試合では滅法強さを発揮する。昨シーズンまではタイトルを前にすると勝負弱さを露呈するという悪癖があったが、今シーズンはルヴァンカップ(リーグカップ)優勝とセカンドステージ優勝を達成し、その問題も解消されたと見ていい。

試合日程が極端に空いてしまったことで調子を崩す可能性は否定できないが、12月3日の第1戦で引き分け以上の結果を残せば、浦和レッズがCSを制覇する確率は一気に高まるはず。浦和にとっては対戦相手が川崎か鹿島かはそれほど重要ではない。敵は己にあり。浦和が涙を呑むとすれば、ミスによる自滅が原因となるだろう。

J1は来シーズンから1シーズン制が復活するため、チャンピオンシップならではの面白さを堪能できるのは今回がラストチャンス。見逃す手はない。

(取材・文/中山 淳 写真/ゲッティイメージズ)