今年は投手42名、野手23名の計65名が参加。各自ウオーミングアップを終え、ルール説明が始まると一気に緊張感が張り詰める 今年は投手42名、野手23名の計65名が参加。各自ウオーミングアップを終え、ルール説明が始まると一気に緊張感が張り詰める

11月12日。阪神甲子園球場で行なわれた「プロ野球12球団合同トライアウト」に投手42人、野手23人が集結した。

この日、結果を出したからといって、来季の契約が約束されるわけではないが、それでもやるしかない。男たちの熱き1日に密着した。

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3年連続で雨に祟られていた昨年までとは打って変わり、晴れ渡る青空の下、最高気温20℃というかつてない“熱さ”のなかでの開催となった。

65人が参加した運命の1日を見守ろうと、早朝から集まったファンは約1万2千人。開放された内野スタンドには「なんでこんなに人がおるんや!?」と主催側や報道陣、選手から驚きの声が上がるほどの人でごった返した。

大きな拍手に包まれ、この日、最初にマウンドに上がったのは、今夏の甲子園で優勝を遂げた作新学院出身の寺田哲也(ヤクルト)だ。

「歓声が大きくてびっくりしました。1番手ということで、初球は力のあるストレートでいこうと、思い切り腕を振りました。枠を外れましたけど、ファウルになったので結果としてはよかったです」と笑顔を見せた寺田は、柴田講平(阪神)、川上竜平(ヤクルト)、内村賢介(DeNA)を3者三振に切って取った。

ノムさんの愛弟子として楽天で活躍した俊足好打のスイッチヒッターも、トレードで横浜に移籍後は出場機会に恵まれず。この日は1安打ながらも、フォアボールを選び盗塁を成功させるなど俊足の健在ぶりをアピールした ノムさんの愛弟子として楽天で活躍した俊足好打のスイッチヒッターも、トレードで横浜に移籍後は出場機会に恵まれず。この日は1安打ながらも、フォアボールを選び盗塁を成功させるなど俊足の健在ぶりをアピールした 内村賢介 内野手 DeNA・30歳

続く久保裕也(DeNA)もふたつの三振を奪ったが、元同僚の加藤健(巨人)には安打を許した。

「昨日、新幹線に乗るときに、内海と坂本から『頑張ってください、応援しています』ってLINEが来て、すごくうれしかったです。今日は最後のマウンドになるかもしれませんし、思い切り投げました。カトケン(加藤)には紅白戦でもよく打たれたんですけど、今日も打たれちゃって悔しいです。終わった後、『カトケンにヒット打たれた』って坂本にLINEしたら、『(笑)』と返ってきました」

その加藤健は「真剣勝負ができました」と笑顔。「初めてのことで流れもわかりませんでしたが、いい経験ができました。ピッチャーとは短い時間で難しいところもありましたが、コミュニケーションを取ってやれたかな」と、プロ18年目のベテラン捕手として存在感をアピールした。

かつては巨人の抑えも務めたタフネス右腕も昨年、横浜に移籍し、今季に戦力外通告を受けた。「初めてのトライアウト。ここまで根を詰めてやってきたので、来年もプロでやれることを信じてゆっくり結果を待ちます」 かつては巨人の抑えも務めたタフネス右腕も昨年、横浜に移籍し、今季に戦力外通告を受けた。「初めてのトライアウト。ここまで根を詰めてやってきたので、来年もプロでやれることを信じてゆっくり結果を待ちます」 久保裕也 投手 DeNA・36歳

“松坂世代”の長田、新垣も

長年オリックスで活躍した守備の名手はこの日も好守備を連発。「まだ守れるということは見せられた。一本でも多く安打を打ちたいという気持ちで練習してきた。まだ野球を続けたい」。38歳のベテランは新天地を求める 長年オリックスで活躍した守備の名手はこの日も好守備を連発。「まだ守れるということは見せられた。一本でも多く安打を打ちたいという気持ちで練習してきた。まだ野球を続けたい」。38歳のベテランは新天地を求める 後藤光尊 内野手 楽天・38歳

この日は久保、加藤のほかにも、18年前に高校野球界を沸かせた“松坂世代”の選手が2名参加していた。

2002年に自由獲得枠で西武に入団した長田(おさだ)秀一郎(DeNA)は、持ち味の思い切りのいいストレートで三振を奪う好投を披露した。

「悔いのないように、真っすぐを打たれたらしょうがない、ぐらいの気持ちで持っている力を出せたと思います」

長田の戦力外通告後、同じDeNAで中継ぎの柱に成長した須田幸太が、ツイッターに「僕の師匠は長田さん(中略)来年同じチームでプレーは出来ないけど、ずっと尊敬してます」との投稿を寄せた。

「若い彼らに何を残せたかはわからないけど、僕はゴリゴリの真っすぐで押すスタイルで、ファウルを打たせれば勝ち(笑)。中継ぎは1年を通して失点0では抑えられないので、傷を最小で抑え、いかに引きずらないかが大事。勝負の世界は厳しいけど、楽しいと今日改めて思いました」

もうひとりの松坂世代は、沖縄水産高時代の1998年、夏の甲子園で当時の最速記録151キロを出した新垣渚(ヤクルト)。

この日の最速は140キロながら、打者3人を完封。マウンドの上でじっと白球を見つめていたのが印象的だった。

「いい思い出がある甲子園なので、投げることができてよかったです。高校生のときにプロの道が開けましたし、『ここで始まってここで終わるのかな』と。まぁ、終わりたくはないんですが。

(松坂世代の存在は)刺激になりますよ。和田(ソフトバンク)からは、戦力外通告を受けたときに連絡があって、昨日も『頑張って』というメールをもらいました。励ましを受けると、もうちょっとやりたいなと思います。(松坂)大輔も来年はやってくれると思うので、自分も、もうひと花咲かせたい。でも、こればっかりはどうにもできません。粘って家族を困らせるわけにもいかないし、今回NPBから話が来なければ、引退ですね」

甲子園を沸かせた松坂世代のスター。かつてスライダーのキレは球界随一といわれた。「出来はいいときの60%ぐらい。でも、思いっ切り投げました。スライダーで三振を狙ったけど、ワンバウンドになっちゃいましたね」 甲子園を沸かせた松坂世代のスター。かつてスライダーのキレは球界随一といわれた。「出来はいいときの60%ぐらい。でも、思いっ切り投げました。スライダーで三振を狙ったけど、ワンバウンドになっちゃいましたね」 新垣 渚 投手 ヤクルト・36歳

 久本祐一 投手 広島・37歳中日、広島と15 年間所属したチームはほぼAクラスという久本は左打者から2奪三振。「試合勘を戻すのが大変だったんですけど、応援してくださる人のために最高のパフォーマンスをと思い、全部出し切れました」 久本祐一 投手 広島・37歳中日、広島と15 年間所属したチームはほぼAクラスという久本は左打者から2奪三振。「試合勘を戻すのが大変だったんですけど、応援してくださる人のために最高のパフォーマンスをと思い、全部出し切れました」

★後編⇒「独立リーグからの再挑戦組も。プロ野球合同トライアウトで夢を捨てきれない男たち」

(取材・文/村瀬秀信 撮影/祐實知明)