11月12日。阪神甲子園球場で行なわれた「プロ野球12球団合同トライアウト」に投手42人、野手23人が集結した。
この日、結果を出したからといって、来季の契約が約束されるわけではないが、それでもやるしかない。男たちの熱き1日に密着した。
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3年連続で雨に祟られていた昨年までとは打って変わり、晴れ渡る青空の下、最高気温20℃というかつてない“熱さ”のなかでの開催となった。
65人が参加した運命の1日を見守ろうと、早朝から集まったファンは約1万2千人。開放された内野スタンドには「なんでこんなに人がおるんや!?」と主催側や報道陣、選手から驚きの声が上がるほどの人でごった返した。
大きな拍手に包まれ、この日、最初にマウンドに上がったのは、今夏の甲子園で優勝を遂げた作新学院出身の寺田哲也(ヤクルト)だ。
「歓声が大きくてびっくりしました。1番手ということで、初球は力のあるストレートでいこうと、思い切り腕を振りました。枠を外れましたけど、ファウルになったので結果としてはよかったです」と笑顔を見せた寺田は、柴田講平(阪神)、川上竜平(ヤクルト)、内村賢介(DeNA)を3者三振に切って取った。
内村賢介 内野手 DeNA・30歳
続く久保裕也(DeNA)もふたつの三振を奪ったが、元同僚の加藤健(巨人)には安打を許した。
「昨日、新幹線に乗るときに、内海と坂本から『頑張ってください、応援しています』ってLINEが来て、すごくうれしかったです。今日は最後のマウンドになるかもしれませんし、思い切り投げました。カトケン(加藤)には紅白戦でもよく打たれたんですけど、今日も打たれちゃって悔しいです。終わった後、『カトケンにヒット打たれた』って坂本にLINEしたら、『(笑)』と返ってきました」
その加藤健は「真剣勝負ができました」と笑顔。「初めてのことで流れもわかりませんでしたが、いい経験ができました。ピッチャーとは短い時間で難しいところもありましたが、コミュニケーションを取ってやれたかな」と、プロ18年目のベテラン捕手として存在感をアピールした。
久保裕也 投手 DeNA・36歳
“松坂世代”の長田、新垣も
後藤光尊 内野手 楽天・38歳
この日は久保、加藤のほかにも、18年前に高校野球界を沸かせた“松坂世代”の選手が2名参加していた。
2002年に自由獲得枠で西武に入団した長田(おさだ)秀一郎(DeNA)は、持ち味の思い切りのいいストレートで三振を奪う好投を披露した。
「悔いのないように、真っすぐを打たれたらしょうがない、ぐらいの気持ちで持っている力を出せたと思います」
長田の戦力外通告後、同じDeNAで中継ぎの柱に成長した須田幸太が、ツイッターに「僕の師匠は長田さん(中略)来年同じチームでプレーは出来ないけど、ずっと尊敬してます」との投稿を寄せた。
「若い彼らに何を残せたかはわからないけど、僕はゴリゴリの真っすぐで押すスタイルで、ファウルを打たせれば勝ち(笑)。中継ぎは1年を通して失点0では抑えられないので、傷を最小で抑え、いかに引きずらないかが大事。勝負の世界は厳しいけど、楽しいと今日改めて思いました」
もうひとりの松坂世代は、沖縄水産高時代の1998年、夏の甲子園で当時の最速記録151キロを出した新垣渚(ヤクルト)。
この日の最速は140キロながら、打者3人を完封。マウンドの上でじっと白球を見つめていたのが印象的だった。
「いい思い出がある甲子園なので、投げることができてよかったです。高校生のときにプロの道が開けましたし、『ここで始まってここで終わるのかな』と。まぁ、終わりたくはないんですが。
(松坂世代の存在は)刺激になりますよ。和田(ソフトバンク)からは、戦力外通告を受けたときに連絡があって、昨日も『頑張って』というメールをもらいました。励ましを受けると、もうちょっとやりたいなと思います。(松坂)大輔も来年はやってくれると思うので、自分も、もうひと花咲かせたい。でも、こればっかりはどうにもできません。粘って家族を困らせるわけにもいかないし、今回NPBから話が来なければ、引退ですね」
新垣 渚 投手 ヤクルト・36歳
★後編⇒「独立リーグからの再挑戦組も。プロ野球合同トライアウトで夢を捨てきれない男たち」
(取材・文/村瀬秀信 撮影/祐實知明)