あらためて日本人は“看板”が好きだなと思うね。
アルゼンチン遠征中のU-19日本代表に、FC東京U-18の久保建英(たけふさ)君(15歳)が“飛び級”で初選出された。過去、U-19日本代表に中学生が選ばれたことはないので、異例の抜擢だ。
とはいえ、今回は純粋な実力で選ばれたわけじゃないだろう。彼のプレーはU-16日本代表などで何試合か見ているけど、技術レベルは高いし、面白い存在だ。でも、所属クラブ(J3)では3試合に出ただけ。いずれも途中出場で無得点。特別なパフォーマンスを見せているわけじゃない。
FC東京U-18には久保君より1学年上の平川怜君という選手がいるんだけど、U-16日本代表でも所属クラブでも、これまでのところ彼のほうが活躍しているし、アピール度は上だと思う。
また、“中学生でJリーグデビュー”ということで森本(貴幸・現川崎)と比較されることが多いけど、森本の場合はJ1でデビューして、シーズン4得点を挙げ、Jリーグ最優秀新人賞を受賞している。体格も大人顔負けだった。16歳のときに“飛び級”でU-19日本代表に選ばれたのも、抜擢というよりは結果を残しているのだから当然という感じだった。
プレースタイルがまったく違うとはいえ、久保君がデビューしたのはJ1よりもレベルの劣るJ3で、まだ結果も出していない。体の線も細い。現状では、U-19日本代表でもレギュラーポジションを奪うのは難しい。今後、メンバーに定着できるかどうかも未知数だ。
では今回、そんな彼が選ばれたのはなぜなのか?
“元バルセロナ”という“看板”はわかりやすい
U-19日本代表は2020年東京五輪を目指す世代で、U-20W杯(来年5月・韓国)への出場権も得ているとはいえ、まだまだチームの顔となる選手が見当たらない。また、今回は日程の都合なのか高校生をほとんど選んでおらず、メンバー枠に余裕があった。そこで日本サッカー協会が期待値込みで久保君を招集したということだろう。何しろ“元バルセロナ”という“看板”はわかりやすいからね。
将来有望な選手に国際経験を積ませることは悪いことではないし、今回の招集を全否定するつもりはない。夢のある話で、こういう選手が活躍してくれれば、日本サッカー界も大いに盛り上がるからね。スポットライトを当てたくなる気持ちは理解できる。
ただ、現状は勇み足というか、過剰な期待がかかっているようで少し心配。メディアも東京五輪を見据えて新たなスターをつくりたいのだろうけど、あまりに騒ぎすぎじゃないかな。まだプロでもない中学生には酷だ。実際、本人も困惑しているように見える。
騒ぐのは、J3ではなくFC東京のトップチームで試合に出るようになって、結果を残してからでいい。“和製メッシ”とか“元バルセロナ”とかそんな“看板”はほっといてあげてほしいよ。プレーを見て、純粋に実力を評価するのが彼のためだ。
いいものを持っているのは間違いない。久保君には雑音に左右されず、まずはJ1デビューを目指して頑張ってほしい。そして、いつか“元バルセロナの久保”ではなく“FC東京の久保”といわれる活躍を見せてほしいね。そのためにも、メディアもファンも慌てないで、長い目で彼を見守らないといけないよ。
(構成/渡辺達也)