順当に決勝へ駒を進めたスター選手軍団、レアル・マドリード 順当に決勝へ駒を進めたスター選手軍団、レアル・マドリード

12月15日に行なわれたクラブワールドカップ準決勝、ヨーロッパ王者のレアル・マドリード(スペイン)対北中米カリブ王者のクラブ・アメリカ(メキシコ)の試合は2-0でレアルが勝利。順当に鹿島アントラーズが待つ決勝戦へと駒を進めることとなった。

この試合で先制ゴールを奪ったのはカリム・ベンゼマで、試合終了間際にダメ押しゴールを決めたのはクリスティアーノ・ロナウド。今大会は故障によりギャレス・ベイルが欠場しているが、結果的にレアルが誇る強力3トップ「BBC(ベイル、ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウド)」トリオのうちのふたりが試合を決めたことになった。

世界的スター選手が額面通りの活躍をしたという点で、レアル・マドリードの来日を楽しみにしていたファンにとっては納得の試合だったといえるだろう。

ただし、この試合のマン・オブ・ザ・マッチ(MOM)に輝いたのは、ゴールを決めたベンゼマでもロナウドでもなかった。その栄誉を手にしたのは、ミッドフィールドで圧倒的な存在感を放ち、ゲームを見事に操っていたクロアチア代表の天才、ルカ・モドリッチだった。

「長旅で疲れていたけどよくやったと思うし、次に進めるのでいい試合だった。とにかく勝つことが目標なのでよかった」

試合後、MOM受賞会見の檀上で言葉少なめにそう語ったモドリッチは、ベンゼマやロナウドのような派手さはないが、世界中の誰もが認めるワールドクラスの司令塔だ。繊細なボールタッチ、正確無比なパス、巧みなドリブル、そしてピッチ全体を俯瞰しているかのような卓越したゲームビジョン。モドリッチがいなければ、前線のBBCトリオの威力は半減すると言っても過言ではない。

たとえば前半のアディショナルタイム、レアル・マドリードの先制ゴールのシーンだ。右サイドでボールを受けたロナウドに近づき、3度にわたるふたりの間のパス交換で相手守備陣を十分に引きつけたモドリッチは、ここぞというタイミングで左にいたトニ・クロースに横パスを入れる。その時、前線のベンゼマには相手DFがしっかりマークしていたのだが、モドリッチの横パスでクラブ・アメリカは守備ラインを上げることになり、そこでベンゼマのマークに一瞬の隙が生まれた。

パスを受けたクロースがベンゼマに送ったパスも一級品だったが、そこに至るまでの過程にこそ、モドリッチの能力と存在価値がうかがえた。「サッカーを熟知している選手」だけができる、いわゆる“気の利いたプレー”である。

しかも同じく攻撃の起点となるクロースと違うのは、モドリッチが攻撃のみならず、守備面においても重要な役割を果たしている点だ。現在のレアルは、守備的MFであるカゼミーロが攻守のバランスを保つキープレーヤーとなっているが、そのカゼミーロのカバー役を担っているのはモドリッチで、この準決勝でもインターセプト能力の高さと球際の強さを証明するプレーを何度も見せていた。

日本代表との縁もあるモドリッチの経歴

そして時間の経過とともにギアを上げていった後半、約5万人の観衆が詰めかけたスタジアムはまさに“モドリッチ劇場”と化した。

公式プロフィール上では身長174センチと記載されているが、実際は170センチあるかないか。決して体格に恵まれているわけではないが、鍛えられたその肉体、特に下半身の太さは目を見張るものがあり、それがフィジカルコンタクトの強さを支えている。身長で世界に劣ると言われる日本人選手にとって、モドリッチこそお手本とすべき選手だろう。

思い起こせば約10年前。2006年のドイツ・ワールドカップでジーコ監督率いる日本がグループリーグ第2戦でクロアチアと対戦した試合で、後半78分にクラニチャールに代わってピッチに投入されたのが当時20歳のモドリッチだった。それがワールドカップデビュー戦だったわけだから、どこか親近感も沸いてくる。

さて、18日に行なわれる注目の決勝戦。開催国・日本のチャンピンチームとして出場する鹿島が、クラブ世界一の座を賭けてレアル・マドリードに挑む。失うものはないとはいえ、さすがにワールドクラスの選手を揃えるレアル・マドリードに対して、気持ちだけでは歯が立たない。また、守備を固めるにしても、最低限のポイントは抑えなければ大敗を喫してしまうことは火を見るより明らかだ。

「ひとつひとつのプレーの質が高い。世界最高のクラブと対戦できるので楽しみたい」とは、準決勝でのレアルを視察した鹿島の石井正忠監督のコメントだが、指揮官が決勝戦のゲームプランをどのように描くのかは興味深いところ。いずれにしても、最も抑えるのが難しい選手は、豊富な運動量でピッチを縦横無尽に動き回るモドリッチとなるだろう。

ゲーム展開によって攻撃と守備の役割の比重を変えながら、的確なポジショニングでチーム全体のバランスをとり、ここぞというタイミングでドリブルを仕掛け、針に糸を通すような長短のパスを供給する。相手守備陣を自らのプレーで動かし、チームメイトが守備網を破るための穴をあける。鹿島にとって、これほどやっかいな選手はいない。

モドリッチをどう抑えるか。また、抑えられないことで何が起こるのか。ベンゼマ、ロナウドの派手なプレーに注目するのも楽しいが、その味わい深いプレーに注目すれば、サッカー観戦の楽しみが倍増すること請け合いだ。

(中山淳/取材・文 佐野美樹/撮影)