プロレス界に革命を起こし続けてきた天龍源一郎と長州力の知られざる「男の友情」に、骨太ノンフィクション作家、田崎健太が迫る!
前編記事で、出会いから全日本プロレス時代を振り返った両者。後編では、2003年に長州が旗揚げした「WJプロレス」における“シングル6連戦”が中断した真相を明かした!
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その後、長州と天龍は共に2大団体を後にすることになった。
まずは天龍である。90年に全日本プロレスから新団体SWSに移籍。SWS消滅後の92年に自らの団体WARを設立し、新日本のリングで長州、アントニオ猪木たちと対戦した。そして98年からフリーとなった。
一方、長州も2002年に新日本を退団。自らの団体WJプロレスを立ち上げた。03年3月、旗揚げ戦を横浜アリーナで行なっている。メインイベントは長州対天龍戦だった。旗揚げシリーズの長州対天龍“6連戦”が新団体WJの目玉だったのだ。
天龍「長州選手が自分の団体を持つって聞いたときは、ああよかったなと心から思った。(新日本でほかのレスラーたちの)中に挟まれて、いろいろ言われているのは知っていましたからね」
―旗揚げ戦の相手として打診を受けたときはどう思いましたか?
天龍「新団体で戦う相手を求めていたんでしょう。最初に声をかけてくれたということで意気に燃えてましたよ。長州選手(の顔)にサッカーボールキックしたり、DDTをやった。(場外の床で頭を打ち)すごい音がしたので、『長州選手、大丈夫か』と心配したのを覚えています」
長州「源ちゃん、相撲上がりだから、張り手が強烈なんだよ。手のひらでどこが一番硬くなるかわかっている」
天龍「ふっふっふ(かすれ声で笑う)。突っ張りかもしれないですね。見ている人は、以前の長州と天龍(の戦いぶり)を求めていた。俺たちはその頃に戻ろうと思って必死にもがいていた」
―このとき、天龍さんが53歳、長州さんは51歳。激しい対戦が響いて、第4戦からふたりの試合は中止になりました。公式発表は天龍さんがケガをしたことになっています。
長州「(首を振って)あれはもう完全にぼくがギブアップした。ヘタりましたよね。(天龍がケガと発表したのは)あれは、源ちゃんがぼくに塩を送ってくれたんです」
天龍「俺はもう、休めてよかった」
―天龍さんの強烈な張り手を受けて、長州さんの差し歯が飛んで、頬の肉を突き破ったとか。
長州「歯が抜けたり、肉を突き破るぐらいだったら問題ないんです。なんていうの? ワイヤーで(差し歯を固定)やっていたのが、全部崩れちゃった。(張り手を受けて)まともな歯も抜けかかって、その部分が化膿してきたんです。言い訳になっちゃうけど、ここまでなっちゃうと、どうしようというのがありましたね」
―そして欠場という判断をした。
長州「悩まずに(リングに)上がっちゃえば、なんとかなったかもしれない。でも、もう悩んじゃうと…」
―天龍さんは、自分のケガが原因で対戦中止と報じられることはいやではなかったんですか?
天龍「(問いには答えず)俺はもう、休めてよかったと思っていましたよ。儲かったと。プロレスってね、リングに上がる前、煩わしいことと希望が入り交じった複雑な心境になるんです。あのときは毎回、長州選手と戦わなければいけない、それから解放された。ああ、もう行かなくていいんだというのが大きかった」
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ふたりの会話の中には、プロレスの”本音と建前”、男の友情と照れが交錯する。その関係は、昨年11月15日に両国国技館で行なわれた天龍の引退試合にもよく表れていた。
天龍はメインイベントで新日本プロレスのIWGPヘビー級王者(当時)、オカダ・カズチカと対戦。長州はWJ時代の弟子、石井智宏とタッグを組んで、齋藤彰俊、河上隆一組と対戦している。
そのことを長州に尋ねると「えっ? ぼく出ていますか?」という返事が返ってきた。
石井とタッグを組んで出場していると指摘すると、ああそうかと高い声を出した。しかし、天龍の試合は見ていないともつけ加えた。
「ぼくは(自分の試合が終わって)シャワーを浴びて駐車場に向かっていた。裏を通るときに、源ちゃんが名乗りを上げていた。客は満杯になっていたね。あー、源ちゃん大変だなぁと思っていた」
この日、両国国技館は近年のプロレス興行では珍しく“超満員札止め”となった。長州は客の入りに安堵(あんど)しつつ、ひと足先に会場を後にしたのだ。
必要以上には踏み込まないが、細い紐(ひも)で結びついている。素っ気ないが温かい、こんな男の関係も悪くない。
●長州力(ちょうしゅう・りき) 1951年生まれ、山口県出身。72年ミュンヘン五輪にレスリング韓国代表として出場。74年、新日本プロレスでデビュー。82年に始まった藤波辰爾との“名勝負数え歌”でブレイクし“革命戦士”の異名で時代の寵児となった。その後、全日本プロレス参戦を経て、新日本に復帰。90年代には「現場監督」として団体を牽引した
『長州力DVD-BOX 革命の系譜 新日本プロレス&全日本プロレス激闘名勝負集』 1974年の日大講堂におけるデビュー戦から、2000年の大仁田厚とのノーロープ有刺鉄線電流爆破デスマッチでの復帰戦まで新日本と全日本における激闘史をDVD8枚、25時間超に収めた決定版。前田日明、天龍源一郎とのスペシャル対談も収録。販売元:バップ 価格:3万円+税
●天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう) 1950年生まれ、福井県出身。大相撲を経て76年、全日本プロレスでデビュー。全日本の三冠ヘビー級、世界タッグ、新日本のIWGPヘビー級、IWGPタッグなどメジャー団体のタイトルを総ナメにした“ミスター・プロレス”。2015年、超満員の両国国技館にてオカダ・カズチカを相手に引退試合を行なった
映画『LIVE FOR TODAY-天龍源一郎-』 2015年の引退発表からラストマッチまでを収めたドキュメンタリー映画。プロレスラーとしての姿だけでなく、娘であり「天龍プロジェクト」代表の嶋田紋奈氏と二人三脚で駆け抜けた家族の絆を描いている。2017年2月4日(土)より新宿武蔵野館、ユナイテッド・シネマ豊洲ほか全国順次ロードショー
●田崎健太(たざき・けんた) 1968年生まれ、京都府出身。ノンフィクション作家。著書に『真説・長州力 1951―2015』(集英社インターナショナル)『偶然完全 勝新太郎伝』(講談社+α文庫)『球童 伊良部秀輝伝』(講談社)『電通とFIFA サッカーに群がる男たち』(光文社新書)など。現在『KAMINOGE』(東邦出版)で「真説・佐山サトル」を連載中
(撮影/平工幸雄)