ニッポンの心は歌心。歌といえばプロ野球選手。
2016年もフィナーレ。名盤、珍盤、棒読み、パクリ、音程外しにオレ流、富永一朗まで、古今東西、珠玉の野球選手ソングを厳選! さぁ、張り切って歌いましょう!
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●最優秀歌唱賞(棒読み部門) 『掛布と31匹の虫』掛布雅之
「野球選手ソング」の王道ともいえるウグイス嬢の選手コールイントロから始まる、ほぼ全編棒読み状態の掛布の歌声が素晴らしすぎる一曲。
歌詞もブッ飛んでいて、なぜか掛布がひたすら謝罪するというもの。1番は打ち崩した相手投手に、2番は凡打した際のファンに、3番は自らのファインプレーでアウトにした相手打者に、最後は相手チームの監督に謝り続ける。
サビの決めゼリフは「♪ごめんして」。脱力感あふれるこのフレーズと、すべての感情を封印したかのような抑揚のない歌唱のコンボは一度耳にしたら頭から離れない。ちなみに企画構成、作詞はマンガ家のはらたいら、作曲はZARDや大黒摩季の生みの親であるレコード会社「ビーイング」の長戸大幸(だいこう)。
●豪華すぎアルバム賞 『サムシング』原 辰徳
ルーキーイヤーに新人王、2年目には早くも本塁打、打点ランキング2位(1位は棒読みの掛布雅之)と頭角を現した原が、その年のオフ(82年)にリリースした、知る人ぞ知る野球選手アルバムの金字塔。全10曲すべてが爽(さわ)やかなラブソングで、作曲は長渕剛、沢田研二、堀内孝雄、平尾昌晃、弾厚作(加山雄三)、吉田拓郎と超豪華!
歌のほうでも大事な場面(主にサビ)で音程を外すあたりは現役時代、チャンスに弱かった原の真骨頂か。ジャケットで原と並ぶのは愛犬サム。えっ、それでサムシングってこと!?
●最優秀デュエット賞 『そんなふたりのラブソング』落合博満・落合信子
現役時代、フグ屋で隣の客(音楽業界人)にひれ酒の飲み方を聞かれたのがきっかけでレコードデビューを果たした落合博満。ベスト盤を出すほどあまたある落合ソングのなかでも出色は、信子夫人とのこのデュエットソング。落合が「男一匹・嵐に向かう~」と歌えば、信子夫人は本職の演歌歌手のように見事なコブシを利かせた美声で「女一匹・ついて行く~」と続けるブリリアントな一曲。
リリースは86年オフ。ちょうどロッテを離れ、中日に移籍する頃、のんきに…いや、けなげにデュエットしていたのだ。
フィーチャリング長嶋茂雄の曲も!
●まさかの子役賞 『BIG 1』坂上 忍
王貞治の美しい一本足打法が印刷されたジャケットの中央で微笑むひとりの美少年。彼こそ、当時10歳だった坂上忍。世界新記録となる756号ホームランを記念してリリースされたこの曲だが、歌詞は平板で曲も単調。
本来ならば聴くべきところのない楽曲かもしれないが、ポイントは坂上少年が当時より大のヤクルトファンだったこと。大人の事情でライバル球団の曲を歌わねばならなかった坂上少年の苦心を慮(おもんぱか)って「子役賞」を贈りたい。
●トンデモ企画賞 『果てしない夢を』ZYYG、REV、ZARD&WANDS featuring 長嶋茂雄
93年リリース。当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったビーイング系ミュージシャンの夢のコラボに、何をどーすればこーなったのか、同年より巨人軍監督に復帰した長嶋茂雄がフィーチャリングされた、よくわからないんだけどスゴすぎる一曲。
約5分の歌のなかで、ミスターの登場パートは3分36秒からの13秒間のみだが、その13秒で全部を持っていく衝撃の歌唱力は必聴。ちなみに僕はこの曲で初めてフィーチャリングという言葉が「客演」の意味であることを知った。