天皇杯も準優勝と、初タイトルにあと一歩届かなかった川崎

カップを掲げて喜びを爆発させる鹿島アントラーズの選手たちと、その様子を悔しそうに見つめ、うなだれる川崎フロンターレの選手たち。元日に行なわれた天皇杯決勝後の光景は、これまでに何度も目にしたものだった。

延長戦までもつれ込んだファイナルは、川崎を2-1で下した鹿島が6大会ぶり5回目の優勝を飾った。この戴冠で鹿島はJリーグ、リーグカップ(=現ルヴァンカップ、旧ナビスコカップ)、天皇杯の3大タイトルにおける優勝回数を「19」に伸ばした。

一方、敗れた川崎はまたしても悲願のタイトルに届かなかった。過去にリーグ戦2位が3度、カップ戦2位が3度ある彼らは2016年シーズンもJ1ファーストステージ2位、年間順位2位、そして、天皇杯でも準優勝に終わったことで「シルバーコレクター」との印象をさらに強めてしまった。

「またしても」という印象が強い一方で、「ようやくここまで」という印象もある。

川崎が最後にリーグ戦で2位となり、カップ戦で準優勝したのは09年シーズンのこと。それ以降の6年間、リーグ戦で最後まで優勝を争うことも、カップ戦の決勝に勝ち進むこともなかった。つまり、この6年間は「シルバーコレクター」にすらなれていなかったのだ。

04年に就任した関塚隆監督(元ロンドン五輪日本代表監督)が09年を最後に退任すると、高畠勉体制が1年、相馬直樹体制が1年4ヵ月で終焉。12年4月末に風間八宏監督を招いてスタイルを刷新し、ようやくここまでたどり着いたともいえる。

その風間監督も16年シーズン限りでの退任が決定し、後任には鬼木達(とおる)コーチが就くことが決まっている。

川崎にとって理想とすべきは、サンフレッチェ広島の成功例だ。12年シーズンにミハイロ・ペトロヴィッチ監督の後任に就いた森保一監督が、戦術面をうまく引き継ぎながら守備面を強化。さらに勝負にこだわるメンバー選考を行ない、12年からの4シーズンで実に3度のリーグ制覇を成し遂げた。

前任者が理想を追求し、選手の能力とチーム力を大きく引き上げながらもタイトルには手が届かなかったという点で、川崎と広島には共通する部分がある。

鬼木新監督に求められるものは?

鬼木新監督に求められるものは、当時の森保監督と似ている。前体制で足りなかったもの――選手との密なコミュニケーションや心理ケアといったマネジメント面、相手の分析や対策などの勝負のディテール――を補い、勝てるチームへと成長させることがミッションだ。

その点で、チームと選手のことをよく知り、なおかつ、日本で最も勝ち方を知るクラブである鹿島出身の鬼木は新監督として適任と言える。キャプテンの中村憲剛も新シーズンをこう想像する。

「鬼木さんが監督になっても、これまで積み上げてきたものをより突き詰めるというのは変わらないと思うけど、よりリアリストの部分が増すと思います」

天皇杯決勝を戦い終えた後、鹿島のキャプテン、小笠原満男がこんなことを言っていた。

「これからがもっともっと大事になってくる。この経験は絶対に財産になるから、これを途切れさせないように、さらに強いチームになっていきたいと思います」

その意味でいえば、川崎はカップ戦の決勝に進出した自信や、そこで敗れたという悔しさを09年で途絶えさせ、振り出しにしてしまったことが問題だった。重要なのは、またしてもタイトルを獲れなかったと否定するのではなく、ようやくここまでたどり着いたことを肯定し、これまでの取り組みを極めることだろう。

16年シーズンに掴んだ手応えの感触が温かいうちに、16年シーズンにタイトルを掴み損ねた悔しさが生々しいうちに「途切れさせないこと」と「上積みすること」をテーマに新たな一歩を踏み出したい。

(取材・文/飯尾篤史 写真/アフロ)