昨年のリオ五輪出場を逃し、成長を期してイタリアに渡るも、苦闘が続く石川。セリエAのレギュラーシーズンが終わる3月までに輝きを放つことはできるのか

これまでの石川祐希のバレー人生は輝きに満ちていた。

星城高校(愛知)時代に春の高校バレー(春高)連覇を果たし、中央大学に入ってからも、全日本大学選手権でチームを18年ぶりの優勝に導くと、以降3連覇。2015年秋のワールドカップではエースとして活躍し、全日本男子が20年ぶりに5勝を挙げる立役者となった。

端正な顔立ちから女性人気もすさまじく、春高の際には“影武者”を使って体育館から脱出したり、今年度の関東大学秋季リーグ戦では「ファンに対応しきれない」と無観客で試合が行なわれたりと異例ずくめ。

そんな、日本では実力・人気共にトップの石川が、2度目の挑戦となったイタリア・セリエAで試練の時を迎えている。

世界トップクラスのリーグであるセリエAに、石川が初めて挑戦したのは2014年。強豪モデナに入ったことで、なかなか出番を得ることはできなかった。その教訓を生かし、2度目は「出場機会を重視して」昨季14チーム中8位のラティーナを選び、昨年の12月初めに海を渡ったのだが…。

渡航5日目の試合も、その次の試合も出場機会はなかった。ケガの影響もあって、ベンチ入りはしてもスパイクやサーブの練習ができない日々が続いたという。

石川のケガが癒えたのは、イタリアに渡ってから約1ヵ月後のこと。チームの情報規制が厳しいなか、「1月15日の試合にデビューするかもしれない」という不確かな情報を信じて現地に飛ぶと、試合の前日練習でスパイク、サーブを打つ石川の姿があった。

練習後、石川は「今週から練習にフルに参加できるようになったばかり。試合に出られたら、自分らしくやるだけです」と苦しい現状を語った。

15日のモンツァ戦も、スタメンに石川の名前はなかった。ラティーナが終始リードを保って3セット目のマッチポイントを迎えたところで、ようやく石川が呼ばれる。ピンチサーバーとして力強いサーブを入れると、崩れた相手のスパイクをチームメイトがシャットアウト。久々の実戦で、マッチポイントのサーブを得点につなげるところはさすがだが、1球で出番は終わった。

試合後、「(ラティーナで)初めて出ましたけど、特別な思いはない。今日は日本のメディアがたくさん来てくれたので、出してもらえただけだと思う」と、少し目を伏せてデビューをふり返った。

セリエAではほかの選手に「ひけはとらない」程度

ラティーナのダニエレ・バニョーリ監督は、石川について「セリエAはサーブがいいから、レシーブ力を磨くことが必要だね」と課題を挙げる。石川の攻撃力は、日本では間違いなくトップ。

しかし、セリエAでは他の選手に「ひけはとらない」程度だ。セリエAで存在感を示すには、レシーブ力を磨いて穴のない選手を目指すか、攻撃力で抜きん出るしかない。

石川はそれをわかった上で、「レシーブもですけど、攻撃力をもっと磨きたい。まだサーブやスパイクを打ち始めて5日目なので、これから練習でアピールして、試合に出場する機会を増やしていきたいです」と奮起を誓った。

移籍期間は今年3月末までを予定している。それまでに、セリエAの強いサーブ、高いブロックが、石川を鍛えてくれるだろう。“日本バレー界史上、最高の逸材”の、さらなる成長に期待したい。

(取材・文/中西美雁 撮影/坂本 清)