新日本プロレス叩き上げのジュニア戦士・髙橋ヒロム。昨年末の12月に4年近い海外武者修行を終え凱旋帰国。1月4日の東京ドームで早くもIWGPJr.のベルトを獲得する快進撃を続けている。
そのベルトに2月11日、最大のライバルであるメキシコ人選手「ドラゴン・リー」が挑戦。日本とメキシコという約8千キロを隔てた“遠距離ライバル”ながら、対戦要求をするためだけにわざわざ飛行機で行き来するほど熱い関係のふたり。そんな熱すぎるカードにSNSでも火が着き、世界のプロレスファンが心待ちに!
ということで、新年の恒例となった“ルチャの祭典”「FANTASTICA MANIA」参戦中の髙橋ヒロム選手に心境を直撃した。
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―12月にアメリカから凱旋、快進撃が続いていますが、その前は2014年1月からメキシコで武者修行をしていたんですよね?
髙橋ヒロム(以下:ヒロム) 最初はイギリスに行ってたんですけど、その時の自分がダメすぎて…。すべてを変えたいと思ってメキシコ行きを決めたんです。マスクを被って「カマイタチ」というレスラーとして、イチからやりました。
―初めて触れる「ルチャリブレ」という試合スタイルに戸惑いもあったのでは?
ヒロム 半年ぐらいは「きれいにルチャをやらなきゃ」って必死でした。ルールも違うし、技をどう受けて相手を倒すかというのが、新日本で教わったことと全く違うんですよ。
そこで出会ったのがドラゴン・リーだったんです。アイツのスタイルはまさに新日本プロレスに近いものだった。彼もデビューしてまだ1年経たないぐらいでがむしゃらだったし、自分もそういう時期だし、初対戦ではそこがリング上かどうかも関係なく、とにかくバチバチにやりあったんです。
「ああ、メキシコにもバチバチやる選手がいるんだ」と思ったと同時に「俺、無理にルチャをやってたんだな」って。彼に出会って、レスラーがリング上で何をすべきか思い出したし、これからCMLLでどうやって生きていくかも気付かされたんですよ。
―ドラゴン・リーとの出会いが「カマイタチ」というマスクマンを形作った?
ヒロム そうですね。自分にも日本人としてのプライドがあるけど、向こうにもメキシコ人としてのプライドがあって「日本人に負けるか!」みたいな気迫がすごく伝わってきたんです。彼に会うまでは、そんなことあまり感じなかったんですよね。メキシコだと家族連れが観に来るような楽しい雰囲気の試合も多いので。
―試合内容は楽しくても、メキシコ遠征はとにかくハードだと聞きます。
ヒロム やっぱりハードですね。試合数が多いんで、会場に行って試合して、すぐ次に移動して試合して…と、週に9試合したこともありましたね。
―つまり1日に2試合以上!?
ヒロム 多い時は1日に3試合、4試合ということもあって、そんな日は最後にはもう頭がいっぱいいっぱいになります。年間では相当な試合数をこなしたと思います。
1日に3試合、4試合ということもあって…
―しかもメキシコは広いですし、移動距離も長いのでは?
ヒロム まちまちですけど、バスで15、6時間とかはキツいですね。渋滞とかが重なるともう最悪。“メキシコあるある”かもしれませんけど、途中でバスが故障して動かなくなって「次のバスに乗り換えてくれ」と全く知らない場所で降ろされることもあるんです。
そうすると、着くのが試合開始ギリギリになるんですよ。例えば、夜8時からの試合で、自分たちはメインだったとはいえ夜10時ぐらいに着いて、もうバスの中で着替えて試合してそのまま帰るみたいな。そんな毎日でしたね。
―2年3ヵ月もそういう暮らしをすると鍛えられそうですね。
ヒロム そうですね、メキシコはいつどこで何があるか本当にわからないんで。7、8時間かけて行ったら「今日の試合、なくなったから」ということも。野外のリングで大雨で中止になったり、主催者がチケットを売るのを忘れてて「お客さん入ってないから今日はキャンセルで」っていうのもありました。まあ、それはそれでいい思い出で、そういうところも含めて面白い国です。
―それを楽しめちゃうところもすごいです。…話をドラゴン・リーに戻しますと、彼は昨年の「FANTASTICA MANIA」で初来日し、日本でベルトの防衛戦を行なっています。当時、メキシコにいた高橋選手は電撃帰国して、試合直後のリングに乱入し挑戦表明。翌日に急遽、組まれたタイトルマッチは鬼気迫る激しい試合でしたね。
ヒロム 正直、潰してやろうと思ってましたよ。来日している他の選手もメキシコでは超一流ですし、ビッグマッチ級の凄い試合もあったとは思います。でも俺たちはCMLLと新日本の融合を見せられたと思う。
結果的に強引にタイトルマッチに持ち込みましたけど、実はタイトルを防衛しようが失おうがどっちでもよかったんですよ。ただ、日本のお客さんの前でシングルマッチがしたかった。CMLLと新日本プロレスがバチバチにやりあったらこんな凄いものができるんだということを見せたかったんです。
―そして今年1月5日、今度はメキシコにいるはずのドラゴン・リーが試合後のあなたを急襲、IWGPJr.への挑戦をするという、前回とは逆の構図に…。
ヒロム まさか自分が1月4日にベルトを獲った直後に、ああいう形でくるとは…。全くなんの警戒もしてなかったです。その週、彼はメキシコで試合が組まれてましたし、こんな弾丸で挑戦表明のためだけに来日して、まさかそのまま帰るとは…。
―試合もせずにとんぼ返りで、逆にかなりの情熱を感じましたよね。しかも「FANTASTICA MANIA」に合わせてではなく、2月に改めてタイトルマッチが組まれて。
ヒロム 「FANTASTICA MANIA」の全カードが発表された時になかったので、「組まなかったか、新日本プロレス」と思ったんですけど、翌日ぐらいに大阪(2月11日)の全カードが発表で、そこで組まれたのは意外でしたね。
タイトルを防衛しようが失おうがどっちでもよかった
―新日本としても重要視していたということでは。高橋選手にとっては初防衛戦ですが、ドラゴン・リーのタイトル初防衛時も対戦してますよね? ここでもまた同様に、逆の構図というのが運命的です。
ヒロム でも今回は向こうも防衛していてチャンピオンですからね。CMLLと新日本プロレスのチャンピオン同士がぶつかるわけですから、これは意地でも負けられないですよ。
―こんな形で、両団体の選手が強いライバル関係になったことは、過去にあまり例がないのでは?
ヒロム どうですかね。ただ、ライバルに出会えたことはデカいですよね。もしあそこでドラゴン・リーと出会ってなかったら今の自分はなかったと思いますし。
―実はすでにアメリカの団体でも目玉カードとして組まれるほど世界が注目するライバル関係になっています。
ヒロム 注目はされてましたよね。世界中で俺とドラゴン・リーの試合、やってみたらいいじゃないですか! 期待通りの試合しますよ。勝つのは自分ですけどね!
―ドラゴン・リーは「アイツとは鏡のような関係で、会うたびにすごい試合ができる」と言っています。
ヒロム ホント、思ってることはお互い一緒ですよね。自分たちにしかできないものは作ったと思いますし、アイツとならいい試合が、面白い試合ができる。そして何より楽しめる。単純に試合を楽しめるのって、選手として大事だと思うんですよ。
それまでは「どうしたらもっと上に行けるのか」と考えてたけど、ドラゴン・リーと出会ったら試合が楽しくなって、勝った時はもちろん、負けた時ですら悔しくても清々しいぐらいで。やる前、やってる時、やり終わった後、きっと最高の気分だと思います。
お互いに言葉を交わしたこともないけど、お客さんに求められているものはわかってるんですよ。シングルマッチのたびに「前回のシングルを超えなきゃ」という自覚はあって、お互いに意識しているんです。ただ、やっぱりベルトが懸かってると気持ちは違いますから。絶対に負けるわけにはいかないので、次のタイトルマッチは意地でも勝ちにいきます。
◆この続き、インタビュー後編は明日配信予定!
(取材・文・撮影/明知真理子)
●髙橋ヒロム 身長171cm 体重92kg 1989年12月4日生まれ。Twitter【@TIMEBOMB1105】
★試合スケジュール ■戦国炎舞 -KIZNA- Presents THE NEW BEGINNING in OSAKA@大阪府立体育会館(エディオンアリーナ大阪)2017年2月11日(土) 15:30開場 17:00開始 ※SOLD OUT ■戦国炎舞 -KIZNA- Presents 旗揚げ記念日@大田区総合体育館 2017年3月6日(月) 17:30開場 19:00開始