サッカーW杯が大きく変わる。本大会の出場国が、現在の32から2026年に48へと大幅に増えることが決まったのだ。この変更は世界の勢力図にどんな変化をもたらすのか? そして気になる日本代表への影響は?
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FIFA(国際サッカー連盟)が、2026年大会よりW杯の出場チーム数を、現在の32から48に拡大することを決めた。
グループリーグでは3チームずつの16組に分けられ、各組上位2チームの計32チームが、決勝トーナメントに進出。1チームの最大試合数(7)や32日間の大会日程は現在と同じだが、総試合数は64から80へと増える。増枠分を世界各地区の出場枠へどのように振り分けるかは、今後の理事会で決定されるが、各国の報道ではアジア8.5、欧州16、南米6.5、アフリカ9.5、北中米カリブ海6.5、オセアニア1といったあたりが有力視されている。
W杯の出場チーム数が拡大するのは、1998年フランス大会で24から32となって以来のこと。なぜここにきて、FIFAはさらに出場チームを増やす決定を下したのだろうか。サッカージャーナリストの後藤健生(たけお)氏がその理由を解説する。
「賄賂(わいろ)授受などで15年に幹部が逮捕された汚職事件の影響で、一昨年のFIFAの収支は赤字に転落しました。そうした減益分をカバーするため、出場国を増やして市場を拡大する狙いでしょう」
さらには、こんな側面も。サッカージャーナリストの西部謙司氏が語る。
「本来、出場枠を増やすのなら、FIFAランキング上位国の多い欧州により多く配分すべき。なのに、アジアやアフリカが、実力不相応な出場枠増となるとみられている。加盟国数の多い地区を優遇することで、次の改選時の票を確保したいという現会長の思惑が見えます」
さて、各地区の出場枠が増えるとなると、当然、予選突破の難易度は下がる。
「アジアを例にとると、日本、韓国、オーストラリア、イランといった、現時点でもW杯出場の常連となっている国は、ラクラク予選突破といった感じになるはず。残りの枠は、中国、北朝鮮、ウズベキスタンやカザフスタンの中央アジア諸国、ベトナム、タイといった東南アジア勢、サウジアラビア、カタール、UAEなどの中東勢の間で争われるでしょう。
また、アフリカや北中米カリブ海地区に今のFIFAランクを当てはめれば、日本人にはなじみの薄いブルキナファソ、オランダ領キュラソーなんてところが出場してもおかしくない。どの地区の予選も、今よりはるかに緊張感のないものになるのは確実です」(後藤氏)
「絶対に負けられない戦い」というフレーズも使う機会が減りそうだ(笑)。
懸念される試合の質の低下
「一方、欧州は増枠により、実力国が不運な組み合わせで予選敗退してしまう悲劇はなくなりそう。ただ、本大会に出場できない国でも、他大陸の出場国よりFIFAランク上位のところがいくらでもあるわけで、レベルの高い欧州や南米にとって、この増枠配分は不公平感があるはずです」(後藤氏)
となると、懸念されるのが、本大会全体における試合の質の低下である。
「グループリーグでは大差のつく試合が増えるでしょうね。また、力が拮抗(きっこう)した3ヵ国になった場合、最終節で『引き分け以上で両チームの決勝トーナメント進出が決まる』といった展開になる可能性もあり、0-0の“談合”試合になってしまう恐れがあるのです。だから、いずれにしても地区予選同様、本大会のグループリーグもずいぶんユルい雰囲気になってしまうでしょうね」(西部氏)
そんな事態を防ぐため、今回の増枠を主導したFIFAのインファンティノ会長は、グループリーグでもスコアが引き分けとなった場合、PK戦で決着をつける構想を持っているようだが…。
「だとすれば、90分間ではなんとかドローに持ち込み、PK戦で金星を挙げてやろうと守備的に戦う格下チームが続出するわけで、やはりつまらない試合が増えることになります」(西部氏)
■日本が決勝Tに進む可能性もアップ!
一方、決勝トーナメントが現行のベスト16から、ベスト32によるノックアウト方式となることは、どのような変化をもたらすのだろう?
「FIFAランクのさほど高くない国が対戦相手に恵まれたり、番狂わせを起こしたりして勝ち上がる可能性が少しは増えるでしょうね。でも、それで勝てるのはせいぜい一度か二度で、最終的には地力のある国に絞られてくるものです」(西部氏)
「トーナメントはそもそも下剋上が起こりやすい方式で、これまでのW杯でも珍しいことではありません。だから32チームで行なわれるようになるからといって、ジャイアントキリングが劇的に増えたりはしないでしょう」(後藤氏)
では、最も気になる疑問、出場国の増枠は、われらが日本代表の本大会の成績にいかなる影響を及ぼすのか?
グループリーグでは各組に欧州の国が必ずひとつは入ってくる上、そこに南米のいずれかの国が振り分けられる確率は約2分の1。一部メディアは、日本が“死の組”に入る確率が高くなり、グループリーグを勝ち抜くのが今まで以上に難しくなると予想していたが…。
W杯が再び日本で開催される可能性も?
「でも、逆にオセアニアや北中米カリブ海地区の下位国と同組になることもあるわけだし、欧州や南米といっても、絶対勝てないような国ばかりではない。私は日本のグループリーグ突破の可能性は、高まると思います。ただ過去の最高成績以上、つまりベスト16から先に進む確率は、対戦国も粒ぞろいになってくるので、これまでと変わらないのでは」(後藤氏)
「3チーム中2チームが突破でき、PK戦まであるのだから、グループリーグでは90分で負けなければOK。日本の実力なら、10年南アフリカ大会で岡田ジャパンがやったように恥も外聞もなく守り倒せば、決勝トーナメント進出はそう難しいものではなくなるでしょうね」(西部氏)
おお、つまり出場チームの増枠は、日本にとって追い風になりそうだと! 調子に乗ってもうひとつ。出場国増によって大会規模も大きくなるが、それによってW杯が再び日本で開催される可能性も高まったりする?
「試合数が80に増えるわけですから、共催でもしない限り、インフラの整った大きなスタジアムがすでにたくさんある国しか、大会を黒字運営できなくなります。欧州ならイングランド、ドイツ、スペイン、イタリアあたり、北中米はアメリカとメキシコ、南米での1ヵ国開催は無理。そしてアジアで開催できるとしたら、日本と中国ぐらいのもの。
ただ、22年カタール大会後、次にアジアで開催されるのは、おそらくその12年後、もしくは16年後。しかもカタールの次のアジア開催は、中国が国の威信をかけて取りにくるでしょうし、すでに開催経験がある日本が中国を押しのけて選ばれるとは考えづらい。その上、FIFAにしてみれば、金がうなっている中国企業を一社でも多くスポンサーに引き込みたいはず。われわれの目の黒いうちにW杯が再び日本で開催される可能性は、出場枠が増えようとまず変わらないでしょうね(笑)」(後藤氏)
結局、今回の増枠で一番得をするのは、FIFAと中国だったのか!?
(写真/ヤナガワゴーッ!)