小野伸二と稲本潤一。現在のJリーグで数少ない“現役のレジェンド”のふたりが、J1の舞台に戻ってくる。「地味になった」といわれて久しい日本のトップリーグにおいて、彼らのような選手の活躍に期待するファンは少なくないだろう。
1月半ばから、ふたりは昨年J1に昇格したコンサドーレ札幌の沖縄キャンプに参加した。どちらもケガを抱えており、現在も別メニューでの調整に時間を割いている。
小野はしつこい股関節の痛みが完治しておらず、ストレッチや患部周辺の筋肉補強に時間を費やしていた。ただし、そこに沈んだ空気はない。“太陽”とも形容されるポジティブな男は、終始笑顔を浮かべながら体のメンテナンスに取り組んでいた。
「まだ痛いので(ほかの練習は)やらないです。状態はよくないけど、焦りはない。ごまかしながらやることも可能ですが、それでは楽しみながらプレーできないので。楽しむのが僕のスタイルだと思うし、ファンの方にもその姿を見てほしいから」
一方、稲本は昨年6月のジェフ千葉戦で右膝前十字靱帯を断裂する重傷を負い、現在は回復の最終段階にある。キャンプでは体幹や筋力の強化を続けながら戦術トレーニングにも交じっていた。
「(回復は)予定どおりですね。沖縄では試合に出ないけど、(2月9日からの)熊本キャンプから合流し、試合のメンバーにも入りたい。焦らずにやっていきますよ」
ワールドユース(現在のU-20W杯)準優勝、3度のW杯出場、長年にわたる海外クラブでのプレー。得難い経験を持つふたりの言葉には重みがあり、共にピッチには立てなくとも「頼りになるし、いい影響を受けている」とチームメイトは口をそろえる。
また、小野はボールに触れば今でも別格の技術を見せ、フィードの正確性で稲本の右に出る者がいないことは誰もが認めるところだ。
だからこそ、ふたりには完治した状態で戦列に復帰してほしい。本来、高い能力を備えるベテランは、実戦の場から長く離れていても、万全の状態にさえなれば再びトップに君臨することができる。競技は違うが、テニス界のレジェンドである35歳のロジャー・フェデラーも「最高のレベルに戻るために」と、約半年を休養とリハビリに充て、先の全豪オープンを制した。
小野と稲本は今年で38歳となるが、前述したようにふたりに焦りはない。じっくりとケガの回復を待ちながら「自分らしくプレーすることを楽しみにしている」と異口同音に言う。30代後半の彼らを突き動かしているのは「サッカーが好きという気持ち」と、その原動力も同じだ。
今年50歳で現役を続ける三浦知良(横浜FC)について聞くと、小野は「本当にすごい。カズさんの背中を追っていく」と言い、稲本は「目標とかの次元ではないかもしれないけど、見習っている。カズさんより先には辞めたくない」と話した。当面は彼らの勇姿をピッチで見ることができるだろう。
今季から放映権料が増額されるJリーグには、その追い風を加速させられる“真の一流”の活躍が必要不可欠だ。彼らほど、それにふさわしい選手はいない。
(取材・文/井川洋一 撮影/青木一平)