東レのリベロ・妹の美里(左)とサーブレシーブを担い、ファイナルステージに進出した木村(右)。ラストシーズンの優勝を守備で引き寄せられるか

昨年10月に、今季限りでの引退を表明した木村沙織(30歳)の戦いが、いよいよ最終章を迎える。

木村が所属する東レアローズは、Vリーグのレギュラーラウンドを6位で終え、2月12日からのファイナルステージに駒を進めている。シーズン開幕当初は黒星が先行し、下位リーグとの入れ替え戦もちらついたが、天皇杯・皇后杯ファイナルラウンドを挟んだ12月から持ち直した。

その陰には、木村の“守備面”での支えがあった。今季、木村のサーブレシーブの本数は、昨季の359本から552本に激増。通常、サーブで狙われた選手は疲労がたまったり、精神的に余裕がなくなったりして成功率が落ちることが多い。だが、木村は昨季の68.0%から72.8%へと成功率を伸ばし、昨年のリオデジャネイロ五輪で日本代表の正リベロを務めた佐藤あり紗(日立リヴァーレ)に次ぐ、成功率2位にランクインした。

転機となったのは、天皇杯ファイナルでのシステム変更だった。菅野幸一郎監督が、それまで3人で行なっていたサーブレシーブを、木村と木村の妹であるリベロの美里(25歳)のふたりで担うように変えたのだ。チームの得点源である迫田さおりもローテーションによってはそこに加わるが、真正面のサーブ以外は基本的に木村姉妹にレシーブを任せている。

長年、日本のエースとして活躍してきた木村にとっては、悔しさが芽生えてもおかしくないシステム変更。しかし本人は、年明けのある試合後に「天皇杯(ファイナル)からシステムが変わって、すごく攻撃に厚みを置くチームになった。私とリベロの美里とでディフェンスをして、しっかり攻撃につなげたい」と語るなど迷いはなかった。その言葉どおり、菅野監督の狙いは“攻撃特化型”の選手を攻撃に専念させることだったが、これが思いもよらぬ副産物を生むことになる。

サーブレシーブを美里とふたりで行なうようになってから、守備を重視したはずの木村のスパイク決定率が上がり始めたのだ。開幕当初は20%台が多く、時には10%台まで決定率が落ち込む試合もあった。大黒柱の木村が10本打ってやっと1本決まるかどうかという状態では、東レが下位に沈んでいたのも無理はない。しかし、2枚レシーブ隊形になって以降は、30%台をキープし、40%を超える試合も出るようになった。

これも通常、サーブで狙われたアタッカーは、足止めされてなかなか攻撃参加ができず、スパイクの調子を落としてしまうもの。木村自身、過去にはサーブで狙われて調子を崩すことも多かった。

もともと木村は、小学生の頃はそれほど背が高くなく、大型選手が免除されがちなレシーブ練習もしっかり経験してきた選手だ。だが、国際大会でも「エース・木村沙織」の攻撃力を少しでもそごうと、世界各国のサーバーが木村を狙ってきた。それを見て、「サオリンはサーブレシーブがへた」と勘違いしていたファンも少なからずいるだろう。

しかし、ラストシーズンの木村は違う。「ひとつひとつ後悔しないような試合をしていきたい」という決意を胸に、守備から本来の姿を取り戻した。ファイナルで有終の美を飾るべく、「尊敬するプレーヤーは姉」と公言する美里と共にコートを守り抜く。

(取材・文/中西美雁 写真/AFLO)