
小高い山々が遠くにそびえる学校の校庭のような練習グラウンドを見て、「本当にここに、あの大物メジャーリーガーが来るのだろうか?」と不安を覚えた。
昼食を済ませてグラウンドに戻ってきた選手たちの談笑する声が聞こえてくる。
「今からマニーにめっちゃ教えてもらいたいんだけど!」
そうはしゃいでいた選手の名前は銀二郎。西武の強肩捕手・炭谷銀仁朗でも、楽天のヒットメーカー・銀次でもない。日本の独立リーグ球団・高知ファイティングドッグスの22歳の若手である銀二郎だ。
「自分たちは、マニーが来ることをまったく知らされてなかったので、いまだに信じられない。僕は英語を話せるので、同じ右打者としていろいろ聞いてみたいですね」
メジャー通算555本塁打を記録したマニー・ラミレスが、日本の独立リーグにやって来る。そんな衝撃のニュースが飛び込んできたのは、1月9日のことだった。トレードマークのドレッドヘアをなびかせ、ダボダボのユニフォームを着て快打を連発する超大物メジャーリーガー。しかも、ラミレスの代理人を通じて自ら売り込みがあったというから驚きだ。
高知ファイティングドッグスの監督を務めるのは巨人、横浜で“満塁男”の異名を取った駒田徳広(のりひろ)氏だ。駒田監督にラミレスについて聞くと、興奮気味にまくし立てた。
「極端なことを言ってしまえば、打っても打たなくてもいい。それだけ彼は特別だし、象徴のような存在なんです」
3ヵ月もいてくれたら御の字
確かに、こんな英雄が日本の独立リーグでプレーしていたら、一度は見てみたくなるに違いない。だが、ラミレスはこれまで数多くのトラブルを報じられてきた。禁止薬物の使用、チームメイトとの小競り合い、チーム関係者への暴行、気まぐれな言動に怠慢プレー…。そんなラミレスが、縁もゆかりもない高知に本当にやって来るのか、どうしても半信半疑になってしまう。すると、駒田監督はこう笑い飛ばした。
「4年前に台湾プロ野球に入ったときは、ホームシックで3ヵ月で帰ったじゃないか、と言う人がいるんです。でもね、僕が言いたいのは『3ヵ月もいてくれたら御の字じゃないか』ってこと。ここは勝利を義務づけられたNPBじゃない。地域を盛り上げる独立リーグなんだって」
2月12日現在、ラミレスの来日予定は立っていないが、駒田監督は「来るでしょう」と信じている。そして選手たちも同じ思いなのだろう。高知県高岡郡越知(おち)町にある高知ファイティングドッグスの練習場では、いつもラミレスの話題で持ちきりだった。駒田監督は、ラミレスが選手たちに新たな影響を与えてくれることを期待しているという。
「もちろん、野球をしに来てくれるわけだから大いに期待はしています。でも、ラミレスは今年45歳になる。そんな彼にとって、ファイティングドッグスの選手たちは高校生のようなもの。つまり、彼にとってここは野球のふるさとのようなものなんです。彼が『頑張ってね』とひと言声をかけただけで、若い選手が変わるきっかけになる。そんな存在になってほしいんですよ」
果たして、マニー・ラミレスは本当に来日するのか。不安を覚えつつも、レジェンドが高知に降り立つ日が待ち遠しくてならない。
(取材・文/菊地高弘 写真/ゲッティ イメージズ)