大枚をはたいて獲得に成功しても、必ず活躍するという保証はないと語るセルジオ越後氏

地元のクラブを応援したい。スタジアムの雰囲気を味わいたい。面白い試合を見たい。とまあ、サッカー観戦の動機はいろいろある。

でも、新規ファンの開拓という観点から見て、今のJリーグには、名前を聞いただけで「一度見てみたい」と思わせられるような選手がどれだけいるだろう。

Jリーグは昨年7月、英動画配信大手「パフォームグループ」と10年間で約2100億円の放映権契約を結んだ。その結果、今季から各クラブへの配分金はほぼ倍増し、上位チームの賞金も大幅にアップ。優勝すれば総額約22億円を手にすることができる。

それを当てにしたのか、オフの移籍市場は例年以上に活発に動いた印象だ。ただし、基本的にはJリーグ内で選手がぐるぐると動いているだけ。(中村)俊輔(磐田)や大久保(FC東京)ら移籍金の発生しないケースも多い。もちろん、新たな選手が加入したチームのファンはそれなりに盛り上がるし、リーグも活性化するし、それはそれで意味のあることだと思う。

でも普段、」Jリーグを見ない一般層にまで関心を持ってもらえるような大型移籍は結局、セビージャからC大阪に復帰した清武くらいのものだった。ちょっと寂しいね。

そういう意味で、噂されていたポドルスキの神戸加入には期待していたんだ。実現すれば大いに盛り上がっただろうし、契約が成立しなかったのはとにかく残念。今夏の加入に向けて交渉は継続しているようなので、引き続き神戸には頑張ってほしい。

獲得を狙うのは外国人に限る必要はない

海外の大物選手獲得には多額の予算が必要になる。各クラブの財政状況は、世界のスター選手が集まったJリーグ発足当初とはまるで違うし、そう簡単なことではない。僕もただ「昔はよかった」とボヤくつもりはない。

また、大枚をはたいて獲得に成功しても、必ず活躍するという保証はない。2014年、C大阪がフォルランを獲得して話題を呼んだけど、なかなかチームにフィットせず、翌シーズン、C大阪はJ2降格の憂き目に遭った。そうしたリスクを伴う大物獲得に、各クラブが躊躇(ちゅうちょ)する理由もわかる。

でも、フリーもしくは引退間際の選手を狙えば安く上げることができるかもしれないし、複数年ではなく単年の延長オプション付き契約にして、活躍できなかった場合のリスクを下げるなど、まだまだ工夫の余地は残されていると思うんだ。

それに、獲得を狙うのは外国人に限る必要はない。清武のように欧州でくすぶっている日本代表クラスの選手はたくさんいる。そういう選手だっていい。例えば、G大阪がC大阪に対抗して、C大阪出身の香川(ドルトムント)にオファーを出したらどうか。移籍が実現すれば、大阪ダービーはかなり盛り上がるよね。

極端な例をいえば、今季からJ2で戦う名古屋がクラブOBである本田(ACミラン)にオファーを出してもいい。「半年(の契約)でもいいから、J1復帰に力を貸してくれ」ってね。

重要なのは、本当に本田が名古屋に戻ってくるかどうかじゃないんだ。Jリーグの各クラブにそういう発想があるかどうかということ。せっかく放映権料が増え、クラブに入るお金が増えても、魅力的なチームが増えなければなんの意味もない。だからこそ、今夏はひとつでも多くのクラブが、神戸のように積極的な動きを見せてほしい。

(構成/渡辺達也)