12日に初日を迎えた大相撲春場所。最大の注目は新横綱・稀勢の里(30歳・田子ノ浦部屋)だが、その「次」を担う新勢力も楽しみな力士がそろっている。
なかでも、躍進が目覚ましいのが、2場所ぶりに三役に復帰した小結・御嶽海(みたけうみ・24歳・出羽海部屋)だ。先場所は2横綱・2大関を倒して11勝を挙げ、自身初の技能賞を獲得。春場所は“大関とり”へのスタートを切る場所になるが、「まったく意識はしていません。一番一番、集中するだけです」と気負いはない。
御嶽海は、東洋大時代に「アマ15冠」を達成し、4年時には学生横綱とアマチュア横綱を獲得した超エリート力士。2015年の春場所に幕下10枚目格付け出しで初土俵を踏み、わずか2場所で十両に昇進した。その直後の15年名古屋場所で十両を制すと、同年の九州場所には新入幕を果たしている。スピード出世に、本人も「壁に当たったと感じたことはありません」と、堂々と言い切る。
ただ、相撲にのめり込むきっかけは、ある“悔しさ”にあった。出身地の長野県木曽郡は、昔から相撲の盛んな土地で、御嶽海が本格的に相撲を始めたのは小学1年生のときだったという。父の春男さんは、「1年生のとき、学校の代表として地域の相撲大会に出たんですが、体が小さい子にいきなり負けてね。それが悔しかったようで、私が『(これからも)相撲やるか?』と聞いたら『やる』と答えたんです」と当時を語る。元来、負けん気の強い性格だったため、「負けたままでは終われない」と、地元の木曽少年相撲クラブに入った。
現在の活躍を支える、強烈な突き押しを可能にする足腰の強さは、小学生の頃に培われた。春男さんの仕事は建築関係で、「あの子は“父親っ子”。よく私の仕事現場についてきていた」という。木曽という地域柄、現場は山の中が多く、急勾配の山道を懸命に歩いたことで自然と足腰が鍛えられた。
さらに4年生になると、上級生が体の成長とともにケガをする姿を見て、「自分はもっと体を強くしないといけない」と一念発起。卒業するまで毎日、自宅で400回の四股を踏み続けた。こうした努力が実を結び、小学5年生で全日本の小学生大会2位、中学3年生で全国ベスト8、木曽青峰高校時代は国体で3位と、すべての年代で全国上位に食い込む実績を残してきた。
大学進学後、さらなる活躍を見せた御嶽海だったが、プロ入りは考えていなかった。当時、和歌山県庁への就職が決まっており、公務員として働きながらアマチュア相撲をやっていく心づもりだったという。
しかし、名門再興を期する現在の師匠(元幕内・小城ノ花)の熱い説得に心を揺さぶられ、プロ入りを決意した。しこ名は、故郷の象徴である御嶽山(おんたけさん)が由来。その裏側には、プロに入る前年の14年9月に噴火し、多数の死者を出した地元を元気づけたいという思いが込められている。
大関昇進の目安は、「三役3場所で33勝以上」。春場所では少しでも多く白星を積み上げたいところだが、雪辱を期す上位陣に加え、高安や正代(しょうだい)ら、同世代の大関候補も立ちふさがる。「同じ世代の力士には負けたくない」と語る御嶽海が、持ち前の負けん気で、大関昇進レースをリードできるかに注目だ。
(取材・文/松岡健治)