2017年の「SUPER GT」の大きな話題のひとつが、中嶋一貴選手の3年ぶりの復帰だ。
ブランク期間中は世界耐久選手権(WEC)に参戦。昨年の第3戦「ル・マン24時間レース」での劇的な幕切れは記憶に新しい。レース残り3分の時点までトップを快走し、ル・マン初制覇まであと一歩のところまで迫ったが、マシントラブルで惜しくも優勝を逃したのだ。
今シーズン、雪辱を誓うWEC、スーパーフォーミュラ(SF)、SUPER GTの3つのレースに参戦する中嶋選手は、かつてF1で活躍した経験もある日本を代表するドライバー。まさに、国内外のトップレースを知り尽くす中嶋選手が語る、SUPER GTの魅力とは?
■ぶっちぎりに世界で一番速い
SUPER GTはいろんな意味で世界屈指のレースだと思います。例えば、一昨年のゴールデンウイークに開催された富士は9万人以上の観客を動員していて、グランドスタンドの密度はル・マン24時間レースやF1のモナコGP、アメリカのインディ500などのビッグレースに匹敵するんじゃないかと。
しかもSUPER GTは富士だけでなく、岡山、オートポリス(大分)、SUGO(宮城)と、多くのレース会場で満員御礼状態。毎戦、あれだけのお客さんが入るレースは世界を見渡してもなかなかありません。
クルマの面でもSUPER GTはものスゴい。レースは、市販車をベースに改造したツーリングカーと呼ばれるマシンで行ないます。数あるツーリングカーレースの中で、SUPER GTのマシンはぶっちぎりに世界で一番速いですし、ドライバーや競技のレベルも世界トップレベル。SUPER GTは紛れもなく「世界最速かつ、最高峰のツーリングカーレース」だといえるのです。
ドライバーとして言わせてもらえば、SUPER GTのマシンの速さは異常です(笑)。例えば、SFの鈴鹿サーキットでのベストタイムは1分36秒996ですが、SUPER GTは1分47秒456です。でもクルマの重さは、SFは660kgと軽く、SUPER GTは1t以上もあるのです。
それにプラスして、レースではウエイトが搭載されます。SUPER GTは車重が倍近くあるのに、たったの10秒ほどのタイム差しかありません。僕らの感覚からすると、本当にありえない速さで走ってます(笑)。もちろん乗りがいがありますし、面白いんですけど。
マシンがこれだけ速いのは、レクサス、ニッサン、ホンダの3メーカーがプライドをかけて開発競争をしていることに加え、タイヤの要素も大きい。現在、F1をはじめ、ほとんどのレースはタイヤがワンメイクですが、SUPERGTでは4メーカーが開発にしのぎを削っています。
当然、各メーカーはライバルの性能を上回ろうとがんばりますから、速さとライフ(耐久性)のギリギリのところを攻めていきます。それぞれのタイヤ特性やマシンとの相性によって、白熱したバトルやドラマが生まれるのです。
毎戦、レースクイーンが200人から300人も…
もちろん、レース当日のコンディションによって今日はAのメーカーが強くて、Bのメーカーは全然ダメということもあります。また、時にはレースが始まったときはAのメーカーが良かったけど、コンディションが変わって終盤になると、Bのメーカーが強いということもあって、本当に最後まで展開が読めない。
さらに、GT500とGT300という性能差のあるマシンが一緒に走っていることもスリリングなレース展開に拍車をかけています。速度域の違うクルマが混走し、クラスごとの順位を争うことで、ぶつかったり、前をふさがれてタイムロスして抜かれたり、予期せぬことが起こりやすい。
また、ウエイトハンデがあるので、毎レース、前後を走るマシンも違う。ドライバーとしては、かなりストレスがたまりますけど(笑)、お客さんには楽しんでもらえるんじゃないかと思います。
僕はこれまで世界各地の様々なレースで走ってきましたが、SUPER GTのスゴさはレースのレベルの高さだけではありません。それ以外の楽しみも充実していることだと思います。
例えば、選手とファンの距離は、どのスポーツよりも近いと思います。レース期間中に、サーキット内でドライバーがトークショーやサイン会をするだけでなく、ファンはパスの種類によってはスタート直前のグリッドまで来て、ドライバーやマシンに接することができます。
また、男目線でいえば、毎戦、レースクイーンが200人から300人もいます(笑)。その中から芸能界に…という方もいらっしゃいますので、成長を見守るのも楽しいのではないかと。
ほかにも、レース会場は九州から東北まで全国いろんな所にあるので、例えば旅行で温泉に入って、地元の料理を食べるついでにレースを見に行く、なんてコースもオススメですね。
F1みたいに敷居は高くありません(笑)。SUPERGTは、コスパの面でも間違いなく世界最高峰なんじゃないですかね!
(取材・文/川原田 剛 撮影/村上宗一郎[中島氏])
●中嶋一貴(なかじま・かずき) 1985年生まれ。今季は古巣のトムスに復帰し、J・ロシターとコンビを組む。父は日本人初のフルタイムF1ドライバーの中嶋悟氏
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