“ミスターGT”脇阪寿一がシーズン開幕前に徹底解説!! 通算11勝を挙げ、3度のタイトルを獲得。一昨年限りでドライバーを引退し、現在はチームルマンで監督を務め、後進の育成にあたる

4月8日と9日、岡山国際サーキットでいよいよ「SUPER GT」のシーズンが幕を開ける! 直前の岡山(3月18日、19日)と富士スピードウェイ(3月25日、26日)で行なわれた合同テストでは、レクサス勢が好タイムをマーク。開幕戦を制するのは、いったいどのチームのマシンなのか?

今回、取材班はSUPER GTで3度のチャンピオンに輝き、現役時代は“ミスターGT”とも呼ばれた脇阪寿一氏を直撃。昨年からLEXUS TEAM LEMANS WAKOS(レクサス・チーム・ルマン・ワコーズ)の監督を務める脇阪氏に、メーカーの枠や監督という立場を超え、今シーズンの予想はもちろん、SUPER GTの未来についてたっぷり語ってもらった!!

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■好調レクサス勢が抱える大きな懸念

先日の岡山合同テストでレクサスLC500が上位を独占しましたが、その結果をそのまま開幕戦に置き換えることができるかといえば、そうとはいえないでしょう。

というのも、テストでは各チームが何をしているかわかりませんし、タイヤの開発競争が激しいSUPER GTでは、レースウイークに持ち込むタイヤと当日のコンディションがマッチするかによって、結果が大きく変わってくる可能性があるからです。

ただし、開幕戦は重量ハンデがありません(SUPER GTにはウエイトハンデ制があり、レース結果によって定められた重量をマシンに搭載する必要がある)。その意味では、テスト結果がクルマのポテンシャルをある程度反映しているとは思います。

僕の分析では、予選の一発の速さではホンダやニッサンが上位に食い込む可能性はありますが、レースに持ち込むタイヤを大きく外すことがなければ、決勝に関してはレクサス勢が優位と見ています。

ホンダNSX-GT昨年の雪辱の誓うホンダは一発の速さを見せられるか?

テストでもNSX-GTは一発のタイムで、レクサス勢に肉薄していました。運動性能に優れるMR(ミッドシップエンジン・後輪駆動)を特別に採用する NSX-GTは、FR(フロントエンジン・後輪駆動)のLC500やGTRというライバルよりも有利で、性能調整のためにウエイトを課されています。

昨年未勝利に終わったホンダを背負う山本選手。「昨年は悔しいシーズンでしたが、今年は早く1勝してチャンピオン争いに加わりたい」 山本尚貴

その点でまだ苦労している印象ですが、開発は確実に進んでいるようです。もし開幕戦が雨になるとMRは運動性能もいいので、上位入賞のチャンスはあると思います。

王座奪還を目指す“最強マシン”! ニッサンGT-R ニスモGT500

ニッサンは昨シーズンの終盤、歯車が噛み合わずにタイトルを逃していますが、クルマに関しては過去3年間、GT-Rが圧倒的に強かったのは事実です。

ニッサン勢の中では、過去3年で2度のタイトルを獲得するNISMOは実績もプライドもあり、レクサス勢にとって一番やっかいな相手です。NISMOを調子に乗せないために、岡山でどう戦っていくのか。それがレクサス勢にとってはタイトルを獲得するためのポイントになると思います。

昨年は最終戦で惜しくも3連覇を逃したが、最強チームであることは変わらない。GT歴代最多18勝の松田選手とともに王座奪還を目指す 松田次生

今シーズンの大事なポイントはレクサス同士の真剣勝負

好調レクサス同士の熾烈なバトルに注目! レクサス LC500

そして、もうひとつ今シーズンの大事なポイントは、レクサスの6台、総勢12名のドライバーが、チャンピオンをめぐってレクサス同士で真剣勝負をするというリスクをどう乗り越えていくかだと僕は感じています。

メーカーによって戦い方のアプローチは違います。シーズン中、レクサスはそれぞれのチームが自由に戦うなかで、レクサス陣営としてタイトルを取ることを目指しています。ニッサンは、NISMOという絶対的な存在があり、さらに強力な3チームがあるという印象です。ホンダも自由に戦っているという意味では、レクサスに近いでしょう。

ところが今シーズン、レクサス陣営の6チームは前年よりもいい道具(マシン)を与えてもらい、3月の岡山や富士といったオフのテストでは、6台のタイムがとてつもなく拮抗(きっこう)しています。

そして調子がいいと、どうしても自分が勝ちたいという「エゴ」も出てきて、上位争いのなかでレクサス同士で接触なんてリスクも生まれてくる。そこは僕らにとっての懸念事項で、逆にニッサンとホンダの両陣営にとっては、つけ入るチャンスになるかもしれません。

道具でプラス、人間でマイナスになるのか。もしくは道具でプラス、人間はそのままで道具の分だけのプラスになるのか。それとも道具がプラスで、それによっ て人間のモチベーションも上がって“ぶっちぎり”に速くなるのか? レクサス勢を取り巻く人間模様によって、今年のSUPER GTのチャンピオンシップ の行方は大きく変わってくるでしょう。

3年ぶりに名門トムスからGT復帰する中嶋選手。「LC500はいい仕上がりだが、今年はレクサス同士の争いが厳しくなる」と語る 中嶋一貴

SUPER GTは「タイヤの世界一決定戦」になっている

■スピードや技術はもはや世界基準

今後のSUPER GTは、ヨーロッパやアメリカなどから実力のあるドライバーや自動車メーカーがこれまで以上に参戦することで、「名実ともに世界最高峰のGTカーレースが日本で開催されている」ということが世界で認知されていくと思います。イメージは、アメリカのメジャーリーグ(MLB)ですね。

MLBは本来はアメリカ選手権ですが、優勝決定戦はワールドシリーズで、優勝するとワールドチャンピオンと呼ばれます。MLBに世界中から優秀な選手が集まるからそう言えるんです。

それと同じことがSUPER GTでもできると思っています。SUPER GTにはそれができる“最高の素材”がある。

先日、F1で優勝経験もあるヘイキ・コバライネンがSUPER GTを見に来た大勢のファンをバックに写真を撮っていたので、「おまえ、何をしているんだ?」と聞くと、彼は「こんなにお客さんが入って盛り上がるレースは、ヨーロッパでも考えられない!」と言っていました。

また、SUPER GTのマシンは、ドライバーからしてもありえないスピードで走っている。1tを超えるマシンの速さじゃないんです。“スピード感”でいえば、F1と比べても遜色ないと思います。それは各自動車メーカーがビッグプロジェクトでマシンを開発していることと、複数のタイヤメーカーが参戦し、激しい開発競争を繰り広げているからにほかなりません。

今、自由なタイヤ開発ができるレースは、世界を見渡してもSUPER GTぐらいしかない。事実上、「タイヤの世界一決定戦」になっていて、日本のレースで培った技術が世界中のモータースポーツの現場にデリバリーされているといえるのです。

もはやスピードや技術は世界基準ですし、コバライネンのようなヨーロッパのドライバーを通して、SUPER GTの魅力や面白さが世界にどんどん伝わり始めている。それなのに、まだまだ日本では認知度が低い(苦笑)。

GT500が繰り広げる世界最速のバトルをはじめ、中嶋悟さんや星野一義さん、高橋国光さんなどレース界のレジェンドがチームを率い、世界トップクラスの実力を備えたドライバーが名を連ね、GT300には世界各国のスーパーカーがズラリと並び、200人を超えるレースクイーンがサーキットに花を添える……など、SUPER GTには、これでもかというくらいエンターテインメント要素が詰まってます!

ぜひ一度、できればサーキットに足を運んでレースを目撃してみてください。そうすれば「SUPER GTがモータースポーツをメジャースポーツにする!」と宣言している、僕の言葉に納得してもらえるはずですから!!

(取材・文/川原田 剛 撮影/五十嵐和博)

★「SUPER GT」見るならJ SPORTS!!国内最大4チャンネルのスポーツテレビ局J SPORTSでは、SUPER GTの2017年シーズン全8戦を放送! さらにFIA世界耐久選手権、WRC世界ラリー選手権など多数のモータースポーツを放送しています。詳しくはJ SPORTS カスタマーセンター 03-5500-3488(午前10:00~午後6:00)、J SPORTSオフィシャルサイトwww.jsports.co.jpまで。

2017 SUPER GT 第1戦 岡山国際サーキット【予選】4月8日 午後6:30~午後20:00(初回放送)…J SPORTS 3 【決勝】4月9日 午後2:00~午後5:35(生中継)…J SPORTS 4

GT500のマシンは、遅いGT300をうまく処理しながら前に行かなければならないが、逆にGT300もGT500に上手に抜かれることが勝敗を分けるポイントになる