エアレース通算2勝目をあげた室屋義秀(写真/川喜田 研)

来た、見た、そして、勝ったぁあああー! 4月16日、アメリカ・サンディエゴで行なわれた『レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ』第2戦で室屋義秀(むろや・よしひで)が優勝!

地元・日本で悲願の初優勝を遂げた、去年の第3戦以来となる2勝目を挙げる瞬間をエアレース取材2戦目の週プレは、またも「現場」で目撃した!

唯一の日本人パイロットとして2009年にレッドブル・エアレースに参戦して以来、今年で6シーズン目(2011~13年は参戦を休止)を迎える室屋。今年2月に行なわれた今季開幕戦のアブダビでは機体の調整が狙い通りにいかず、一回戦の「ラウンドオブ14」で敗退…。不本意な結果に終わったものの、今や経験と実力を兼ね備えたベテランのひとりとして、ライバルたちが一目も二目も置く存在になりつつある。

ノーポイントに終わった開幕戦の雪辱を果たすべく臨んだ第2戦では、金曜日のフリープラクティス(公式練習)から安定して59秒台の好タイムを連発! 土曜日の3回目では、57秒909という驚異的なコースレコードをマークして周囲の注目を集めた。しかし、肝心の予選ではゲート通過時の姿勢や、高さのコントロールで小さなミスが重なり、ペナルティタイム加算で10位と悔しい結果に…。

だが、そこで動じないのが今年の室屋だ。この予選結果にも「ペナルティはありましたけど、全く問題ないですよ。機体の仕上がりもいいし、エンジンの調整も狙い通りですから心配していません」と冷静そのもの。

その言葉通り、日曜日の決勝では一回戦の「ラウンドオブ14」で開幕戦3位の実力派、カナダのピート・マクロードを下すと、続く「ラウンドオブ8」では前戦の勝者、チェコのマルティン・ソンカを破ってファイナル4に進出した。

そして迎えたファイナル4――相手は昨年のシリーズ王者、マティアス・ドルダラー、04年、06年と2度の王座に輝く地元のベテラン、カービー・チャンブリス、昨年・レッドブル・エアレースのマスタークラスにデビューし、急成長を見せるスロベニアのピーター・ポドランセクという実力派ぞろい。

その3人が見守る中、最初にフライトを行なった室屋はこの日、最高のタイムアタックを見せ、58秒529という驚異的なラップタイムでライバルを圧倒!

このタイムにプレッシャーを受けたのか、総合チャンピオン経験者のドルダラーやチャンブレスがパイロンに接触するミスを連発! ポドランセクも1分00秒454と初めて進出したファイナル4でタイムを伸ばすことができず、終わってみれば2位を2秒近く引き離して室屋が圧勝! 今季の彼が速さと安定感の両面でタイトル争いの一角を占めるにふさわしいパイロットであることを証明したといえる。

1レース、1レースを平常心で戦うことが重要だと思っています

室屋義秀は、昨年優勝した6月の日本大会(千葉・幕張)で連覇を狙う(写真/Red bull)

さらに、シリーズポイント・ランキングでも15点で総合1位のソンカから6ポイント差の3位と、開幕戦の躓(つまづ)きを一気に挽回することに成功している。

「去年の千葉で初優勝を遂げてから、もっと早く2勝目を挙げたかったのに少し間が空いてしまいましたね。去年のシーズン後半はなかなか思うようなレースができず、苦しんだ時期もありましたが、その経験から今年はレース当日の展開でバタバタしないように十分な準備をして、フリープラクティスから決勝まで常に気持ちを安定させてフライトに臨むように心がけていて、それがこの2勝目につながったと思います。

今年の目標は年間の総合チャンピオンを争うこと。その意味で開幕戦の0ポイントは痛かったのですが、それをシーズンの早い段階で取り戻せた意味は大きい。今回、アブダビの上位入賞選手が脱落したことでもわかるように、今シーズンは本当にレベルが上がり、ひとつのミスでも許されない文字通りの混戦状態。年間タイトルを狙うためにはコンスタントにファイナル4に進出し、7戦中で最低でも2勝を挙げる必要があると思います…」(室屋)

昨年後半はオーバーG(機体にかかる重力が規定の10Gを超えると失格となるペナルティ)の問題にも悩まされたが、今季は昨年導入した新型機「エッジ540V3」の熟成も進み、最も重要な要素のひとつである「機体との一体感」を感じられるようになっているという。

「サンディエゴの高速型コースレイアウトは千葉に似ているので、今回の結果は次のレースに向けたいい確認になったと思います。昨年の優勝以来、日本でもエアレースに興味をもってくれるファンの方が増えたのはとても嬉しいですし、千葉では皆さんの期待に応えられるようなレースがしたい。地元、日本のレースだからといって気負うことなく、今回のレースと同じように1レース、1レースを平常心で戦うことが重要だと思っています」

おおおーっ! この「落ち着き」! この「余裕」! 昨年の幕張で見た初優勝の時とは明らかに違う、「勝ち方」を覚えた「タイトルコンテンダー」(年間王者を争う選手)のオーラが今年の室屋からは確実に放射されている!

昨年の千葉に続き、レッドブル・エアレース取材2戦目にして、その2勝目をこの目で見ることができるとは、なんとラッキーな! こうなりゃ当然、6月の幕張にも応援に行かないわけにはいかない! 2年連続&2戦連続で表彰台の真ん中に立ってくれ!

(取材・文/川喜田 研)