上海上港のスタジアム。巨大なため空席もチラホラ目につくが、なかなかの盛り上がり 上海上港のスタジアム。巨大なため空席もチラホラ目につくが、なかなかの盛り上がり

欧州のトップクラブでも通用する大物選手や指導者を次々と獲得! サッカー界ではいまだ中国の“爆買い”が猛威を振るっている。だが、気になるプレーのレベルや環境は!? 

3月上旬に開幕した中国のサッカーリーグ「スーパーリーグ」、その知られざる実態に迫る!

■サッカーに投資すれば政府に近づける!

中国リーグがとんでもないことになっている! 今年1月、上海申花に加わった元アルゼンチン代表FWカルロス・テベスの年俸は世界最高の約46億円! 同じく今年1月に上海上港入りしたブラジル代表MFオスカルは年俸約30億円!

そのほか、今オフだけでもベルギー代表MFアクセル・ヴィツェル(年俸約22億円・天津権健)やナイジェリア代表MFジョン・オビ・ミケル(年俸約10億円・天津泰達)、いずれも元ブラジル代表のFWアレシャンドレ・パト(年俸約7億3千万円・天津権健)やMFエルナネス(年俸不明・河北華夏)といった現役バリバリの大物選手が次々と中国へ渡っているのだ。

また、指導者にもビッグネームが多い。ブラジル代表を率いてW杯優勝経験もあるルイス・フェリペ・スコラリ(年俸約7億6千万円・広州恒大)のほか、日本でもおなじみ“ピクシー”ことドラガン・ストイコビッチ(広州富力)、昨年までマンチェスター・シティを率いていたマヌエル・ペジェグリーニ(河北華夏)、かつて“ジョゼ・モウリーニョ2世”と脚光を浴びたアンドレ・ビラス・ボアス(上海上港)など名前を挙げればキリがない。

いくら中国経済が好調とはいえ、なぜこれほどバブリーなのか!? 人口約14億人、カネがあり、人もいる中国が本気でサッカーをやり始めたら、近い将来、恐ろしいことになりそうだが、果たして実態はどうなのか!?

2008年北京五輪などを取材してきた筆者にとって、中国訪問は5年ぶり6度目。過去に中国サッカーを取材したときにはスタジアムはガラガラで、観客席はホコリまみれ、地元の記者は試合そっちのけでパソコンのチャットやゲームに夢中だったことが強く印象に残っている。だが、久しぶりの再訪で、現在の中国はかつての中国ではないことを思い知らされた。

最初に向かったのは、第2節の上海上港vs延辺富徳。上海上港のホーム、上海体育場は上海の中心地からも程近い。駅を降りると、チケットを売りさばくダフ屋の姿が目に入ってきた。その数の多さから人気ぶりがうかがえる。

スタジアムには豪華なホテルやレストランが併設され、メインゲートは高級感にあふれている。中に入ると空席も目についたが、観衆は約3万人となかなかの盛り上がり。代表戦でもないのに、なぜかFIFA(国際サッカー連盟)のアンセム(賛歌)とともに選手が入場し、キックオフ前には中国国歌斉唱が行なわれるのが定番らしい。

 かつてチェルシーなどを率いた上海上港のビラス・ボアス監督 かつてチェルシーなどを率いた上海上港のビラス・ボアス監督

巨額マネーが動いている背景に習近平国家主席の存在

 Jリーグでも活躍したブラジル代表のフッキ(右)。上海上港でプレー中だ Jリーグでも活躍したブラジル代表のフッキ(右)。上海上港でプレー中だ

試合は、オスカル、フッキ(ブラジル代表)らを擁する上海上港が圧倒的にボールを支配し、2-0で快勝した。試合後、年俸約30億円のオスカルに話を聞こうとミックスゾーン(取材エリア)で待機。ところが、一向に姿を現さない。地元の記者に聞くと、メディア対応するチームメイトたちをよそに、すでに裏口から“VIP待遇”でスタジアムを後にしたという。

かつてJリーグで活躍したフッキは、こちらが日本人だとわかると歩み寄ってきてくれたものの、ポルトガル語しか話せないということで握手だけして別れることに…(筆者は日本語と英語しか話せず…ごめんなさい!)。

さすがに収穫ゼロはまずいので、中国人記者に“サッカーバブル”について聞いた。

「儲けたおカネを投資に回すのは、市場や経済と同じ原理。おカネを持っている人が、それを何に使おうがその人の自由だよ。外国人選手が金額に見合うかは別として、オスカルは今日もいいプレーをしていたことは否定できない」(スポーツサイト『Tencent Sports』のウェズレイ記者)

「バブリーなのは間違いない。ただ、経済が好調で、ファンも魅力的なサッカーを求めているし、投資は決して無謀じゃない。批判の声があるのは理解している。でも、忘れないでほしいのは、チェルシーもマンチェスター・シティも、最初は(スポンサーの)中東(企業)のオイルマネーで選手を買いあさっていたということ。中国サッカーはまさに今、学んでいるところなんだ」(地元紙『上海日報』のビバシュ・ムケルジー記者)

また、巨額マネーが動いている背景には、大のサッカー好きとして有名な習近平国家主席の存在も大きいという。

 広州富力は広大な敷地に立派なクラブハウスを建設中だった 広州富力は広大な敷地に立派なクラブハウスを建設中だった

「彼の夢は『中国のW杯出場(02年に1度出場)、中国でのW杯開催、そして中国のW杯優勝』だ。実際に、国策として中国サッカーの強化策も打ち出している。だから、ゼネコンや不動産関係を中心に大企業がこぞってサッカーに投資を始めたんだ。サッカーに投資すれば、政府に近づけるメリットがあるってこと。この流れがどこまで続くかはわからないけど、少なくともあと数年は続くはずだ」(地元紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』のダニエル・レン記者)

まるでアイドルのような人気ぶり

■「オファーが魅力的で拒否できなかった」

翌日は上海申花vs天津権建の一戦へ。上海申花のホーム、虹口足球場は上海の中心地から地下鉄で10分程度、駅を降りてすぐ目の前という好立地だ。周辺は青いユニフォーム姿のサポーターでごった返していた。

地元テレビ局「LeTV」の女性リポーターであるイブンさんは、中国サッカーの盛り上がりについてこう話す。

「大きなブームが来ています。男性だけでなく、若い女性ファンも急増中で、サッカー選手はまるでアイドルのような人気ぶりですね」

上海申花の一番人気は、やっぱり世界最高年俸のテベス。あらゆる彼のグッズが飛ぶように売れているという。

試合は、前半に上海申花が退場者を出したが、天津権建もパトのPK失敗などが響き、1-1のドロー。

テベスは今季のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)予選プレーオフで敗れた際には早くも退団が噂され、この日の地元紙にも「言葉や食事の面で苦しみ、中国でのプレーを喜んでいない」との記事が載っていた。だが、試合にはフル出場し、要所で“らしい”プレーを見せた。

 写真ブレブレだけど(苦笑)、取材エリアを通る年俸約46億円のテベス(上海申花)。筆者が必死に声をかけると…… 写真ブレブレだけど(苦笑)、取材エリアを通る年俸約46億円のテベス(上海申花)。筆者が必死に声をかけると……

試合後、うつむきながらミックスゾーンに歩いてきたテベスに「オラ!(スペイン語で『こんにちは』)」と声をかけると、チラッと笑顔を浮かべてくれた。だが、その足を止めることはなく、無言で通過…。

それでも、捨てる神あれば拾う神あり! アフロヘアが代名詞のベルギー代表MFヴィツェルが、中国への移籍を決めた理由や、リーグの印象を話してくれた。

 天津健権のベルギー代表MFヴィツェル。中国リーグの印象を語ってくれた 天津健権のベルギー代表MFヴィツェル。中国リーグの印象を語ってくれた

「移籍の決断は簡単じゃなかったよ。ただ、拒否することができない魅力的なオファーだった。たくさんのおカネを得ることで家族をより幸せにできるし、別に悪いことじゃないだろ?

(前所属のロシアの)ゼニトに行ったときも『カネのためにレベルの低いリーグに行った』とか批判されたけど、僕はそこでも自分のレベルを維持することができた。僕はここでW杯出場を目指すだけさ。欧州や南米から外国人選手の移籍が増えたことは、中国リーグにとっていいことだと思う。試合にはスピードがあり、激しさもある。今のところはすべてに満足している。不満はない」

◆この続き、後編は明日配信予定! ストイコビッチが語る、中国リーグとJリーグの違いとは!?

(取材・文・撮影/栗原正夫)