今やモンゴル経済躍進を支える大実業家になっていた朝青龍(右)。自身がプロデュースした格闘技イベントに出場したモンゴル人選手たちと 今やモンゴル経済躍進を支える大実業家になっていた朝青龍(右)。自身がプロデュースした格闘技イベントに出場したモンゴル人選手たちと

現役時代、圧倒的な強さと型破りな言動で世間をにぎわせた元横綱・朝青龍が、母国モンゴル1の実業家になっていた! 

首都ウランバートルで朝青龍がプロデュースした格闘技イベントで本人を直撃。その桁外れのビジネスの中身とは?

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ウランバートルのメインストリートには建設中の高層ビルが林立していた。テナントビルには高級ブランドショップがズラリと並ぶ。道路を行き交うのは主に日本車のプリウスで、クラクションが鳴りやむことはない。

一昔前まで市内に信号機はひとつしかなかったという話が嘘のようだ。街には活気と排ガスのにおいが立ち込めていた。“草原の国”というイメージとは裏腹に、ウランバートルは近代的な大都市へと変貌しつつある。

5月上旬、第68代横綱・朝青龍ことドルゴルスレン・ダグワドルジ氏(36歳)がプロデューサーを務める格闘技イベント「ZEV(ゼブ)」の旗揚げ戦を取材するためにウランバートルに足を運んだ。

大会前日、市内最大のクラブで行なわれた計量の際、野球帽を目深にかぶった朝青龍が、流暢な日本語で自ら話しかけてきた。

「日本人? たくさん取材して、たくさん記事にしてよ」

思いのほかフレンドリー! 「ウランバートルがこんな大都会になっているなんて知らなかったのでビックリしました」と率直な感想を述べると、朝青龍は「そうだろ!」と相好を崩した。

大相撲を引退して7年がたつが、今も母国では紛れもないトップスター。街を歩けば四方八方から握手を求める手が伸び、記念撮影の人垣ができる。朝青龍はそれらすべてに笑顔で応じていた。

われわれ日本人に対するサービス精神も旺盛だった。今大会に日本からレフェリーとして招聘(しょうへい)された白神(しらが)昌志氏(元ヘビー級キックボクサー)はこう証言する。

「腕相撲をお願いしたら、イヤだよと言いながらやってくれました。全然本気でなかったと思うけど、最初右手でやったら僕が勝ってしまったんですよ。そうしたら朝青龍さんは『チャンピオン(横綱)に勝ったらダメだよ』と言いながら上着を脱いで再戦を求めてきました。けっこう、目はマジでした(笑)。それから右手でも左手でも負けました。朝青龍さんは左利きなので、左は本当に強かったですね」

「最近は忙しくて大好きな狩りにも行けないよ」(朝青龍)

 首都ウランバートルのど真ん中にある、朝青龍が所有するサーカス場。ここで朝青龍がプロデュースする格闘技イベント「ZEV(ゼブ)」が行なわれた 首都ウランバートルのど真ん中にある、朝青龍が所有するサーカス場。ここで朝青龍がプロデュースする格闘技イベント「ZEV(ゼブ)」が行なわれた

計量会場のクラブの近くには、ZEVの闘いの舞台となる常設のサーカス場があった。大会2日前に訪れると、ちょうどリングや花道を設営している真っ最中だった。

かつては国営だったサーカスも今や人手に渡ったという。現地の関係者に「現在のオーナーは誰?」と聞くと、ビックリするような答えが返ってきた。

「朝青龍ですよ。このサーカス場も、ここを拠点にしているサーカス団も、サーカス場にテナントとして入っているビールがおいしいドイツレストランも、全部朝青龍がオーナーなんですよ」

しかし、朝青龍のビジネスはそれだけではない。再び関係者の話。

「サーカス場の隣にある投資銀行も朝青龍がオーナーを務めていますよ」

元横綱が銀行のオーナー? 日本では引退した力士が銀行を買収したなんていう話を聞いたことはない。しかも、この投資銀行の利率は10%以上だという!

破格の高利率に興奮して、現地の通訳に「外国人でも口座を開設できるのか?」と聞くと、「簡単にできる」という。日本からの資本投入を狙っているかのように、このモンゴル初の投資銀行―NIBankはすでに日本語のホームページまで開設していた。

株主のページには、同行の58%の株を持つ筆頭株主・朝青龍とともに、彼が「俺より10倍強い」と豪語する実兄のドルゴルスレン・スミヤバザル氏の名もあった。

スミヤバザル氏はレスリングでオリンピックに2度出場し、アトランタ大会ではモンゴル選手団の旗手を務めた。弟と並ぶ母国の英雄としてリスペクトされている。

スミヤバザル氏やほかの兄弟とともに朝青龍は「ASAグループ」を結成。前述の事業のほか、ウランバートル市内にショッピングビルを持ち、香港にちゃんこ屋を出店するなど多角的にビジネスを展開し、モンゴル経済躍進の主役になっているという。

なかでも最近、朝青龍が力を注ぐのはソバの実の栽培だが、そのスケールは桁外れ。約20万ha(東京ドーム約4万2500個分!)という広大な敷地で北海道から取り寄せたソバの種を栽培し、年内にも日本に輸出する手はずを整えている。

大会終了後の打ち上げで声をかけると、朝青龍は本音を漏らした。

「最近は忙しくて大好きな狩りにも行けないよ」

そう語ると、朝青龍が自ら射止め、宙づりにされたオオカミの写真を自慢げに見せてくれた。身長184㎝の朝青龍よりはるかに大きい。

―最近運動はしている?

「汗を流すのはサウナだけだね。運動は全然していない」

●この続き、後編は明日配信!

(取材・文・撮影/布施鋼治)