朝青龍が母国モンゴルでプロデュースした格闘技イベント「ZEV」には元K-1王者アーネスト・ホーストも来場。試合場となったサーカス場の貴賓室にて 朝青龍が母国モンゴルでプロデュースした格闘技イベント「ZEV」には元K-1王者アーネスト・ホーストも来場。試合場となったサーカス場の貴賓室にて

現役時代、圧倒的な強さと型破りな言動で世間をにぎわせた元横綱・朝青龍が、母国モンゴル1の実業家になっていた! 

ショッピングビル、レストラン、サーカス、ソバ農園、そして投資銀行まで…多角的なビジネスを展開し、モンゴル経済躍進の立役者になっているのだという。

5月上旬、首都ウランバートルで朝青龍がプロデュースした格闘技イベント「ZEV(ゼブ)」で本人を直撃。前編記事(「広大なソバ農園に投資銀行…桁外れのビジネスとは?」)に続き、壮大な夢を語ってくれた!

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かつて日本で見られたような、豪放磊落(ごうほうらいらく)なキャラクターも健在だった。朝青龍は打ち上げ会場のテーブルに着くとさっそくテキーラを注文し、周囲の人間のショットグラスにどんどんついでいく。元横綱につがれたら一気に飲み干すしかない。今大会のためにモンゴルに来ていた元K-1王者のアーネスト・ホーストがグイッとあおると、朝青龍は手を叩いて喜んでいた。

しかし、よく見ると、朝青龍は一滴も飲んでいない。手にしていたのはソフトドリンクだけだった。

―横綱は飲まないの?

「酒は50歳になるまで一切飲まないと決めたの」

その後も朝青龍がアルコールに口をつけることは一度もなかった。日本での深酒による大失敗が母国での成功の糧となっているのか? 東京・新橋で購入したという電子たばこをくゆらせながら、朝青龍は熱く夢を語ってくれた。

「これからどんどんモンゴルの強さを世界にアピールしていきたい。だから日本の協力が必要なんだ! 経済もそうだけど、格闘技も日本の力を借りたら、モンゴルは一流になれる」

リオデジャネイロオリンピックのとき、朝青龍はモンゴルレスリング協会会長を務め、大会前は「金メダルを獲る」と宣言した。しかし、結果的にメダルはゼロ。おまけに朝青龍が途中帰国後、裁定に納得のいかないモンゴル選手団のコーチがマット上でパンツ一枚になって抗議するという前代未聞の珍事を起こし、国際問題に発展した。

このように、勝負事になったらモンゴル人は熱いのだ。朝青龍は海外で活躍できるプロ格闘家の養成にも力を入れている。

「アマチュアの選手は国から強化費がたくさん出ているので、彼らはそれで自分の生活まで賄うことができる。でも、プロは国から援助されているわけではない。だから私が多めにファイトマネーを出すようにしているんですよ」

「明日、ホーストさんと一緒に大草原に行きましょう!」とまさかの提案

 モンゴル人選手たちによる熱い闘いが繰り広げられた。試合後、あいさつをする朝青龍(左) モンゴル人選手たちによる熱い闘いが繰り広げられた。試合後、あいさつをする朝青龍(左)

今大会で開催されたトーナメントで優勝したふたりのモンゴル人選手は5月28日に名古屋で行なわれた新格闘技イベント「K-ING(キング)」に参戦した。以前、朝青龍の後援会会長を務めた川阪進治氏(アジア太平洋経済環境研究会会長)が立ち上げの音頭を取ったキックボクシング振興会が全面的に支援する大会だ。(*結果は残念ながら、ふたりとも判定負け)。

朝青龍は母国の格闘家の売り出しに本気である。モンゴルでの大会後、優勝者にインタビューをしようとすると、朝青龍は「なんでも聞いて」と自ら日本語の通訳を買って出た。

話題が海外の格闘技に及ぶと、朝青龍は真剣な面持ちで「UFCの知り合いがいたら教えてください」と頭を下げた。その一方、水面下で進めている仰天プランを明かしてくれた。

「今度、アリババのジャック・マーがジェット・リーと組んで格闘技イベントを立ち上げる。モンゴル、中国、カザフスタンなどの国々でリーグ戦をやる計画なんだ。カザフスタン側はすでにファイトマネーに10万ドル(約1100万円) 出すと言っている。この大会に日本も絡んだら面白いと思わない?」

アリババグループは中国に拠点を置く、世界最大級のオンラインマーケットを運営する巨大企業で、ジャック・マー氏は同社の会長。ジェット・リーは武術家で、アジアを代表する名優だ。両者が組んだら、アジアの一大格闘技イベントが立ち上がることは間違いない。

もっと詳しく話を聞きたいとお願いしたら、朝青龍は「明日、ホーストさんと一緒に大草原に行きましょう!」とまさかの提案。雄大な大自然の中ならさらに深く突っ込んだ話が聞けると胸を躍らせたが、翌日、待てど暮らせど朝青龍からの連絡は来ない。

夕方になってようやく、フェイスブックのメッセージ欄に親指を上に立てた「GOOD」のスタンプが送られてきたが、あれはいったいなんだったのだろう。さすが朝青龍、ある意味で期待を裏切らない。

(取材・文・撮影/布施鋼治)