仮想イラクのシリアに1-1で引き分けた日本代表

6月8日に行なわれた親善試合、日本代表対シリア代表。日本にとっては、6日後にテヘランで行なわれる予定の2018年ワールドカップ・アジア最終予選のイラク戦に向けたテストマッチだった。

しかし結論から言えば、1-1という結果に関わらず、決して満足のいく内容とはならなかった。試合後、指揮官は開口一番「我々にとって非常によいテストになった」と振り返ったが、ものは言いようだ。実際はイラク戦に直結しないテストばかりに終始し、むしろチームに混乱、混迷を生じさせてしまった印象は拭えない。

まずハリルホジッチ監督は、4-3-3でこの試合に臨んだ。3月23日の対UAE戦で好感触を得たシステムである。

ただし、そのUAE戦の時は前後半のキックオフ直後を含め、そこそこの時間帯で従来の4-2-3-1を併用。いわば変則的な4-3-3ともいえた。トップ下の位置や左サイドを自由に動く香川真司に合わせ、今野泰幸がボランチとインサイドハーフのエリアを行ったり来たりして、状況に応じてポジションを変えていた。

しかし、このシリア戦は完全な4-3-3だった。中盤3人はアンカー(中盤の底)に山口蛍、右に今野泰幸、左に香川真司が配置され、逆三角形の形をほとんど崩さなかった。ハリルホジッチ監督にしてみれば、改めてこのシステムが機能するかどうかを試したかったはず。そしてこの試合のスタメンをイラク戦でもと考えていたはずだ。

ところが、開始わずか7分で香川が負傷交代。想定外の事態が起こり、いきなり仮想イラクの筋書きは崩れ去ってしまう。

FWに近い香川が100%インサイドハーフでプレーしても、このシステムが機能するかどうかはおそらく指揮官が最も気にかけていたチェック事項だったはず。にも関わらず、インサイドハーフとして最も避けなければいけない自らのボールロストからの流れで負傷してしまったことは皮肉以外の何物でもなかった。

いきなりプラン変更を強いられた指揮官は、代わりに倉田秋を起用。システムを変えず、あくまでも4-3-3のテストにこだわったが、前半はアグレッシブなシリアにゲームを支配され、日本の4-3-3は攻守に渡って機能することなくハーフタイムを迎えた。

前半の低調ぶりを受け、ハリルホジッチ監督はゲームから消えていた右ウイングの久保裕也をベンチに下げ、後半開始から本田圭佑を投入。システムも4-2-3-1に変更し、ワントップの大迫勇也の下に倉田を配置し、右に本田、左に原口元気、ボランチは山口と今野の2枚を並べ、状況の打開を図った。

代表復帰の乾が、得意のドリブルからチャンスを作ったが…

そんな中、後半立ち上がり3分、相手のショートコーナーの流れからシリアにヘディングシュートを決められてしまう。さらにその直後にはアンカーの山口が打撲を負ってしまい、後半8分に20歳の井手口陽介と交代。早くも4-2-3-1を諦めて4-3-3に変更し、これが代表デビューとなった井手口がアンカー、今野と倉田をインサイドハーフに戻した。

なぜ後半開始から中途半端に4-2-3-1を使ったのか理解に苦しむところだが、いずれにしてもアンカー井手口で4-3-3の再テストに踏み切ったわけだ。

その辺りから、試合は極端にオープンな展開に変わった。「3日前のオマーン戦を終えてからここまでの長旅があり、しかもラマダン(断食)中なので選手がかなり疲労していた」とは、試合後のシリア監督アルハキムのコメントだが、その影響もあってか、中盤には広大なスペースが生まれ、日本が押し込み始める。そして後半13分、長友のクロスを今野が流し込み、日本が同点に追いつく。

そこからハリルホジッチ監督は交代のカードを立て続けに斬り、ほとんど見せ場のなかった原口を下げて乾を、故障明けの今野を下げて浅野をピッチに送り込む。システムは4-3-3のままだが、浅野が右ウイングに入ったことで、本田がインサイドハーフを務めることとなった。

展開は相変わらずオープンな状態。よって初陣の井手口は相手のプレッシャーを受けるシーンも少なく、無難にデビュー戦をこなすことができた。ウイングではボールタッチが少なかった本田もインサイドハーフに入ってプレー機会が増加。久しぶりの代表復帰となった乾も、得意のドリブルからチャンスを作ることができた。しかし、オープンな状況での3人の評価も、前半開始からとなれば額面通りとはいかない。

結局、1-1のまま終了したシリア戦を終えた後に浮上したのは、香川の負傷交代に始まったスクランブル采配によってますます不確定になったイラク戦用のシステムとメンバー編成だった。

普通に考えれば、システムについてはシリア戦でこだわった4-3-3になるだろう。しかしそれが前半のようにタイトな試合になって機能しなかった場合はどうするのか? 慣れ親しんだ4-2-3-1に切り替える準備はできているかと言えば、疑問は残る。

最大の問題は中盤

一方、スタメンについては、GK川島永嗣とDF4人はシリア戦でフル出場した長友佑都、昌子源、吉田麻也、酒井宏樹でほぼ決定だろう。前線3人は1トップ大迫は確定として、シリア戦で低調だった左の原口と右の久保をそのままスタメン起用するのかどうか。

試合後、おそらくこのふたりを指してハリルホジッチ監督は「出場しているのに消えている選手がいた。何人かの選手とはこれから話す」と語ったが、確かにシリア戦の出来を見ると不安は残る。とはいえ、監督自らが「厳しく話す」というのだから、やはり原口と久保がスタメンを飾る可能性は高いと見ていい。

最大の問題は中盤だ。山口の負傷が軽ければアンカーでプレーするはずだが、インサイドハーフは今野と倉田なのか、それとも今野と本田になるのか。また、山口の負傷が思いのほか大きかった場合は、井手口をアンカーで使うのか。それとも4-2-3-1に変更して今野と並べるのか。その場合、トップ下には誰が入るのか…。

確かに選手個々の試合勘やコンディションの調整には役に立ったが、実際のところチームとしての収穫は少なかった。脱臼により香川の戦線離脱も決定し、多くの疑問と不安、そして不確定要素を抱えたままイラク戦を迎えることになる。

去年10月6日のホームでのイラク戦は先制をしながら後半に追いつかれ、アディショナルタイムのラストワンプレーで山口が決勝弾を沈めてなんとか勝ち点3を獲得した。それを考慮すると、今回も相当に難しい試合になるだろう。少なくとも、日本は“ぶっつけ本番”に近い。イチかバチかの戦いになることは間違いない。

(取材・文/中山 淳 撮影/藤田真郷)