スポーツファンならずともシビれるレースになりそうだ。
陸上世界選手権(8月・ロンドン)の男子100mの代表3枠をめぐり、桐生祥秀(きりゅう・よしひで)、山縣亮太(やまがた・りょうた)、ケンブリッジ飛鳥のリオ五輪銀トリオと、追い風参考記録ながら9秒94をマークした期待の新星が、日本選手権(6月23~25日・大阪)で激突する。公認9秒台も期待できるぞ!
■ガトリンも絶賛する多田のスタート力
今、日本の男子100mでは、かつてないほどハイレベルな争いが繰り広げられている。
まず、国内のシーズンイン直前の3月、オーストラリアで桐生祥秀(21歳)が10秒04を出すと、同じ大会で山縣亮太(25歳)も10秒0台を連発。それに触発されてか、桐生は4月の出雲陸上と織田記念でも10秒0台を出すなど好調を維持している。
さらに、アメリカでシーズンインしたケンブリッジ飛鳥(24歳)は、初戦で追い風5.1 mの参考記録ながら9秒98をマーク。5月のゴールデングランプリ川崎では、リオ五輪の100m銀メダリスト、ジャスティン・ガトリン(アメリカ)と0秒03差の2位に入る快走を見せた。
6月23日から大阪で行なわれる日本選手権では、リオ五輪のリレーで銀メダルを獲得したこの3人が優勝を争い、8月の世界選手権出場を決めると思われていた。
しかし、大会直前に異変が起きる。関西学院大3年の新星、多田修平(ただ・しゅうへい、20歳)が名乗りを上げたのだ。
多田は、6月10日の日本学生個人選手権の準決勝で追い風4.5mの参考記録ながら、日本人国内初(電気計時での計測で)の9秒台となる9秒94をマーク。そのままの勢いで追い風1.9mの決勝を10秒08で制し、世界選手権の参加標準記録(10秒12)を突破した。
昨年までのベストは10秒25。ところが、今年5月の関西インカレでそのタイムを更新(10秒22)すると、続くゴールデングランプリ川崎では50mまで先頭を走り、優勝したガトリンも「素晴らしいスタートをした選手がいた」と称賛した。そのレース後、多田は「スタートから中盤にかけての技術が上がってきた。条件がそろえば、10秒1台は確実に出せる」と自信をのぞかせていたが、それ以上の結果を出したわけだ。
飛躍の要因は、昨冬のアメリカ合宿にある。そこで筋力不足を実感し、ウエートトレーニングに積極的に取り組むようになった。さらに、低く出ることを意識しすぎて地面に力が伝えきれていなかったスタートも、「45度の角度で出るイメージ」というアドバイスを受けて修正。1歩目から力が伝わる走りになり、元から得意としていた20mからの加速を、より生かせるようになったのだ。
◆『週刊プレイボーイ』27号「陸上100m、世界選手権に生き残るのは誰だ!?」では、世界選手権100m代表枠争いを予想。そちらもお読みください!
(取材・文/折山淑美 写真/日本雑誌協会)