塩谷の移籍はステップアップといっていいと語るセルジオ越後氏

スゴくいい決断をしたと思う。広島の元日本代表DF塩谷司(しおたに・つかさ、28歳)が、UAE1部のアル・アインに完全移籍することが決まった。契約条件は不明だけど、現地報道によれば、移籍金1億5000万円、年俸2億円の2年契約という好条件とのこと。

自分をより高く評価してくれるチームを選ぶのは、プロとして当然のこと。今までもJリーグで活躍していたブラジル人選手は何人も中東のクラブに引き抜かれている。アル・アインがなぜ塩谷に目をつけたのかはわからないけど、現在の何倍もの年俸をもらえるのに断る理由は何もない。

日本では、中東について「年俸は高いけどレベルは低い」と、Jリーグより格下に見る風潮がある。でも、本当にそうかな。

アル・アインには元鹿島のMFカイオ、元広島のFWドウグラスなどJリーグで実績を残したブラジル人選手がいる。さらに日本でもおなじみのMFオマル・アブドゥルラフマンなどUAE代表の選手が何人も所属している。今季のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)では準々決勝に勝ち進んでいる強豪だ。少なくとも今季の広島よりもクラブの格は上。対戦相手にも強力な外国人選手がいる。今回の移籍はステップアップといっていい。

同じアジアとはいえ、大きく異なる文化、生活習慣に家族も含めて溶け込めるかは未知数だけど、個人的には、UAEは中東で日本人が最も過ごしやすい国だと思う。昔と違って、練習場やスタジアムなどサッカーをやる環境も整っている。確かに、観客が少なく、盛り上がりに欠けるという部分はある。でも、皮肉を言えば、日本でもACLやルヴァン杯にはあまりお客さんが入っていないよね。

“助っ人”としてプレーするわけだから、結果を残せなければすぐに切られるというのも、わかりやすくていいんじゃないかな。塩谷は大学時代は無名の選手で、なんとかJ2水戸に入って、そこで活躍して広島に引き抜かれ、リーグ優勝に貢献して、クラブW杯にも出場。その間、日本代表にも選ばれ、昨年のリオ五輪にはオーバーエイジ枠で出場した。そういう"たたき上げ"のキャリアを歩んできた彼らしい挑戦じゃないかな。

ただし、今回の移籍によって、ニュースから“消える”リスクは避けられない。どんなに活躍しても、日本のメディアがヨーロッパを差し置き、わざわざUAEのリーグを取り上げるとは思えないからだ。

そこで、日本サッカー協会の西野朗(あきら)技術委員長の出番になる。塩谷のプレーを定期的にチェックしてほしい。塩谷はハリルホジッチ体制では日本代表に未招集とはいえ、前監督のアギーレ時代には選ばれていた選手。先日のシリア戦、イラク戦ではブルガリアでプレーする加藤恒平がサプライズ招集されて話題になったけど、ヨーロッパでもマイナーなブルガリアリーグをチェックするなら、UAEリーグもしっかりチェックしないとおかしい。

塩谷といえば、身体能力が非常に高く、守備だけでなく攻撃も持ち味。一時期、Jリーグでも豪快なシュートをバンバン決めていたよね。DFらしからぬ得点能力の高さは最高のアピールになる。ぜひ、ゴールをたくさん決めて、ほかの日本人選手に「そういう選択もあるのか。俺も中東に行きたい」と思わせるような成功を収め、新たな道を切り開いてほしい。

(構成/渡辺達也)