V・ファーレン長崎の社長に就任した髙田 明氏 V・ファーレン長崎の社長に就任した髙田 明氏

まさに救世主だ。「ジャパネットたかた」の創業者である髙田 明(たかた・あきら)氏(68歳)が4月25日、深刻な経営危機が表面化していたJリーグ(J2)のV(ヴイ)・ファーレン長崎の社長に就任。すると、チームを取り巻く雰囲気は一変し、すぐさま成績も上向きに――。

誰もが知る経営のプロは、愛する地元のクラブをどう導いてゆくのか!? 週プレは長崎へ飛んで髙田氏を直撃した!

●「長崎県民の皆さんを幸せにしたいんです」

髙田氏がスタジアムに姿を現すと、サポーターから「タカ~タ、ナガサキ!」とコールが湧き上がる。

今季開幕前、経営危機が表面化し、J3降格どころかクラブ消滅の危機に瀕(ひん)していたV・ファーレン長崎。その立て直しの切り札として社長に就任した髙田氏は、早くもサポーターから絶大な支持を受けている。

ゴール裏に陣取っていた男性サポーターはこう話す。

「V・ファーレンというクラブよりも圧倒的に知名度の高いジャパネットがお金を出すメリットなんて何もないんです。それなのに100%の株式を取得し、クラブを救ってくれた。旧経営陣の間はいろいろありすぎたけど(苦笑)、髙田さんは長崎県を愛して活動されてきた方だし、クラブをいい方向へ導いてくれると思います」

下部リーグのJFL時代からチームを応援する女性サポーターもこう語る。

「めっちゃ期待してます! お金をバンバン出して大物スター選手を獲ってほしい…なんて贅沢(ぜいたく)は言いません(笑)。今後はあの営業手腕でV・ファーレンを立て直してほしい!」

まだチーム強化には何も手をつけられていないが、髙田氏の社長就任以降、V・ファーレンは22試合を戦って11勝5分け6敗(7月10日現在)と成績は急上昇。背番号10番を背負うベテランのMF養父雄仁(やぶ・ゆうじ)が語る。

「社長は練習にはもちろん、アウェー戦に来てくれることもありますし、選手もやっぱり人間ですから、社長が頑張ってくれているなら僕たちも頑張ろうって気持ちにはなりますよね。好調はたまたまのような気もしますが、ちょっとしたことで運気は変わるもの。社長は何か持っている人なのかも(笑)」

その独特の語り口で人気を集め、ジャパネットを一代で通信販売大手へとのし上げた髙田氏はV・ファーレン長崎をどう再建するのか!?

 試合を見に来た子供たちに囲まれる髙田氏。長崎のサポーターからは絶大な支持を受けている 試合を見に来た子供たちに囲まれる髙田氏。長崎のサポーターからは絶大な支持を受けている

髙田氏が語るクラブの方向性とは?

―まずは、あらためて社長就任にあたっての経緯を教えていただけますか。

髙田 残念ながら経営危機ということになってしまいましたが、これまでもV・ファーレンを応援させてもらっていましたし(ジャパネットはスポンサーとして株式の約20%を保有)、このままクラブがなくなってしまうのも世知辛いじゃないですか。

私自身は2年半前にジャパネットの社長を退き、今はテレビショッピングにも出演していません。ただ、今回のV・ファーレンのグループ化ということでは、私の息子でもある髙田旭人(あきと)社長(現ジャパネットホールディングス代表取締役社長)から強い要望があり、それならばと社長になったわけです。引き受けた以上は使命感もありますので、責任を持ってやっていきたいと思っています。

―社長になったことで見えてきたクラブの内実は?

髙田 傷はありますね。今はまだ現状把握で大変ですが、それをせずに改革はできません。まずはそこをしっかりやっていくことです。

―今後のクラブの目指すべき方向性は?

髙田 クラブ経営も企業経営と一緒で、透明性を持って採算の取れるクラブを目指していきます。そして、県民が寝ても覚めても気になってしまうようなクラブにしたいですね。

今はJ2で本当に頑張っています。ただ、選手の想いや熱心なサポーターの存在を考えると、やはりJ1を目指すべきでしょう。私も30年ほど経営をしてきましたが、不可能に思えることも、ひとつの目標に向かった瞬間に可能になるといったことを何度も経験してきました。

今は苦しい状況です。でも、“雨降って地固まる”じゃないですけど、ここからJ1昇格を目指して最後にみんなで喜べたら最高じゃないですか。

―ジャパネットの社長時代は長期的なビジョンを持たない“積み上げ経営”で成功を収められていますが、V・ファーレンでも同じやり方を貫くのでしょうか?

髙田 私はこれまで長期的な目標というものを持ったことがありません(笑)。私はジャパネットを創業しましたが、今があるのはその時々を一生懸命やってきた繰り返しの結果です。V・ファーレンでもジャパネットでやってきた経験に即して再生できたらと思っています。

商品を販売する会社にとっては、お客さまに商品を買ってもらい、喜んでもらうのが一番で、サッカークラブなら試合に勝利して、サポーターの皆さんに勇気を与えるのが大切なことですよね。どちらも人を幸せにすることがミッション。そういう観点に立てば、運営の理念は変わらないはずです。

―どのクラブもシーズンの初めには順位などの短期的な目標を立てると思いますが、あくまで目標は立てずに…。

髙田 目標がないわけじゃなく、J1に上がるという夢はあるんです。そこに近づくためには未来ではなく今が大事。だから、まったく目標がないわけじゃないんです。

◆後編⇒J2長崎の新社長「ジャパネットタカタ」創業者・髙田明氏が激白!「せっかくならJ1の頂点を目指したい」

(取材・文/栗原正夫 撮影/竹藤光市)

●髙田 明(たかた・あきら) 1948年生まれ、長崎県出身。大阪経済大学卒業。74年に父が経営するカメラ店へ入社。86年に「株式会社たかた」(現・ジャパネットたかた)を設立し、社長に就任。15年1月に退任した

 現場のスタッフにもまめに声をかける。また、練習やアウェー戦にも可能な限り足を運んでいるという 現場のスタッフにもまめに声をかける。また、練習やアウェー戦にも可能な限り足を運んでいるという