昨年は球団新記録の69試合に登板。シーズン中は大好きな酒を断つというストイックさも活躍につながっている 昨年は球団新記録の69試合に登板。シーズン中は大好きな酒を断つというストイックさも活躍につながっている

もはや神懸っていると言っていい。リードしていてもビハインドでも、同点の場面でも、勝機があると踏めばイーグルスは福山博之をマウンドへ送ってきた。そして福山が投げると、同点、逆転、勝ち越しのドラマが生まれる。チームの半分近くの試合で投げてきた福山は、“ジョーカー”的な役割を担って、首位争いを続けるイーグルスを支えてきた。

プレートの一塁側を踏んで右バッターの懐へ投げ込む福山のまっすぐは、そのほとんどがツーシームで、シュート気味に食い込みながら手元で微妙に動く。そのため打ちに来たバッターのバットの芯を外し、勝負が早くなる。しかも、躍動感があふれるフォームからテンポよく投げていくため、味方の攻撃にもリズムが生まれやすくなる。(前編記事「好調・楽天を支える福山博之に“あの真相”を直撃!」参照)

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(インタビュー前編「サンキュー、ゴリラ」について)福山が「なんばに行ってみればわかりますよ」と意味ありげに言うものだから、気になって大阪まで足を運んでみた。するとそれは焼肉屋の名前だった。「39ごりら」--福山がベイスターズ、イーグルスで一緒にプレーした元ピッチャーの先輩、藤江均(ひとし)さんがオーナーを務める、一皿395(さんきゅー、ご)円で焼肉が食べられるという、地元で人気のお店だ。

壁にはプロ野球選手のサインがズラリと並んでいたが、福山の色紙は真ん中のひときわ目立つところに飾られていた。後輩には言いにくいことをハッキリと言い、お世話になった先輩には受けた恩義を忘れない。そんな福山ならではの心遣いが、さりげない一言に込められていたのである。藤江さんにそんな話をしたら「サブってそういうヤツなんですよ」と笑っていた。そういえば福山もこう言っていたっけ。

「自分、チームの中では“サブ”キャラですから(笑)」

ウケ狙いなのか、あるいは大真面目なのか……煙に巻かれ続けたインタビューの最後、福山に3つの質問を投げ掛けてみた。まず、ひとつ目。

壁にぶつかったとき、自分を励ます言葉はあるか--。

「困ったとき、『モノは考えよう』という言葉はたまに考えますね。何か悪いことが起こったとしても、もしかしたら、それっていいことかもしれないじゃないですか。たとえば階段から落ちたとします。足、骨折します。でも頭を打って記憶が飛んだり、死んだりしたわけじゃない。逆に、大学のとき、ピッチャーせんと野手やってたらドラフト1位でプロに入れたかもしれへんし、ベイスターズでピッチャーはもうアカンと言われたときにも、そこから野手になってたら今ごろ、侍ジャパンに入ってたかもわかりませんから」

やっぱり野球の神様っておるんな、と思いました

ふたつ目。今の自分へのささやかなご褒美は何か--。

「シーズンが終わったら、美味しい酒を飲みたいなって。僕、ビール、日本酒の順で好きなんですけど、シーズン中は我慢して、一切、飲まないようにしてるんです。だからそれを楽しみに……日本酒は『王祿(おうろく)』が好きです。地元、島根のお酒なんですよ」

では、最後の質問。野球の神様を信じますか--。

「信じますね。前に、メチャクチャ速いピッチャーライナーが飛んできたんです。そのとき、とっさにグローブが出たんですよ。もう、絶対に顔か頭に当たった、と思ったんですけど……あの後、冷静になって考えてみたら、ああ、やっぱり野球の神様っておるんやな、と思いました」

2015年6月13日の仙台。ドラゴンズの藤井淳志(あつし)が弾き返した強烈な打球は、福山のグローブをふっ飛ばして3塁前へ転がった。もしワンクッションなければ……考えただけでゾッとする。あのグローブを差し出させてくれた野球の神様は、福山にとってどんな存在なのだろう。

「えーっ、そんなこと、考えたことないですよ。うーん、僕的には、あぁ、あれですね。ほら、仏教系の、大仏みたいな感じ。仏様かなと……」

神様が仏様?

まぁ、いいか。神懸ってる今の福山は、イーグルスにとっては間違いなく、神様、仏様、福山様、なのだから(笑)。

(取材・文/石田雄太 撮影/松橋隆樹)

●福山博之(ふくやま・ひろゆき) 1989年3月27日生まれ、島根県出身。28歳。県立大東高から大阪商大を経て、10年、ドラフト6位で横浜ベイスターズで入団。2年プレーした後、戦力外通告を受け、13年に楽天入団。14年より3年連続60試合以上に登板