メジャーリーグの舞台に、まるで野球マンガの主人公、いや、主人公の前に立ちはだかる“天才打者”のような選手が登場して話題を呼んでいる。
その選手の名は、ニューヨーク・ヤンキースのスーパールーキー、アーロン・ジャッジ。身長201cm、体重128kgという大型外野手だ。稀有(けう)なパワーを持つ25歳のスラッガーは、8月2日時点で打率2割9分9厘(ア・リーグ18位)、34本塁打(同1位)、75打点(同3位)と打ちまくっている。
7月7日のブリュワーズ戦では早くも今季30号本塁打を放ち、マリリン・モンローの夫でもあったジョー・ディマジオが、1936年に残した29本塁打のヤンキース新人記録を更新している。ディマジオは138試合で29本塁打を記録したのに対し、ジャッジは82試合で30本という驚異的なペース。とにかく手がつけられない打棒で、このままいけば、2001年のイチロー以来となる新人王とリーグMVPのダブル受賞も有望だ。
今年のオールスター期間中には、MLBコミッショナーのロブ・マンフレッドが「彼なら“メジャーの顔”になれる。とてつもないタレントであり、同時にフィールド外でも魅力的な存在だ」とジャッジを評した。そして、マイアミのマーリンズ・パークで開催されたオールスターのホームランダービーでも、ジャッジの“怪物ぶり”はいかんなく発揮された。全47発を打ち込む圧倒的な強さで初優勝。最長156mをはじめ規格外な飛距離の打球を連発し、アメリカのお茶の間の度肝を抜いた。
ジャッジの魅力はこの“わかりやすさ”にある。今季前半戦の本塁打の最長飛距離は約151m、最も速かった打球は約195キロで、どちらもメジャートップ。つまり、MLBで誰よりも遠くに飛ばすことができ、誰よりも速い打球を打つことができる選手なのだ。
そんなジャッジが、華やかなニューヨークの街で最新のセンセーションになったのは当然のこと。しかし、相手チームにとって脅威なのは、パワーだけでない、その献身的な姿勢にある。
「ホームラン、打点の数字もすごいが、2ストライク後のヒットや粘った末の四球も見逃せない。投手に多くの球を投げさせ、走塁でも味方のヒットで一塁から三塁まで積極的に走ってくれる。ただのパワーヒッターではなく、完成された選手なんだ」
ヤンキースのジョー・ジラルディ監督がそう述べていたとおり、“正しいプレー”で勝利に貢献し続けている。
養子としてカリフォルニア州の教育熱心な両親に育てられたこともあり、謙虚で気さくな性格でも知られる。また、大都市に拠点を置きながら、スキャンダルらしきものにもまだ無縁。こうして並べていくと、完璧すぎて不気味にすら感じられるほどだ。
フィクションのようなスラッガーは、一体どこまで駆け上がるのか。オールスターの直後はスランプもあったが、それでも打率3割以上をキープ。正確なバットコントロールも備えているだけに、50本塁打の大台到達もほぼ確実といえよう。
収穫の大きな今季が終わる頃には…ジャッジは本当に“メジャーリーグの新たな顔”になっているかもしれない。
(取材・文/杉浦大介 写真/Getty Images)