現場記者が本音で語る、夏の甲子園で注目する選手とは?

7月16日の沖縄・興南高校を皮切りに今年も49代表が出揃った夏の甲子園――。最後の最後に「早実敗退」という事態に直面し、スポーツ紙や高校野球専門誌は頭を抱え込んでいるというが…。

前編「大阪桐蔭の連覇か、阻止するのは横浜or秀岳館?」に続き、現場で取材する記者たちが本音で大会を展望。主役・清宮幸太郎不在となったこの大会で一体、誰が主役に躍り出るのか? 

=スポーツ紙アマチュア担当記者、=高校野球ライター、=高校野球専門誌編集者

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 では、今大会の注目選手を挙げていこうか。昨年は藤平尚真(横浜高校―楽天)、寺島成輝(履正社―ヤクルト)といったポテンシャルの高さを感じさせる投手が目立った大会だったが、今年は野手に逸材が揃っているね。逆の見方をすれば、投手に“怪物”級がいない。

 怪物とは言わないまでも、いわゆる“特A”クラスが見当たらないですよね。栃木の150㎞右腕・石川翔(青藍泰斗)、通信制高校の逸材・本田仁海(ひとみ・星槎国際湘南)、清宮から5三振を奪った櫻井周斗(日大三高)とドラフト上位候補はみんな予選で消えました。

 打高投低は甲子園というよりも全国的な傾向でしょう。選抜でも打撃戦が多かったし、春の東京都大会決勝戦、早実vs日大三高の18―17なんて異常なスコアですよ。夏の予選でも10点差を逆転なんていうとんでもない試合がありました。

A そんな中で予選を勝ち上がって甲子園に出てきたチームはやっぱりどこもそれなりの好投手を持ってるな。

 あえて枠組みするなら、川端健斗(秀岳館)、平元銀次郎(広陵)、山下輝(ひかる・木更津総合)が左腕ビック3といったところかな。

 3人とも寺島や高橋昴也(花咲徳栄―広島)がいた去年なら「そこそこいい左」程度の位置づけだっただろうけどな。ただ彼らに限らず、左腕というのは独特のフィーリングがあるから、甲子園のマウンドの傾斜や土の硬さがマッチしたりすると一気にブレイクする可能性もある。

 右腕では大阪桐蔭のエース、徳山壮磨がNo.1ですかね。140㎞台後半の力のあるストレートを投げます。春夏連覇時のエース藤浪晋太郎(阪神)にスケールでは見劣りしますが、徳山には安定感がありますね。

A あの打線がバックにいるんだから、先に点を取られても、我慢していたらいつか逆転してくれるって思いながら投げてるんだろうな。

 地味に注目しているのが三本松(香川)のエース佐藤圭悟です。ストレートのMAX144㎞はさほど驚かないが、スライダーやチェンジアップと球種が多い。6月の招待試合で強力打線の早実に完封勝ちして話題になりました。

 初出場の藤枝明誠(静岡)にはU―18日本代表候補のエース、久保田蒼布(そう)がいます。剛腕タイプではありませんが、サイドスローから変化球の球種も多く面白い投手ですよ。

 打者ではやっぱり増田珠(しゅう)外野手(横浜)が主役候補だな。神奈川県予選で4戦連発を含む5本塁打は東海大相模時代の大田泰示(日本ハム)と並ぶ大会タイ記録だ。

 横浜高校出身のスラッガーといえば、今なら真っ先に筒香嘉智(DeNA)の名前が挙がりますが、筒香は高校時代は内野手だったし、増田は右打者。むしろ鈴木誠也(広島)2世というイメージですね。

 プロ注目ということなら強肩&強打の大型捕手・猪田和希(いのだ・かずき、神戸国際大付)も前評判が高いですね。人呼んで「神戸のあばれる君」。愛嬌のある顔してますよ。

 キャッチャーは福永奨(横浜)、中村奨成(広陵)も評価が高いが、猪田にはスケールの大きさを感じる。現時点でインサイドワークの面では名門校で鍛えられたふたりに劣るけど、まだキャッチャー経験1年足らずだから、それも仕方がない。

 通算ホームラン記録で注目を集めた清宮(幸多郎、早実)の107本にはかないませんが、中京大中京の4番打者・鵜飼航丞(うかい・こうすけ)内野手の56本も相当な記録です。愛知県大会では不振にあえいでいましたが、復調すれば09年の全国制覇時の主砲・堂林翔太(広島)を上回るインパクトを残すかもしれませんよ。

“スーパー中学生の争奪戦”と予選敗退した清宮の真価

 通算本塁打なら二松学舎大付の永井敦士外野手も50本を越えています。

 僕のイチ推しは盛岡大付の“小さな大砲”植田拓外野手です。身長165cmながら、高校通算本塁打は50本以上。岩手大会でも決勝戦の2打席連続を含む4本塁打を記録しています。また彼は昨夏、今春と甲子園でホームランを打っていて、この夏も打てば3大会連続本塁打の快挙ですよ。

 そう考えると、高校通算60本を超す“なにわのゴジラ”安田尚憲(ひさのり、履正社)が見られないのは寂しいな。春に「東の清宮、西の安田」と並び称されたこの世代を代表するふたりのスラッガーがどっちも予選敗退か…。

 清宮という軸になるスターはいるものの、この学年は2年生の選手たちが注目されていることもあって、ちょっと谷間の世代というイメージができちゃいましたね。でも2年生は人材豊富だからなぁ。

 大阪桐蔭は投手でMAX147㎞、内外野どこでもこなす“天才野球小僧”根尾昴(あきら)を筆頭に1番打者で予選3本塁打6盗塁の藤原恭大(きょうた)外野手。投手陣にも140㎞台後半の球速を誇る柿木蓮(かきぎ・れん)、190cmの大型左腕・横川凱(よこがわ・かい)とまばゆいばかりのメンバーが揃った。今から秋の大会が楽しみだな。

 横浜も豪華ですよ。コンゴ人の父親を持つハーフで190cmの大型スラッガー万波中正(まんなみ・ちゅうせい)外野手、予選で4試合連続本塁打を記録した長南有航(ちょうなん・ゆうこう)外野手ら大型選手が並ぶ。そこにU―15日本代表でエースを務めた左腕・及川雅貴、ボーイズリーグ全国優勝のスラッガー小泉龍之介と強力な1年生が加わった。ここまで集まると、目がチカチカしてしまいます。

 1年生といえば、沖縄の興南もU-15日本代表の1年生左腕・宮城大弥(ひろや)が決勝戦で初先発し、完投勝ちで甲子園を勝ち取った。早実にも清宮と並んでクリーンアップを打ったスラッガー野村大樹内野手がいるが、今の時代は彼らのようなスーパー中学生の争奪戦に勝ったチームが甲子園でも結果を残している。まして来年は第100回のミレニアム大会で強豪校はどこも優勝を狙っているからな。

 もし甲子園で大阪桐蔭vs横浜が実現するなら、将来、プロでレギュラーを獲るような選手たちが何人もいる中、それぞれ現在の力関係が計れるという意味でも、ぜひ観てみたいカードですね。

 ただ、そういう視点で見るのはマニアの野球ファンであって、正直、今年は話題性のない、スポーツ新聞の売れない大会になりそうだな。やはり清宮さえいてくれたらと、またグチっぽくもなるよ…。

 ちなみに、今回の予選敗退は清宮の選手としての評価にどんな影響を与えたんでしょうね?

C 全く関係ないでしょう。確かに、すぐにプロにいって活躍できるかと聞かれたら、バットの問題もあるので簡単なことではないと思います。ただ、あのバットコントロールの非凡さとヘッドスピードの速さは木製バットでも消えるものではない。

 甲子園の直後に開催されるU―18W杯では当然、代表に入るだろうから、そこで高校新記録の通算108本塁打を打って大会後に進路発表って流れだろうな。

 プロか早大進学か、どちらを選ぶんでしょうね?

 発表するまで全くわからん。だから甲子園期間中も早実の取材はみんな継続だ。

C 最初(前編参照)に甲子園の試合レポートよりも清宮の進路の話題が大きく扱われかねないって言ったのもそういうことですよね(苦笑)。