現在、Jリーグで最も注目を浴びているチームが、ヴィッセル神戸だ。
ヴィッセルといえば、過去J2に2度降格するなどタイトルとは縁遠いクラブだが、今夏に元ドイツ代表の大物ストライカー、ルーカス・ポドルスキを獲得。一部報道によれば、ポドルスキの契約は2年半で、年俸は最高約10億円(800万ユーロ)に上るともいわれている。契約満了までプレーした場合の総額は25億円を超える、まさに規格外の助っ人を迎えた。
加えて、ヴィッセルは元日本代表FWハーフナー・マイクを補強したほか、実現はしなかったが、鹿島アントラーズの点取り屋で元日本代表の金崎夢生(かなざき・むう)の獲得も画策していた。“身の丈経営”がポリシーのJリーグで異彩を放つ積極投資により、リーグ後半戦は優勝争いに加わりそうな勢いだ。
それにしても、なぜヴィッセルはこれだけの大型補強を行なえるのか。その答えは、ヴィッセルの実質的オーナーである三木谷浩史(ひろし)氏の存在抜きには語れないだろう。
周知の通り、三木谷氏は楽天株式会社の創業者であり、会長兼社長。その三木谷氏がヴィッセルの経営に乗り出したのは2004年のことだった。当時、母体企業を持っていなかったヴィッセルは、大口スポンサーの撤退が続いて財務状況は火の車。03年には運営会社が民事再生法の適用を申請し、クラブ存続の危機にあった。そこに登場した救世主が、神戸出身の実業家である三木谷氏だった。
三木谷氏は自身が代表を務め、個人資産を管理するクリムゾングループを通じて経営権を買収し、株式会社クリムゾンフットボールクラブを設立した。規約により個人オーナーを認めていないJリーグにおいて、初めて実質的オーナーに就任したのだった。
その04年シーズンには、02年W杯で大人気となったトルコ代表イルハン・マンスズを獲得したほか、夏にはカメルーン代表FWパトリック・エムボマを補強する。大物選手の獲得で注目を集めると、翌年からはチームカラーをクラブ伝統の白黒から楽天のイメージカラーであるクリムゾンレッドに一新。さらにチームエンブレムも刷新し、一部サポーターの反対をよそに、クラブを完全に“三木谷色”に染めていった。
ただ、楽天が胸スポンサーにつくなど経営状況が改善された一方で、チーム成績は振るわなかった。J1での最高成績は11年の9位で、多くのシーズンは残留争いに巻き込まれている。それだけに、今季はオーナー自らが本腰を入れてタイトル獲得をもくろんでいるとみていい。
しかも、クラブは15年に楽天に株式を譲渡した末、今年4月からクラブの運営法人を楽天ヴィッセル神戸株式会社に社名変更。その楽天は、三木谷氏の“肝煎(きもい)り”で、スペインの世界的名門バルセロナの胸スポンサーとして4年総額2億2千万ユーロ(約285億2千万円)という大型契約を結び、世界に衝撃を与えたばかり。三木谷氏の“サッカー熱”はとどまるところを知らない。
注目のポドルスキはデビュー戦で2得点を記録するなど、早速、実力を発揮しているだけに、ヴィッセルのタイトル獲得は、もはや夢物語ではなさそうだ。
(取材・文/中山 淳[アルマンド] 写真/藤田真郷)