サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第8回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど、日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回は、いよいよ今月末の2018年ロシア大会最終予選、運命を分けるホームでのオーストラリア戦を控え、日本が初めてW杯に出場したフランス大会、日本代表として出場したチームメイトについて…。
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生まれて初めてワールドカップ(以下、W杯)に遭遇したのが1974年のドイツ大会。11歳になるかどうかの頃で、TVで決勝戦のドイツ対オランダ戦を放送していて、なんの試合かわからないけど夜中の中継を父と一緒に観て、興奮したのを覚えているよ。
1978年のW杯アルゼンチン大会は、さらにどっぷりハマった。毎日、マリオ・ケンペスやオズワルド・アルディレス(ともにアルゼンチン代表)になり切ってサッカーをしていたな。だから、アルディレスが1996年に清水エスパルスの監督になった時は、すでに引退していたけれど彼の下でプレーしたい気持ちになったよ(笑)。
実際、アルディレスから海外での合宿に選手として参加してみないかと声をかけてもらって、「もう一度、現役でやってみるか!」という気持ちになってトレーニングを始めた。ただ、引退の原因になった足首やひざの痛みがどうにも治らなかった。それで現役への未練がようやく吹っ切れたんだ。
現役時代はTVでW杯を追いかけ、引退後、1998年フランス大会で初めて現地のスタジアムでこの目で観た。残念ながらスタジアムで観られた日本戦はなかったけど、チリ対イタリアの解説で現地入りして、フランスのTVで見た日本対アルゼンチンは今も鮮明に覚えている。子どもの頃に夢中になったアルゼンチン代表と一緒に日本代表がスタジアムに入場してくる時は、もう痺れたね。
「ありえない!」「これは現実か?」って半信半疑だったけど、その試合に中西永輔が出ていたことで夢じゃないと理解できたんだ。永輔とはジェフ市原(現在のジェフ千葉)で一緒にプレーしていたし、引退後、私がやっていた左サイドのCBを任されたのに加えて、当時住んでいたマンションが同じだったからね。彼がピッチにいることで、これは現実なんだ!と思うことができた。
マンツーマンの守備に強い永輔がW杯前の代表戦に呼ばれた時、「このタイミングで選ばれたのは儲けもんだからガンガンやれよ!」と激励したのをよく覚えている。そうしたら永輔は最後の最後で最終メンバーに滑り込んだ。
永輔はクラウディオ・ロペスを完璧に封じ込んだ
永輔はアルゼンチン戦でストッパーとして先発。クラウディオ・ロペスを完璧に封じ込んだ。一緒にプレーして、同じマンションに住んでいる元チームメイトが出場していたことで、とんでもなく興奮したね。
マンションといえば、我が家はW杯のタイミングで引っ越しをしている。大会開催期間中に引っ越すことが多いから、フランス大会やドイツ大会、南アフリカ大会、ブラジル大会は現地に行く前と、帰ってきた時では家が違った。当然、元の家に帰りかけたこともあったよ(笑)。
日韓共催だった2002年のW杯の時は、日本にはいたけれど、平日は毎日W杯のハイライト番組の解説を担当して、夜7時のニュースのスポーツ枠にも出演したから、昼間からNHKに詰めていた。しかも、週末は韓国で開催される試合の解説で韓国に通っていたから、引っ越しの準備はほとんど妻に任せきりだった。申し訳ない気持ちもあるし、本当に感謝している。
2010年南アフリカ大会の時は、同じマンションの同じフロアで間取りが左右真逆の部屋に引っ越しをした。つまり、W杯から帰国したら、それまで右にあったものが左にある暮らし。時差ボケも加わって、1週間くらいは慣れないで、トイレに行こうとして壁にぶつかったり…と、感覚が狂ったままだった(苦笑)。
私のようなサッカー人にとってW杯は決して忘れないビッグイベントなだけに、おかげで契約更新の時期を忘れることはない。ということで、ロシア大会が開催される来年2018年が、今住んでいる家の更新のタイミングになる。
我が家の引っ越しの時期に日本代表がW杯で旋風を巻き起こしてほしいと思うし、そのためにも、まずは最終予選をなんとしても勝ち抜いてほしい。
(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)
■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。