日本人女性ドライバー有力候補生の池島実紅

モータースポーツといえば、少し前までは「男の世界」というイメージが強かった。実際のところ、現在も男性中心の世界であることは間違いないが、最近は女性のエンジニアやメカニックが活躍し、女性ドライバーも確実に増えている。

F1を始めとする世界選手権を主催する国際自動車連盟(FIA)、同じくラリーやスーパーフォーミュラなどの全日本選手権を主催する日本自動車連盟(JAF)も、女性のモータースポーツへの参加促進を目的とした「ウィメン・イン・モータースポーツ」というプロジェクトをスタートさせている。また今年5月には世界で初めての女性限定プロレースシリーズ「競争女子選手権」が始まった。

近い将来、女性ドライバーが国内のみならず、世界の舞台で活躍し、モータースポーツを盛り上げる日がやってくるはずだ。そこで今回、日本人女性ドライバーの有力候補生を紹介しよう!

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池島実紅(いけじま・みく)は2017年シーズン、入門用のフォーミュラレース「FⅠA-F4」、TOYOTA86及びSUBARU BRZのワンメイクレース「86/BRZ Race」、今年から新たに始まった女性限定プロレースシリーズ「競争女子」の3つのカテゴリーに参戦している。

現在20歳の彼女は普段、レーシングカーのメンテナンス会社に勤務し、事務作業やレーシングチームのマネージャーなどの業務を行なっている。そして仕事の合間にはトレーニングに取り組むという、まさにレース漬けの毎日を送る。

彼女の夢は「ダニカ・パトリックのような世界の舞台で活躍するドライバーになること」。ダニカ・パトリックは女性レーシングドライバーの第一人者だ。全米で人気ナンバー1のモータースポーツNASCAR(ナスカー)や北米最高峰のフォーミュラレース、インディカーなどアメリカンモータースポーツの頂点で戦ってきた。

2008年にはツインリンクもてぎで開催されたインディカーシリーズ「インディジャパン300」で優勝。これはインディカーシリーズ史上初の女性ドライバーとしての勝利という快挙だった。

池島が憧れているダニカ・パトリック(写真提供/ホンダ)

しかも、彼女は雑誌のグラビアを飾るような美しさで世界中のファンに愛されている。速さと美しさを兼ね備えたダニカ・パトリックのようなドライバーになることを夢見て、池島は走り続けている。

「お父さんがクルマを乗るのもいじるのも好きだったこともあり、10歳の頃にレーシングカートを父と一緒に始めました。といっても、父は私じゃなく、ふたりの弟たちにカートをやらせたかったんです。

私自身、カート場に行った時はそれほど興味がなくて、コースで走っても弟たちのほうが速かった。でも負けず嫌いな性質で(笑)、『ただただ弟に勝ちたい』という思いでカートを続けていました。

今、ふたりの弟たち(16歳と18歳)はレースに関わっていませんが、私のことを応援してくれています。上の弟はクルマには興味があり、「いつかエンジニアになって、お姉ちゃんと一緒にレースをしたい」と言ってくれています。だから姉として頑張らないといけません!

13歳でカートの全日本選手権に参戦し始め、その頃から将来はプロのレーサーになることだけを考えてきました。実はレースだけでなく空手もやっていましたが、両方をやっていても、きっとどちらも中途半端になってしまう。そう思って、レースに専念することを決めました。

レーシングカーに乗っている時は楽しいです。周回を重ねるごとにコツをつかんで速くなっていくのが面白いんです。もちろん怖さを感じることもありますが、スピードに対してではなく、クラッシュしているマシンを見た時です。

今シーズンの目標は、競争女子でチャンピオンになること

たとえばF4のマシンで富士スピードウェイを走る時には230キロ以上出ると思いますが、全く平気です。でも誰かがクラッシュしているのを見ると急に怖くなってしまうこともあります。でも自分のクラッシュは意外と平気だったりして(笑)。

カート時代には何度か大きなアクシデントを経験して、マシンが頭の上を飛び越えていったこともありました。あとマシンに腕を轢(ひ)かれて腕の骨を折ったこともありましたね。

そんな大変なことがレースではいろいろありますし、競争相手からのプレッシャーもありますが、走るのがイヤになったことは一度もないです。サーキットに行けば、新たな発見がいろいろあって楽しくなります。

2017年はFⅠA-F4、86/BRZ Race、競争女子の3つのカテゴリーに出場するので忙しい日々を送っていますが、レース出場のない日が長くなってしまうと、逆にレースの時に緊張してしまうんです。だから、これぐらいのスケジュールがちょうどいいですね。

今シーズンの目標は、競争女子でチャンピオンになること。開幕戦は4位だったので、残りの2戦で優勝を目指しています。F4に関しては、フル参戦はできないので、テスト走行にできるだけ参加して経験を積むことが目標です。F4で結果を残すのは来年以降だと思っています。

これまでF4での最高位は11位で、もう少しで入賞に手が届きそうなんです。でも毎戦30台ぐらいエントリーがあり、予選は大混戦です。本当に僅かなタイム差で順位を大きく落としてしまいます。

F4のマシンを普通に走らせる分には体力的に問題ないのですが、やっぱりフォーミュラカーを速く走らせるためにはどうしても筋力や瞬発力が必要になります。トレーニングはしていますが、そこはどうしても男性に負けてしまうので、どこで補うのか…それが課題のひとつです。

でも結局のところ、私自身にまだまだ速さが足りないんです。とにかく走り込んで経験を積んで、ドライビングの引き出しを増やすことが最大の課題です。

将来はプロのドライバーとなり、日本のトップカテゴリー、スーパーフォーミュラとスーパーGTに出場したいです。そして最終的にはダニカ・パトリックのような世界のトップカテゴリーで活躍できる女性ドライバーになりたい。

彼女のFacebookをいつもチェックしていますが、トレーニングや食事などにも細かく気を配っていますし、努力がハンパないんです。とても刺激を受けています」

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●池島実紅(いけじま・みく)1997年1月29日生まれ。神奈川県出身。10歳でレーシングカートを始め、3年前から4輪レースに参戦を開始。今シーズンはレーシングチームでマネージャーをしながら入門用のフォーミュラレースFIA-F4(スポット参戦)、86/BRZ Race、競争女子の3つのカテゴリーに出場する

(取材・文/川原田 剛 撮影/樋口 涼)