W杯予選最大のヤマ場となるオーストラリア戦について語った宮澤ミシェル氏

サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第10回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど、日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回は、残り2試合で佳境をむかえるW杯最終予選を前に、日本が対戦するオーストラリア代表を分析してもらった。

*****

いよいよ日本代表は8月31日のW杯アジア最終予選でオーストラリア代表と対戦する。この一戦の持つ意味はとてつもなく大きい。

日本代表は残り2試合で勝ち点3を積み重ねれば出場権獲得が決まる。ただし、ホームの埼玉スタジアムでオーストラリアを破って出場権の獲得を決めないと、次に控えるアウェーでのサウジアラビア戦(9月5日)は一気に苦しい状況に追い込まれてしまう。

オーストラリア代表とは、去年11月にオーストラリアのホームで戦って1対1の引き分けだったが、今年6月のコンフェデレーションズカップを現地で取材した時には、オーストラリアは間違いなく1年前から進化していた。

コンフェデ杯でオーストラリア代表はグループリーグでドイツ、カメルーン、チリと対戦して0勝2分1敗。優勝したドイツには2−3で敗れたものの粘り強く戦っていたし、準優勝したチリにも一歩も引かない戦いをしていた。

チリ戦に先発出場して代表出場100試合となったオーストラリア代表の37歳の大ベテランFW、ティム・ケーヒルが、試合前日に会見で語っていたことが印象的だった。

「オーストラリア代表はフィジカル中心からタクティクスを生かすスタイルに変わってきた。この試みには賛同しているし、明日のチリ戦もこれまでとは違ったオーストラリアが見られて、面白いゲームになるよ」

その言葉通り、チリ戦でのオーストラリア代表は、これまで我々が見てきたフィジカル重視というチームカラーからは大きく変貌していた。

新たなメンバーを6人くらい起用し、戦い方も前線から激しく相手ボールホルダーをチェイスしながらパスコースを限定して中盤で奪う。そして一気に相手ゴールへと攻め込む。縦への推進力がとてつもなく大きかったね。

パスをつなぎながら攻撃を組み立てていくチリ代表が何度もボールを奪われて反撃を受けたのを見て、日本代表も前線からの守備にハマったらやられる可能性は高いという印象を受けた。

一方、ケーヒルがチリ代表のアレクシス・サンチェスをタックルでふっ飛ばすシーンもあった。こうしたこれまで通りのフィジカル勝負、パワー勝負の特長もチームには残っている。もう厄介なこと極まりない。

オーストラリアは世代交代も進めている

コンフェデ杯でのシステムは3−4−3で、1トップのトミ・ユリッチは身長190cmほどの長身FWで、2シャドーの右にロビー・クルーズ、左にアシズ・ベヒッチかブラッド・スミスが入っていた。ボランチにはイングランドでプレーしているジャクソン・アーヴァインやマッシモ・ルオンゴ。

ケーヒルは37歳と大ベテランだが、他の選手たちはまだ若い。サッカーのスタイルを切り替えているだけではなく、選手の世代交代も同時に進めているということだ。

攻撃は速く攻めるだけではなく、中盤で短いパスをつなぐこともできる。チリ戦ではボランチのルオンゴが機能していたし、アーヴァインのところでボールが収まって、明らかに以前までのパワー一辺倒のオーストラリア代表とは違うスタイルのサッカーだ。

特に左のブラッド・スミスのアーリークロスには警戒が必要だ。独特のタイミングで放り込んできて、チリやドイツを相手に何度も「あわや」というチャンスを作っていた。

日本代表が攻撃する時はオーストラリア代表の守備はボールに届く範囲が広いことを念頭に置いて、横パスを奪われないように注意しながら攻めないといけない。相手の守備ブロックの外側でパスをつなぎながら、相手をいなしてチャンスを見いだしたい。

それから、すべての攻撃でゴールに向かうと体力的にも厳しくなるから、ダメもとでパスをする「捨てボール」も大切になってくる。オーストラリア代表の3バックにそこまでの速さはないから、相手の裏を突くパスでじわじわ圧力をかけていくことも考えるべきだろう。たとえパスがつながらなくても、それを繰り返すことで相手の体力を奪えるし、オーストラリアのDFラインがじりじり下がっていく可能性も十分ある。

ロシアで開催されたコンフェデ杯は、気温24度ほど。サッカーに最適な気温だったけれど、8月31日の埼玉スタジアムは日本の真夏でロシアのような涼しい環境は望めない。だから、オーストラリアも前線から激しくチェイスしてくる戦い方はしてこないと私は予想している。

暑さに関していえば、日本代表もヨーロッパ組が多いので日本が有利ということはない。気候を味方にするのなら、暑さに慣れていて走れるJリーグ組を起用したほうがいいと思うけれど、ハリルホジッチ監督がその決断ができるかどうかに注目したい。

何はともあれ、日本代表は綺麗なサッカーで勝とうとしないことだと思う。これが一番大事。泥臭く走って走って、全員で汗をかいてガムシャラにゴールを狙い、守り切る。そして、6大会連続でのW杯の出場を決めてくれ!

(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)

■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。