6本塁打を放ち、32年ぶりに清原の記録を更新した広陵の中村

春夏通じて初出場の甲子園でいきなり6本塁打を放ち、あのPL学園・清原和博の記録を32年ぶりに更新! 突如、ドラフトの目玉に躍り出た「怪物捕手」の原点を探るべく、地元・広島のゆかりの人々を訪ねた。

■「ゴロを打つな、フライを打て!」

広島県西部の瀬戸内海に面した港町。世界文化遺産・厳島(いつくしま)神社があることで有名な廿日市(はつかいち)市に、中村奨成は母、妹、祖父、祖母との5人暮らしで育った。

“しょうくん”と呼ばれた中村少年が母親の啓子さんに連れられ、軟式少年野球チーム「大野友星」の門を叩いたのは小学校に入学したばかりの頃。野本賢治監督は当時をこうふり返る。

「足は速いほうでしたが、最初は体が特別大きいわけでもなく、あまり目立ちませんでしたね。低学年の頃、コーチから『監督、また奨成が来てません』と何度か報告を受けたのを覚えてます(笑)。どっちかというと甘えん坊なところがあったのかな」

しかし、5年生頃からぐんぐん体が大きくなると、中村は強打・好守の捕手として頭角を現した。興味深いのは、現在の「怪物」の原点となるような大野友星の指導方針だ。

「うちのチームの方針は、とにかく目いっぱいバットを振る。そしてゴロではなく、フライを打つ。できるだけ遠くに飛ばす。キャッチャーフライでもOKです。フライはフライ、ホームランと紙一重ですから」(野本氏)

打ち上げるよりもゴロを転がし、相手のエラーを誘いながら足を使って点を取るーーそんな少年野球の“定石”とはまったく違う野球だ。

「投手と打者、一対一の勝負に勝つことが野球の原点。そこで緩く当ててゴロを打っていたら勝負になりません。小学生のうちに思いきりフルスイングして打つことを覚えないと。

奨成は、やっぱり一番飛ばしてましたね。当時のスイングと、甲子園でホームランを打ったときのスイングの軌道は変わりませんよ。まあ、今は構えこそ巨人の坂本(勇人[はやと])選手をマネしたような形になってますけど(笑)」(野本氏)

この夏、甲子園で見せた迷いのないスイングは、そんな少年時代の教えがあったからこそ生まれたのかもしれない。小学6年時の成績は47試合で打率.412、11本塁打、33盗塁。もちろんすべてチームトップだ。

◆『週刊プレイボーイ』37号(8月28日発売)「広陵・中村奨成 恩師たちが語る『怪物』成長の軌跡」では、恩人が語る中村の素顔や「大阪桐蔭vs仙台育英」の試合後など甲子園の裏話が盛りだくさん! こちらもお読みください。

(取材・文/ボールルーム)