数々の波乱が起きた今年の甲子園

 

今年の主役ともされた清宮幸太郎(早実)不在で盛り上がりが心配された夏の甲子園だが、新怪物・中村奨成の出現というニューヒーローの出現が話題をさらった。

 

その中村を擁する広陵を破って、埼玉県勢として初めて頂点に立ったのが強力打線の花咲徳栄。大会新記録となる68本のホームランが乱れ飛んだ今大会だが、直前予想で展望座談会に参加した取材記者3人が波乱続きのこの夏を数々の予想外れの反省を込めて総括。

大会を振り返った前編「全試合、継投パターンを貫いた花咲徳栄・岩井監督がすごい」に続き、後編では注目された選手たちの評価についてお送りする!

 

=スポーツ紙アマチュア担当記者、=高校野球ライター、=高校野球専門誌編集者

 

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 どのメディアも「清宮、清宮」で売ってきたから、早実が予選で敗退した時には目の前が真っ暗になったものだけど、ニュースター・中村奨成(広陵)の出現で救われたな。

 清原和博の持つ1大会最多5本塁打を準決勝であっさり更新してしまいましたからね。清原の記録は高校野球における“聖域”だと思っていたので、タイ記録の時も、続く打席での新記録となった一発も観ていて鳥肌が立ちました。NHKがちょうどニュースで新記録の打席を放送できず苦情が殺到したそうですが、視聴者の気持ちはよくわかります。

 元々、肩の強さとスローイングは超高校級という評価がありました。特に二塁送球タイムの1・85秒というのはプロでも2秒を切ったら「かなり速い」と言われる中で「スーパー」より上の「ハイパー」クラスの強肩です。家庭環境的にも完全なプロ希望だから、ドラフト2、3巡目くらいで指名を考えていた球団は多かったようですが、これはもう1位競合が避けられない状況になりました。ただ、あのバッティングはちょっと出来過ぎだった気もするけど…。

 確かに。高校生では「スラッガー」と言っていいレベルなんだけど、ホームラン記録を塗り替えるような、そういうタイプのバッターじゃない。もちろん、ああいう注目される場所で結果を出す、打てるというのはスターになる条件ではあるんだけど。

 われわれメディアがこうやって活躍した選手を持て囃(はや)すのは仕方ないのですが(苦笑)、すぐに「怪物」と表現を使うのにはいささか抵抗がありますね。甲子園でそう称された選手って、清原和博とか江川卓とか松坂大輔(ソフトバンク)とか、もっととんでもない選手だった気がするんです。最近で言ったら、大阪桐蔭時代の平田良介(中日)や中田翔(日本ハム)、それこそ清宮と比較しても、今の中村に彼らを上回るようなスケールを感じるか?と聞かれたら「はい」とは言えないですね。むしろ、高校時代の谷繁元信と比較してどちらが上だ?くらいな視点のほうが、彼の将来性を冷静に考えられると思うのですが。

 中村個人の評価はともかくとして、今大会のホームラン量産についてはちょっと首を傾げたくなりますね。ネット裏で「飛ぶボールを使ってるんじゃないか」という声が挙がっていたけど、あながち否定もしきれない。「打撃技術の向上」なんてもっともらしく指摘する人もいるけど、それなら毎年少しずつ数字が上昇していってもいいのに、ここ何年も30本台だったものが急に倍増なんてちょっと不自然でしょう。

 中村を筆頭に1試合2本塁打を記録する打者が何人も出たけど、下位打線でもというのはな…。清宮の出場を見越して、ホームラン記録で盛り上げるよう飛ぶボールを導入したのか?なんて勘繰っちゃう声もあった(笑)。こればかりは来年以降の記録の推移を見なければ判断できないが。まぁ展望座談会でも話題になったように今年は好投手が少ない「打高投低」だったことは間違いない。

 でも、そんなに投手が落ちるかといったら、そうとも言い切れませんよ。スピードガンで140㎞以上を計測した投手が20人以上いるんですから。以前なら、1大会で10人足らずでしょう。また今年の特徴として、強豪チームには140㎞を投げる投手が当たり前のように複数いました。プロのスカウトがもっとも高い評価をしていたのが、初戦からコンスタントに140㎞台後半を計測していた前橋育英のエース・皆川喬涼(きょうすけ)でしたが、リリーフで出てきて193cmの長身から144kmを記録した根岸崇裕も含め、4人の140km台を投げる投手が注目を集めました。

 優勝した花咲徳栄は今大会で唯一150㎞を計測したエース・清水達也をリリーフに回し、スケールでは清水に劣るが安定感のある綱脇彗(つなわき・すい)が先発で試合を組み立てていた。他校から見たら贅沢な布陣ですよ。準優勝の広陵にしても左腕エース・平元銀次郎が注目されていましたが、予選ではあまり登板がなかった2年生右腕の森悠祐が平元を上回る147kmを叩き出して、スカウト陣は「来年が楽しみ」と声を揃えていました。

ミレニアムな100回大会は逸材揃い!

 まぁそんなこと言ったら、大阪桐蔭のブルペンには140km投げるのが20人くらいいるんだろうけどな(笑)。

 それでもやはり徳山壮磨が絶対的なエースでしたね。140km台前半でもボールを低めに集められる安定した制球力があるから安心して試合を任せられる。現状でもドラフト指名の可能性は高いでしょうけど、下位指名で行くよりも大学か社会人でパワーアップして、4年後の1位指名を目指したほうが良いような気もします。

 新チームでは誰が1番を背負うんだろうな? 仙台育英戦で敗れはしたがMAX147kmの力強いボールを投げていた2年生の柿木蓮(かきぎ・れん)が中心になるとは思うが。

 2年生はスーパースター軍団ですからね。この夏は外野に入った根尾昴(あきら)にしても140km台後半を平気で投げます。よそに行ったら間違いなくエースで4番です。ああいう悔しい負け方をして、1番打者の藤原恭大(きょうた)や一塁手の中川卓也といった主力の2年生たちは心中期するところがあるはず。まだ気が早いですが、来年の第100回大会で優勝に一番近いチームであることは間違いありませんね。

 「東の横綱」横浜もチームの中心だったプロ注目の増田珠(しゅう)外野手や主将の福永奨捕手といった3年生が抜けて、どんなチームになるのか。この夏を経験した長南有航(ちょうなん・ゆうこう)、万波中正(まんなみ・ちゅうせい)の両外野手、中学日本代表の1年生左腕・及川雅貴といった逸材が成長すれば、メンバー的には大阪桐蔭と遜色ないですからね。

 その他にも、山田龍聖(高岡商)、戸郷翔征(とごう・しょうせい、聖心ウルスラ学園)、鈴木裕太(日本文理)といった2年生投手の名前をスカウトたちは挙げてましたね。

 今大会に出場していない学校も含めて、強豪校と呼ばれるチームは当然100回記念大会を意識して、2年生はどこも逸材揃いのはずだよ。

C 僕がひそかに注目しているのが興南です。この夏は智辯和歌山の前に初戦で敗れましたが1年生左腕・宮城大弥(ひろや)、やはり1年生でセカンドを守る根路銘太希(ねろめ・たいき)と明らかに先を見越したチームであることがわかりました。島袋洋奨(ソフトバンク)を擁して春夏連覇を達成した時も、彼らの代が2年生の時には甲子園で初戦敗退していましたが、あの時とイメージが重なるんです。

 あとは、横浜の増田もそうだが大会前から注目されていた山下輝(ひかる、木更津総合)、川端健斗(秀岳館)の両左腕や148kmを計測した坂口皓亮(こうすけ、北海)なんかはチームが早くに負けてしまったけど、もう少し見てみたかった選手だな。

 最後に、私学優位の高校野球の流れの中で公立高校として唯一ベスト8に勝ち残った三本松の健闘も評価に値すると思いますが、原動力になっていたのがエース・佐藤圭悟と主将の渡辺裕貴捕手のバッテリー。佐藤はそこそこ球威もありましたが、考えた配球をしているなという印象でした。スライダーやチェンジアップと球種も多く、6月の招待試合で強力打線の早実に完封勝ちしたのはダテじゃなかったなと。私学の強豪校の選手層の厚さを見るにつけ、今の時代、公立校は甲子園への出場はおろか勝ち進むことは非常にハードルが高いと思いますが、何か戦い方のヒントになった面はあると思っています。